ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース、役所広司との仕事は「夢のよう」!俳優としての技量に感服
第76回カンヌ国際映画祭
現地時間25日、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作『パーフェクト・デイズ(原題) / Perfect Days』の公式上映前に、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督と役所広司らキャスト陣が取材に応じた。『パリ、テキサス』では最高賞パルムドールを手にしているヴェンダース監督が、念願だったという役所とのタッグを語った。
渋谷の公共トイレ清掃員・平山(役所)を主人公に、ヴェンダース監督が東京で撮り上げた本作。トイレ掃除に真摯に取り組み、一瞬一瞬に小さな喜びと美しさを見いだしながら生きる無口な平山を、役所が表情と佇まいで雄弁に表現している。
何度も観るほど好きだという『Shall we ダンス?』(1996)で役所の存在を知り、『うなぎ』(1997)、『バベル』(2006)を経て「いつか一緒にやれたら」と思っていたというヴェンダース監督。本作でのタッグが決まってからは他の作品も観て、役所が類まれな俳優であるとの思いを新たにしたのだという。
ヴェンダース監督は、撮影監督のフランツ・ラスティグを驚愕させたという役所のエピソードを明かす。「本作は全て手持ちカメラでの撮影だったため、彼は広司さんにとても近寄ることもあったのですが、撮影を始めて数日たって、『これまでたくさんの俳優を撮ってきたが、これは信じられない! どうして彼には僕がどこにいるかわかるんだ!?』と言ってきました」
「カメラは常に動いているわけですが、『広司さんは僕がどこにいるのか完璧に、頭の後ろに目があるんじゃないかというレベルで把握している』と感服していました。彼らは言葉なしで、密接に仕事をすることができたのです」
また、役所はシーンとシーンの“つながり”を保つことも容易にやってしまうとのこと。「彼は、多くの俳優が恐れる“連続性”の達人なんです。テイク2をやる時、またその次のテイクをやる時、ある行為を決まったリズムでやる必要があります。さらに手の位置や、どちらの手を使うとか。彼は常に完璧でした」
役所はさまざまな洗剤、道具を使うトイレ清掃のやり方もマスターし、清掃員に「明日からでもうちで働ける」と言われるまでになっていた。ヴェンダース監督は「撮影初日に彼がトイレ清掃の経験を積んでいたことが判明したんです。そんなことをしているなんて知りませんでした。彼の貢献がなければ、この映画は存在しなかったでしょう」と役所をたたえ、「広司と仕事をするのは夢のようで、これが最後になるとは思いません。ただ、今はまだあまり話さないでおきましょう(笑)」とさらなるタッグが実現する可能性をほのめかしていた。
なお、二人の関係は相思相愛だ。役所は初めて生でヴェンダース監督を見た時のことをよく覚えているという。「東京国際映画祭でスタンバイしていた時にヴィムがいて、こっちを見た気がしたんです。それで友達みんなにずっと『ヴィム・ヴェンダースと目が合った!』と話していたんですよ」と少年のように語る。「だけど本作で一緒に働くことになってヴィムに真相を聞いてみたら、『全然覚えていない』と言われました(笑)」
「今回は、(東京でのロケ撮影ということもあり)いつもの監督のスタイルではないのだと思いますけど、全て本番なんです。テストがないんです。ずーっと撮影をしていてよどみなく流れていく感じ、そこで生活をしている感じでした。ドキュメンタリーを撮っている雰囲気でもあり、それは初めての経験でした」と巨匠との初タッグを振り返った。
ちなみに、そもそも題材にした東京の公共トイレに惹かれた理由については、ヴェンダース監督はこう語っている。「目を閉じて、“人間誰しもする必要がある行為”をするところ、そしてその一番すてきなバージョンを考えると、安藤忠雄さんが設計したトイレ(神宮通公園トイレ)が思い浮かびます。映画に出てくる他のトイレもそうです。次回東京に行った時は、全部を周り、少なくとも便座に座って楽しみたいと思います。ドイツやヨーロッパでトイレに行くと気付くんです。これはわれわれの文化の一部ではないのだと。東京の素晴らしいトイレはとても人間に必要なものでありつつ、文化的で、それが好きなんです」(編集部・市川遥)
第76回カンヌ国際映画祭は現地時間27日まで開催
映画『パーフェクト・デイズ(原題)』の日本公開は未定