真田広之、ハリウッドでアクションができなかった時期 芝居も求められる今が幸せ
『ラスト サムライ』『ウルヴァリン:SAMURAI』『モータルコンバット』など数多くのハリウッド大作に出演し、日本が誇るアクションスターとして世界で活躍する真田広之が、新作映画『ブレット・トレイン』(9月1日全国公開)を引っ提げ凱旋帰国を果たした。映画の舞台でもある日本でインタビューに応じた真田が、アクションに対する向き合い方、ハリウッドでアクションの限界に挑む現状を語った。
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作家・伊坂幸太郎のベストセラー小説をブラッド・ピット主演で実写化した『ブレット・トレイン』は、日本の超高速鉄道“ゆかり号”に偶然乗り合わせていた殺し屋たちの死闘を描くミステリーアクション。真田は、息子の復讐を止めるべく列車に乗り込む剣の達人エルダーを演じた。
■信頼する監督とのコラボレーション
本作のメガホンを取ったのは、真田が出演した『スピード・レーサー』でスタント・コーディネーター、『ウルヴァリン:SAMURAI』でセカンドユニットを務めたデヴィッド・リーチ監督。ハリウッド最高峰のスタント集団「87イレブン・アクション・デザイン」の創設メンバーで、真田とも交流が深い。
アクションにおいて最も大切な「ドラマとの融合性・必然性」を理解しているリーチ監督を、真田は「とても信頼できる人物」と高く評価する。「時として、映画の中でドラマとアクションが分離してしまうことも起こり得ます。それは一番避けなければいけないことです。ドラマの沸騰点として生まれるのがアクションであり、アクションの後に残る感情、いかにして再びドラマに着地するのか、全てがリンクしていないと、アクションシーンは浮いてしまい、全く別物になってしまいます。その点において、デヴィッドは(アクションとドラマ)両方を理解できているので、俳優として非常にやりやすいし、一言伝えるだけで全て分かってくれます」
アクションを熟知する二人だからこそ生まれるケミストリー。真田は、リーチ監督との充実した撮影の日々をにこやかに振り返る。「俳優に対しても、アイデアをオープンに受け入れてくれる。自由にやらせていただきながら、監督がピックアップして上手く組み合わせていくので、普通なら見落とすような視点やアイデア、『ここをこう切り取るのか!』というアクションを熟知した監督ならではのショットが随所に見られて、毎日のコラボレーションが非常に楽しめました」
特に印象的だったのは、エルダーが敵を斬った後に血振りをするシーン。リーチ監督は「血が飛ぶんだよね? それがブラッドの靴についたらどうなるかな?」と靴に付着する血に着目したといい、「日本人として考えたことがなかったので、非常に新鮮でした。ブラッドがいいリアクションをしてくれたおかげもあり、試写会でもお客さんは大笑い。これは海外の方ならではの視点ですよね」と真田にとっても驚きだったという。
■アクションは「言葉で解決しなくなった時に初めて生まれるもの」
真田はハリウッド進出後も、アクションと真摯に向き合い続けている。「アクションは言葉で解決しなくなった時に初めて生まれるもの」と話す真田は、アクションとの向き合い方についてこう話す。
「アクションにはバックグラウンドやその時の感情・理由があり、全てが揃わないとただの見世物になってしまう。それを踏まえた上で、アクションの振り付け、長さ、エンターテイメントとしての弾け具合を見極めます。作品によって違いはありますが、それぞれの作品やキャラクターの感情に適した動きを見せる。時として、アクションが少ない方がいい時もありますし、お客さんに思い切り楽しんでもらうために誇張する部分など、その都度、その作品が求めるところに見合ったものを考えていく。『アクションだけが先行してしまわないように』と心がけています。もう一つは、安全第一。撮影現場で自分も相手も怪我をしないように、できる限りの準備をして撮影に臨むようにしています」
■芝居とアクションを融合できる年齢に到達した
『ブレット・トレイン』はもちろん、ここ数年の真田は、己のアクションの限界を超えることができる作品と出会っている。真田のアクションを堪能できるのはファンにとっても嬉しいことだが、「ハリウッドでもある時期、いろいろと事故が相次いだ影響かもしれませんが、役者本人がアクションをやらせてもらえない時期がありました」と苦労することもあった。
「転ぶだけでも『はい、スタントマンで!』と言われることもありました。ハリウッド映画を観て育ち、いろいろなことを自分でやりたいと思って訓練してきても、それを発揮する場所がなかった。リハーサルでアクションを見せて、『日本でこれだけやってきたから、挑戦させてくれ』と頼み、少しずつやらせてもらえるようにはなってきていましたが、それでも限界がありました」と続けた真田。そんな環境を変えたのは、デヴィッド・リーチ監督や(『ジョン・ウィック』シリーズの)チャド・スタエルスキ監督ら、アクションに精通した監督の存在だったという。「彼らが監督できるようになり、訓練をした者であれば危険なくアクションができるということを積み重ねてきてくれたおかげで、今では訓練をすれば、自由にやらせてもらえるようになってきています。再び時代がやって来たなという思いです」
俳優としてアクションを学びながら「芝居とアクションを合体させて表現できるようになりたい」と目標を掲げていた真田。「遠回りしながらも、両方(芝居とアクション)を学び、やっと融合できる年齢に到達したのかもしれない。こうして立て続けにその両方を求められる役に出会えている今が幸せですし、そういう意味では、遠回りしてきたことが一つに合わさってきたなと思います」と感慨深げな表情を浮かべていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)