『ムーンライト』監督最新作、主人公の父親役俳優が撮影秘話を明かす
第89回アカデミー賞作品賞を受賞した映画『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督が手掛けた新作『ビール・ストリートの恋人たち』(2月22日 日本公開)について、黒人演技派俳優のコールマン・ドミンゴが、1月22日(現地時間)、ニューヨークのAOL開催イベントで語った。
本作は、黒人作家ジェイムズ・ボールドウィンの同名小説を基に映画化。1970年代のニューヨーク・ハーレムに生きる若い黒人カップルの愛と信念をつづった作品。19歳のティシュ(キキ・レイン)と22歳の婚約者フォニー(ステファン・ジェームズ)は、幸せな生活を送っていたある日、フォニーが無実のレイプ容疑で逮捕される。投獄後、ティシュの妊娠が判明。彼女は誕生する子供のために、家族と弁護士のサポートを受け、フォニーの無実を証明するために奔走する。ティシュの母親シャロンを演じたレジーナ・キングが、本年度アカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。コールマンはティシュの父親ジョセフを演じた。
ジョセフのキャラクターについて、コールマンは「彼は僕の兄弟や義父のようにごく普通の男だが、人としての気品やユーモアを基盤に、特別なことをする人物でもあるんだ。そんなごく普通の黒人の主な目標は、家族にとって(衣食の)供給者になることで、与えられた環境の中で、できる限りのことをすることなんだ。僕の義父は、小学3年生ぐらいの教育しか受けていなかったが、(母と再婚した際に)自分の子供ではなかった3人の子供を育てることになった。彼は僕にとってはスーパーヒーローの一人だよ。彼のおかげで僕は大学に行けたし、いつもテーブルに食事があった。義父はブルーカラーの出身だが、それでも僕は何もかも与えられている気がしたんだ。ジョセフは、そんなごく普通の黒人が表現されたキャラクターなんだ」と説明した。
家族に対してはとても寛大で、優しく、愛情深くあるジョセフ。ボールドウィンが書く(男性の)キャラクターには、そういった多くの複雑な要素が盛り込まれているとコールマンは語る。「ボールドウィンが書いた内容で僕が気に入っているのは、ジョセフがシャロンに求婚するところで、彼は彼女を離さずに求婚し続けたんだ。それは、ジョセフがどんな人物であったか理解する上で、一つの鍵となったね。加えて、ジョセフにはユーモアがある。例えばティシュが妊娠していることを両親に明かすシーンで、普通ならば、親は厳しいリアクションをして、家から追い出したりするが、彼はたくさんの愛情を持ってティシュに接するんだ。そんな愛情は僕にも理解できたよ。ジョセフは、たとえその時点でティシュの心情を理解できなかったとしても、娘を愛するために距離を縮めようとするんだ」劇中でジョセフは、ごく普通の黒人男性として描かれているが、一方で家族にとっては特別な存在でもあるのだ。
アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたレジーナとの共演については「レジーナとは、これまで数回すれ違ったくらいだったんだ。でも、初めての脚本の読み合わせで、彼女はいきなり『やぁ、ご主人様』と僕を呼んだんだ。僕も彼女に合わせて『やぁ、奥様』と返したよ。すぐに意気投合したんだ。僕らはいかに夫婦を演じるかはあえて語らず、愛情深くお互いの胸に飛び込んでいくような感覚で演じていたよ。劇中、ティシュの家族とフォニーの家族が対面するシーンで、彼ら待っている間に僕らは踊っているのだけど、それは家族みんなの即興の演技だったんだ」と振り返り、チームワークの良さをうかがわせた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)