「鬼滅の刃」声優・花江夏樹、炭治郎との出会いは「幸せ」
吾峠呼世晴による人気漫画を原作としたアニメ「鬼滅の刃」が、大ヒットを遂げている。なんといっても、どこまでも真っ直ぐで優しい主人公の少年・炭治郎が魅力的で、彼の一挙一動が見る者の心を鷲掴みにしている。炭治郎を演じる声優の花江夏樹は「炭治郎を見ていると、『自分ももうちょっと頑張ってみよう』『この頑張りじゃ、まだ足りないぞ』という気持ちになる。たくさんの力をもらっています」と告白。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開を前に、「今までの積み重ねが炭治郎へとつながった」という花江が、炭治郎と出会えた喜びやこれまでの道のりについて明かした。
『無限列車編』のアフレコは「死ななくてよかった」
家族を鬼に殺された少年・炭治郎が、鬼に変貌した妹を人間に戻すために鬼殺隊に入り、“鬼狩り”の道を進む姿を描く本シリーズ。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、2019年4月よりスタートしたテレビアニメから続く物語となり、蝶屋敷での修業を終えた炭治郎たちが、次なる任務の地“無限列車”で繰り広げる死闘をつづる。
壮絶な鬼との戦い、そこから浮かび上がる人間模様も実にドラマチックだ。「『無限列車編』は原作を読んでいた時から、早く演じたいと思うシーンがたくさんあった」という花江は、「すべてを出し切りました。ずっと叫びっぱなしでしたし、どのシーンも気が抜けず、常に『これが炭治郎たちの最後になるかもしれない』という緊張感の中で演じていました。互いが互いを刺激して、それがどんどん伝染して、相乗効果が生まれるような現場」と熱のこもったアフレコを述懐する。
アフレコが終わった瞬間は「死ななくてよかった」と思ったほどで、限界まで突き進むことができた原動力について「とにかく原作が大好きだからです。好きだからこそ、自分としてもたくさんのこだわりがありました」と力強く語る。
「頑張れ炭治郎、頑張れ!」名セリフがくれた力
妹・禰豆子のために戦う炭治郎は、仲間思いで、敵であるはずの鬼にも愛情を傾けるような、心優しい少年。テレビアニメのスタート前にオーディションで炭治郎役を勝ち取った花江は、「命のやり取りがテーマになっているので、すべてにおいて全力で演じないとリアリティーが出ないと思っていました」と全身全霊で挑む覚悟をしたと語る。
演じる上で最も大切にしているのは、「炭治郎の“家族や人を思う気持ち”」。「炭治郎はいつも素直で明るく、そして人を思いやることのできる少年。だからこそ、誰もが炭治郎を応援したくなるんだと思います」と分析する。「演じていくなかで、『やっぱり炭治郎って最高だな』と思わされたセリフやシーンも、数え切れないほどある。特に禰豆子との絆が発揮されるシーンは大好き」なのだとか。
花江自身も「炭治郎に励まされている」と、彼からたくさんの影響を受けている。テレビアニメ12話では、骨を折り、苦しさに耐えながら鬼と戦う炭治郎が、「頑張れ炭治郎、頑張れ!」と自身を鼓舞する一幕があった。花江は「『頑張れ炭治郎、頑張れ!』というあのシーン、筋トレをしているときなんかによく思い出すんですよ」と笑い、「炭治郎はくじけそうになっても、前向きで、絶対に諦めない。あのシーンは、努力をした分だけ、それが自信につながっていくというシーンでもあります。炭治郎がそうやって努力をしたり、頑張っている姿を見ると、『僕ももうちょっと頑張ってみよう』とすごく励まされます」と背中を押されているという。
デビュー10周年を前に思う、声優業の喜びと継続の重み
2011年に声優デビューした花江。来年は声優生活10周年、そして年齢的にも30歳となる節目を迎える。炭治郎との出会いは「自分にとってもすごく大きなことで、幸せなこと」としみじみと語る。
作品が幅広い世代に届いていることも喜びの一つで、「『鬼滅の刃』を機に、アニメや声優について興味を持ってくれた方もいると思うので、それがすごくうれしいです。また『うちの子供が好きなんだよ』と声をかけていただくことも増え、大人だけではなく、小さなお子さんにも観ていただけているんだと感じています。僕自身、小さな頃に観ていたアニメって、大人になってもずっと覚えているんですよね。その当時『声優さんってすごい!』と憧れていた方に、大人になってからいざ会ったりすると『ああ、あの声の人だ!』と興奮したりしますから。もし自分もそういう存在になれたら、すごくうれしいです」と笑顔を見せる。
声優道を歩む上では、「いつだってプレッシャーがのしかかるし、現場に行くたびに緊張もします」と苦しみも伴うものだという。「なぜそれを乗り越えられるかというと、やっぱりこの仕事が大好きだから。それに尽きると思うんです」とキッパリ。
「僕は頭の中で思い描いていたものが、形になるという作業が大好きなんです」と続け、「鬼滅の刃」の現場はまさに“ものづくり”の醍醐味を実感できる場所なのだという。「スタッフもキャストもみんな、吾峠先生の原作が大好きで。『どうしたらこの魅力を伝えることができるだろう』と常に考えている。こういう現場にいられることは、本当に役者冥利に尽きます。すごく素敵な作品に出会えました」
“好き”という気持ちを胸に走り続けてきた10年。「今まで積み重ねてきたものが、炭治郎へとつながった」と継続の重みを噛み締める。
「まだデビューしたての頃に、結構、悩んでいた時期がありました。当時はまだ10代だったと思いますが、年齢を重ねた役や悪役など、色々なキャラクターをやってみたいなと思っていました。それを先輩の浪川大輔さんに相談したところ、『君はまだ若いんだから、等身大でいることが一番。自分ができることを極めていったら、自ずとやれることも広がってくる。自分の武器で戦えるようになったら、色々なものに目を向けたらいいんだよ』と言っていただきました。その言葉がとても胸に響いて、ひたすら目の前のことをやっていたら、色々な役をいただけるようになったんです。そうやって出会えたのが、炭治郎だと思っています」。ひたむきに、誠実に声優業と向き合ってきた花江が、全力で炭治郎に命を吹き込む。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開も、ますます楽しみになった。(取材・文・写真:成田おり枝)
映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は10月16日公開
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記