ニコール・キッドマン、国民的スター役は「怖かった」親族からの感謝に安堵
1950年代、アメリカで大人気だったシットコム「アイ・ラブ・ルーシー」の舞台裏を、アーロン・ソーキン脚本・監督で描いた『愛すべき夫妻の秘密』。ルーシー役で国民的スターになったルシル・ボールをニコール・キッドマンが、夫のデジ・アーナズをハビエル・バルデムが、共演者のウィリアム・フローリーをJ・K・シモンズが演じ、それぞれ、アカデミー賞の主演女優賞、主演男優賞、助演男優賞にノミネートされている。先日、ロサンゼルスで行われたスクリーニングイベント内のQ&Aにニコールらが出席。役づくりの裏側を明かした。
ニコールがルシル・ボール役に起用されたというニュースが流れた際は、あまりにイメージが違うということで、インターネット上で批判の声もあがったという。「素晴らしい脚本、監督、キャストだから、ルシル・ボールを演じることにイエスと答えたの。素晴らしい機会だと思ったから。私は自分のことをググったりしないけど、その後で、私がルシルを演じるのは、支持される選択じゃないことがわかった。『うう~! 多分、間違いを犯したんだわ!』と思ったわ」とニコール。しかし、ソーキンやプロデューサー陣は「やめさせてくれなかった」とジョーク交じりに語る。
「準備にかかる時間に圧倒されたわ。この役が怖かった。でも、(夫役の)ハビエルと話すことで、2人で一緒に怖がることができた。それからは、感情面でも、技術面においても、準備に一生懸命だった。そうして、彼女を演じられるという贈り物に、とても感謝するようになったのよ」。
体を張った演技が得意だったというボールを演じるために、ニコールは、何か月もかけて彼女の動きを研究したり、ルーシー役の時よりもずっと低かったルシルの声を使い分けたりと、役づくりに没頭。その過程で、ルシルの娘ルーシー・アーナズの協力が助けになったという。
「ルーシーは、お母さんとの会話をこっそり録音した音声を送ってくれたの。そのおかげで、とてもプライベートなことまで知ることができた。彼女はとても寛大な人で、ウィッグをかぶって、お母さんの格好をして撮影現場に来たこともあった。『とっても奇妙ね』というような顔で(母親を演じる)私を見ていたわ(笑)」
完成した映画を観た際、ルーシーは、ニコールの夫キース・アーバンの隣の席で泣いていたという。「自分の両親を見た彼女が、とてもエモーショナルな反応をしていた。女優として、自分が演じた女性の娘と一緒に映画を観ることが、どれほど恐ろしいことか。でも彼女は、観た後に『サンキュー』と言ってくれた。本当に嬉しかったわ」。
一方、キューバ出身のデジを演じたハビエルは、「彼はとてもカリスマ性があって、己の信じていることのために戦う人。同時にとても愛情深くて、思いやりがある人なんだ。このキャラクターに恋してしまったよ」と満足そうに語る。デジはミュージシャンでもあり、ソーキン監督からの厳しい要求に応えながら、演奏シーンまでこなすのは大変だったようだ。「いつかドラムやボンゴを演奏してみたいと思っていたんだけど、今回それができたんだ。ギターは実際には弾いていない。アーロンがカメラ位置をうまく調整してくれたから、僕の指元が見えることはないよ。製作陣はZoomでギター指導をしようとしたんだけど、僕はもう52歳(取材時)だ。『冗談だろう?』って感じだった」。
ハリウッドにおける「赤狩り」時代、共産主義者として排除されそうになったルシルの危機的状況を背景に、公私にわたるパートナーだった夫婦の関係を、さまざまな角度から見事にとらえた今作は、何よりも究極のラブストーリーになっている。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)