本能寺の変を前に…信長役・染谷将太、1年の大河撮影振り返る 泣くシーンでは酸欠状態に
現在放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」で織田信長を演じる染谷将太が、大一番である「本能寺の変」の撮影を前に、意気込みと1年以上に及んだ撮影を振り返った。
2019年3月にメインキャストが発表された際、大きなトピックスの一つとなったのが、織田信長を染谷が演じるというニュース。過去、ドラマや映画で信長を演じてきた俳優は、高橋英樹、渡哲也、江口洋介、舘ひろし、反町隆史など体格が良く武骨なイメージが強い。
染谷自身もオファーを受けたとき「なぜ自分なんだ」と半信半疑だったと言い、その理由について「僕は小柄ですし、ドスが利いた男でもないのに……」とやや自虐的に話す。
それでもプロデューサーや脚本家の池端俊策が目指す「新しい信長像」に惹かれ、「すごく突拍子もないが、これは正真正銘の信長だと感じました。まっとうできるかというプレッシャーはありましたが、演じられることが嬉しいという気持ちが勝った」と快諾した。
放送がスタートすると、新しい信長像にたちまち視聴者は魅了された。役づくりについて、終始一貫して染谷が意識したのが“ピュアさ”。「ピュアさと邪気は紙一重だなというのは演じていて考えました。信長自身、環境も立場も変わり、力もつけていく。そのなかで彼のピュアな部分はずっと変わらない。でも本来は変わらなければいけない。そこが危うさでもある」と分析する。
ピュアさの根幹にあるのが、承認欲求。それが最大に満たされるのが、大きな国を手に入れること。戦に勝ち、世を一つにまとめれば、多くの人たちから称賛を得られる。だから信長は戦い続ける。そんな信長を、「ずっと男の子なんです」と染谷は端的に語る。
長谷川博己演じる明智光秀(明智十兵衛)に対する信長の思いについては「ずっと好きという気持ちが強い」と持論を展開。「帰蝶(川口春奈)と十兵衛はずっと頼りになる存在だと思っている。一定の距離を保ちつつ、常に的確なアドバイスをしてくれて、言われたことをやるとすべてうまくいく。『俺も好きなんだから、お前も当然好きだろ』みたいな(笑)。信長にとっては、十兵衛がどう思っているかはどうでもいいんですよね」
これまで信長が光秀を家臣にならないかと誘う場面や、比叡山焼き討ちのとき、光秀が信長の命に逆らい女子供を逃がすなど、光秀が信長に逆らったことはしばしばあった。そんなときでも信長は激高することなく、やや寂しそうな表情を浮かべていた。染谷は「ただただ拗ねていた」というが、そんな心情も徐々に変化していき、その信長の表情が「今後の伏線になっていく」と話す。
長谷川との芝居を「安心できる」と染谷。長谷川は現場では軸となっていて、常に冷静で大局的な視点で作品を捉えていると感じているという。「見守られているという空気があるので、思い切り暴れることができるんです」と絶大なる信頼を寄せているようだ。
その一方で「一番緊張する」とも。「今後、十兵衛と対峙するシーンが多くなってきます。二人の関係性をどう表現していくかがとても重要。その意味で、毎回かなり緊張感があります。だからこそ楽しいんですけれどね」
染谷は「こんなに長い時間一つの役に取り組んだことはない。これまで経験したことないような、自分にとっては宝のような濃密な時間です」としみじみ。第31回放送の「逃げよ信長」で、金ヶ崎から撤退を決意するシーンで見せた涙に触れ「泣き始めてから泣き終わるまで一連で撮ったのですが、涙にはいくつもの感情のレイヤーがあって、カットがかかったあと酸欠になって倒れそうになったぐらい。いままで経験したことないような撮影でした」と振り返った。
クライマックスとなる「本能寺の変」では、「やってみないと分からない部分がある」と撮影前の心境を吐露すると「ある種、最初から最後まで変わらなかった人でありたい」と意気込む。そして「どんな切ない場面になるのか、楽しみにしています」と照れくさそうに語っていた。(取材・文:磯部正和)