小栗旬&星野源バディの魅力 35年前の未解決事件に迫るミステリーで映画初共演
かつて日本中を震撼させた未解決事件モチーフにした塩田武士のミステリー小説を、小栗旬と星野源の共演により映画化した『罪の声』(公開中)。本作が映画初共演となる小栗、星野のコンビネーション、それぞれの魅力について、土井裕泰監督、脚本を務めた野木亜紀子の言葉を交えて分析してみた。
本作は、本当にそうだったのではないかと思わせるリアリティーをもって、未解決事件の真犯人と事件の真相に迫るミステリー。物語は、小栗演じる35年前に起き時効を迎えた劇場型犯罪の真相を追う主人公の新聞記者・阿久津と、幼少期に事件の脅迫テープに自身の声が使われていたことを知る京都在住のテーラー店主・俊也(星野)を軸に展開する。知らぬ間に犯罪に加担させられ、ある意味では被害者でもある声の主たちを巻き込んで、35年も前の事件を掘り起こすことにどんな意味があるのか? 事件の真相を巡る謎解きのほか、そんな阿久津の葛藤が原作の見どころでもあるが、映画オリジナルの一例としては、阿久津が俊也と行動を共にするシーンが増えることで“バディ”ものとしての印象が強いこと。本来、まったく接点のない2人が事件を通じて絆をはぐくんでいく過程が肝になっている。
もともと、脚本の野木は今年放送された古館寛治&滝藤賢一主演のドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」や綾野剛&星野源主演の「MIU404」などバディものを得意とするが、その野木らしさが発揮されているのが、阿久津と俊也がある人物を捜して、車で関西から中国・四国方面に向かう道中でのエピソード。野木は「二人の会話などは、自然に息をするように書いているところがあって。映画では2人の人物が主軸ということで、これはバディムービーだろうと。バディものって、短い中で二人の違いと差を見せた上でわかりあっていく過程をどう描いていくかだと思う。そこはちゃんとやろうという意識はありました」と語っている。
小栗演じる主人公・阿久津について土井監督は、「実はすごく難しい役」だと言い、その意図を以下のように話す。「彼は35年前の事件を調べるためにひたすら関係者に話を聞いていくという設定なので、彼自身のストーリーはほとんどないんですよ。いわゆるわかりやすい、芝居の見せ場みたいなものがないので、ともすれば単なるストーリーテラーで終わってしまう。にもかかわらず、完成した作品を観ると阿久津がちゃんと主役として映画の中心に立っている。本当にナチュラルな芝居を積み重ねているだけなんですけど、最初と最後の表情が全然違って、やっぱり小栗旬の存在感はすごいなと思いましたね」。野木も「小栗さんは、やりすぎない中に熱さがある感じがうまいなあと。オーバーアクトではまったくないんだけど、ちゃんと伝わる表情だったり、言い方だったり。終盤の宇崎竜童さんとのシーンも素晴らしいと思いました」と話す。
一方、星野は本作で京都弁に挑んでいるが、土井監督は彼の音へのこだわりを感じたという。「本番の前日とかに星野さんからメールがきて、『明日のここの台詞なんですけど、語尾を変えていいですか』と。ものすごく些細なことなんですけど語尾の一音が違うだけで、そのセリフが表現しているニュアンスが変わってしまうことがわかっているんですよね。それは彼がミュージシャンとして歌詞を書いたり、文筆家でもあるからこそのこだわりなのだと思います。この映画では方言のこともありましたし、セリフ一つ一つのニュアンスを丁寧に僕とすり合わせていった、そういう繊細な作業をいとわない俳優さんなんだなとあらためて思いましたた」
その星野とはドラマ「MIU404」でも組んでいる野木だが、それとはまったく異なる演技だと評する。「『MIU404』ではかなり暴れん坊なイメージで、(第1話で)まさかごみ箱を蹴るとは思わなくて驚きました。結構そういうはじけたアドリブを入れていましたね。『罪の声』はどちらかというと『逃げ恥』の平匡側。日常感というか、市井の人の雰囲気や風合いがうまくて、追い詰められていく感じが非常にうまいと思いました」
当の小栗と星野は2015年放送のドラマ「コウノドリ」で共演しているが、映画では初。これまで行われてきた本作のPRイベントによると、時折食事をする関係になったそうで、プロモーション活動を重ねながら距離を縮めた様子。小栗は、星野について「優しくて物腰が柔らかいという印象は変わらない」としつつ、自身の提案により星野が「“旬”と呼ぶようになった」とのこと。星野のラジオ番組「オールナイトニッポン」に小栗がゲスト出演した際には、星野が「あれは30代の大人がやることじゃないです」と言うほどはじけたと言い、そのラジオ番組を聞いていたという土井監督が「二人は中二みたいな感じでした。(普段との)ギャップに惹かれてしまいますよね」と話していた。(取材:天本伸一郎)