「あなたの番です」怪演で話題!奈緒“尾野ちゃん”反響は「大きな励み」
話題のドラマ「あなたの番です」でストーカー気質の危険な女“尾野ちゃん”を怪演し、一躍注目を浴びた女優の奈緒(24)。11月30日に公開される映画初主演作『ハルカの陶』では、備前焼に魅せられた等身大の女性を真摯に演じ、つい1か月前、視聴者を震え上がらせた同一人物とは思えぬハツラツとした姿を見せている。「尾野ちゃん役の反響は大きな励み」と語る奈緒が、初主演作に込めた思いと共に、予想もしなかった自身を取り巻く環境の変化について胸の内を明かした。
人生を180度変えてしまう衝撃的な出会い
本作は、第13回岡山芸術文化賞功労賞受賞の同名コミックを映画化した感動ドラマ。東京で平凡な日々を送っていたOL・小山はるか(奈緒)はある日、デパートの展示場で偶然目にした“備前焼”の大皿に魅せられ、岡山県備前市に住む作者・修(平山浩行)に弟子入りを直訴。何度も門前払いを受けるが、人間国宝の陶人(笹野高史)の後押しもあり、なんとか修行見習いとして第一歩を踏み出す。
人生を180度変えてしまう衝撃的な出会い。主人公・はるかは、備前焼の独創的な美しさに心を奪われ虜となるが、奈緒自身も彼女と同様の出来事を経験し、女優という道に導かれたと述懐する。「小さいころから絵を描くことが大好きで、中学も美術部に所属し、将来は美大に行くものと思っていました。そんなある日、わたしの描いた絵があるコンクールで入選したので展示場へ観に行ったのですが、そこで大賞作品のすごさに圧倒されてしまったんです。あまりにも素晴らしい色使いに、悔し涙があふれてきて……。その瞬間、絵を仕事にすることは、わたしには無理と決断させるほど、ショッキングな出会いでした」。
親の反対を押し切って福岡から上京
小さいころからの夢を打ち砕かれた奈緒は、高校生のときに地元・福岡でスカウトされたのを機に芸能活動を開始。演技のワークショップに参加したことから、演じることの楽しさを知り、次第に役者の仕事にのめり込んでいく。「まさに、はるかが備前焼と出会ったときと同じような心境でしたね。絵を諦めた反動もあったかもしれませんが、『これを絶対に離しちゃいけない!』っていう思いがとても強かったです」。
その後、親の反対を押し切って福岡から上京。1年間、女優として全く芽が出ず、時間だけを持て余す日々が続くが、偶然読んだ脚本家・野島伸司のインタビュー記事に共感した奈緒は、同氏が総合監修を務めるアクターズスクールの門を叩くことに。まるで修とはるかの出会いを地で行く物語。そこから奈緒は、着実に女優の道を歩み始め、日々のたゆまぬ努力が、やがて“尾野ちゃん”という強烈なキャラクター誕生につながっていくのだ。
“尾野ちゃん”への感謝
映画の撮影が行われたのは、約1年前。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(永野芽郁演じるヒロインの幼なじみ・菜生役で出演)の放送がちょうど終わったころ。「この作品を撮影していたときは、はるか役と備前焼のことで頭がいっぱいで、まさか1年後、尾野ちゃん役でこんなに注目されているなんて思ってもみなかった。人生、何が起こるかわからないなって、心から思いましたね」と驚きの表情を浮かべる。
完成試写会で1年ぶりに再会したスタッフ、キャストの面々からも、「まさか尾野ちゃんみたいな役をやるなんて、誰も想像してなかったよ」と声をかけられたという奈緒。「皆さん、楽しんでドラマを観てくださっていたんだなと思うと、なんだかうれしくて。久々に会った友だちからも、『奈緒にもあんな一面があったんだ』って驚かれたり、初対面の方から『本当はどんな人なんだろう?』って怖がられたり(笑)。役の影響って本当に大きいんだなとあらためて実感しましたね」。
ただ、尾野ちゃんのイメージがあまりにも強いことに不安はないのだろうか? これに対して奈緒は「街で『尾野ちゃん!』と声をかけてくださる方もいますし、“尾野ちゃん宛”に手紙をくださる方もいる。わたしのほかの作品を観た方から、『尾野ちゃんを演じた女優さんと同じ人だとは思わなかった』という方もいて、そういう現象が起きていること自体、役者としてありがたいこと。視聴者の皆さんに育てていただいた役なので、不安よりも感謝でいっぱいです」と思いを込める。
「尾野ちゃん役の反響は、わたしにとって大きな励み。また違う役で、愛されたり、怖がられたり、何か一つ、ご覧になる方の1日に影響を与えられたら」。おっとりとした語り口の中に芯の強さをのぞかせながら、女優としての新たな意欲を見せていた。(取材・文:坂田正樹)
映画『ハルカの陶』は10月25日よりイオンシネマ岡山にて先行公開、11月30日よりユーロスペースほか全国公開