「美しい彼」の八木勇征にハマるワケ 抗えない魅力を分析
ドラマ・映画「美しい彼」で萩原利久とダブル主演を務めて注目を浴びる八木勇征。FANTASTICSのボーカルとしても活躍し、1st写真集「CONTACT」が発売前に重版が決定するなど、いま爆発的な人気を誇る彼の俳優としての魅力に迫る(※一部ネタバレあり。 『劇場版 美しい彼~eternal~』の詳細に触れています)。(文:牧島史佳)
八木がブレイクするきっかけとなった、凪良ゆう・著、葛西リカコ・イラストによるBL小説を実写化した「美しい彼」シリーズ。ドラマではスクールカーストの底辺にいる平良一成(萩原利久)と頂点に君臨する清居奏(八木勇征)の切なくももどかしいラブストーリーが繰り広げられ、劇場版ではその後の2人が描かれている。先日、シーズン2が「ギャラクシー賞」の「マイベストTV賞」第17回グランプリを、シーズン1に続いて受賞。続編となる『劇場版 美しい彼~eternal~』は4月7日に全国154館で封切られてから一か月で興行収入4.7億円、観客動員数33万人を突破。まだまだ大ヒット上映中で、シリーズの快進撃はとどまらない。
「キモ」の一言で巧みな感情表現
主人公である平良にふんした萩原もさることながら、“美しい彼”というプレッシャーの大きいタイトルロールを見事に演じた八木の功績も大きい。“美しい彼”にふさわしいビジュアルの説得力はもちろん、彼の演技には繰り返し観たくなる魅力がある。本シリーズの前に八木が本格的な演技を披露したのは、所属するグループFANTASTICSで出演したテレビシリーズ「マネキン・ナイト・フィーバー」(2020)と「FUN! FUN! FANTASTICS」(2021)シーズン1。俳優としてはまだキャリアが浅かったにもかかわらず、「美しい彼」でダブル主演に抜擢された。
八木が演じる清居はクラスでカリスマ的なキングではあるが、いじめっ子ではないのがポイント。視聴者にとって清居が加害者的な立場に映ってしまうと、物語自体が成立しなくなる。そこへきて八木は不遜でありながら、決して集団で攻撃はしない絶妙な“孤高の俺様”に成り切った。シリーズを貫いて登場する、平良に対する「キモ」というセリフ一つをとっても、そこに揶揄や嫌悪感を感じさせることはない。なおかつ、この2文字だけで、その時々の清居の温度感を伝えている。例えば、シーズン1・第1話の神社のシーンで平良を冷徹に突き放す「キモ」と、第6話のラストシーンの「キモ」とでは全然違う。平良が自分に向ける愛への安堵と慈しみが感じられて、ネガティブワードにもかかわらず温かさと喜びの響きがあり、そのギャップにキュンキュンさせられる。また、『劇場版 美しい彼~eternal~』で事務所の先輩女優である安奈(仁村紗和)に、平良のことを「キモいだろ?」というシーンは自慢げで、“こんなに愛されちゃっています”という隠しきれない嬉しさもにじませている。
乙女を感じさせる嫉妬心
そして、小山(高野洸)という恋敵が現れてから見せる清居の嫉妬心。平良に「あいつと俺、どっちが好きなんだよ!」(シーズン1・第4話)と詰め寄るキレ気味の怒りは、裏を返せば平良を好きな気持ちの現れだ。思わず出てしまった本音という感じが微笑ましい。
清居の嫉妬心はシーズン2で一層顕著になっていくが、その度合いが違うことを八木はうまく表現している。例えば、第1話で平良に女子が言い寄るシーン。シーズン1では平良に対する気持ちに葛藤が見えたが、シーズン2では開き直ったかのように執着心を剥き出しに。「そこいられるとトイレ行けねーんだけど!」と女子に凄みを効かせる清居は、威嚇する美猫のよう。
劇場版では、清居の「好き」がレベルアップしている様子も見て取れた。安奈に平良のことを説明していると、止まらなくなってしまうほど。我に返るとモジモジして恥じらっている清居は乙女のようで、安奈から「のろけにしか聞こえない」とツッコミを入れられている。あのキング・清居がかわいらしく見えて、恋の圧倒的なパワーを感じさせる。
泣きの演技は劇場版のクライマックスが真骨頂
そして、平良の信仰じみた盲愛の眼差しに射抜かれたはずの清居が、ファンの立場に留まり続ける平良に苛立ちを募らせていく過程も必見。平良に清居の一番のファンだと言われた清居が涙目になるシーン。八木の涙を溜めたウルウルの瞳に萌えるファンも多いのではないか。振り回していた俺様が逆に振り回されているとなればなおさらだ。
八木の泣きの演技はクライマックスで真骨頂に。自分を助けるために危機に見舞われた平良に、清居は涙を流す。それも慟哭の域に達して泣き叫ぶのだ。すました清居も美しく吸引力が高いが、平良のためになりふり構わずに感情を爆発させる清居にはグッと心を掴まれてしまう。号泣していてもずっと見ていられる美しさもまた八木の魅力でもある。
現在、八木は放送中のドラマ「ホスト相続しちゃいました」にも出演。人気ナンバーワンホストのMasatoを演じている。オラオラ系で傲慢な態度も取るが、どこか天然な匂いがしてニクめない。そんな、お茶目なかわいらしさは八木が演じてこそだろう。
他作品でも八木の違った側面を見ることができるが、できればドラマや映画など何らかの形で「美しい彼」シリーズでの八木をもっと見たいところ。まだ映像化されていないエピソードのある作品として、シリーズ3弾「悩ましい彼 美しい彼3」があるが、清居が役づくりのために20キロの増量に挑む設定のため、八木のグループ活動などへの影響を踏まえると現実的でないかもしれない。ほかの候補として、清居のファンクラブのリーダー格である“パン姐さん”が登場する「interlude 美しい彼番外編集」の「日々是災難」はどうか。続編が実現すれば、またリピート鑑賞が必須になるだろう。それほどまでの魔力があるのが「美しい彼」なのだから。