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『ウルトラマンアーク』辻本貴則監督が語る最終回の内幕、全25話で描いた理想のウルトラマン【総括インタビュー】

大団円のテレビシリーズ、その裏側とは?
大団円のテレビシリーズ、その裏側とは? - (c)円谷プロ

 1月18日に最終回を迎えた特撮ドラマ『ウルトラマンアーク』。劇場版『ウルトラマンアーク THE MOVIE 超次元大決戦!光と闇のアーク』の劇場公開が迫る中、テレビシリーズのメイン監督を務め、劇場版のメガホンを取った辻本貴則監督がインタビューに応じ、全25話のテレビシリーズを総括した。(以下、テレビシリーズのネタバレを含みます)

【画像】劇場版に登場!アークそっくりな謎の巨人・ギルアーク

一話完結形式への回帰

メイン監督を務めた辻本貴則

 ニュージェネレーションウルトラマンシリーズでは、2クールの短いスパンを用いて、多数の伏線を散りばめた連続形式が持ち味のひとつとなっていたが、前々作『ウルトラマンデッカー』辺りから、そうした連続形式と1話完結形式を両立させるべく模索されてきた感がある。『ウルトラマンアーク』でメイン監督を務めた辻本は「度々“原点回帰”が謳われて来たウルトラマンシリーズだけど、“原点とはなんだろう?!”と考えたときに、やっぱり1話完結の物語がフォーマットとしてあると思ったんです。基本設定さえ知っていれば、どの回を観ても楽しめる。僕が好きな第2期ウルトラはもちろん、昔のウルトラマンシリーズは全てそういう作りでした」

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 本作を俯瞰すると、「K-DAY」などシリーズを通しての縦軸はあるが、「オニキス」の名が登場する鈴木農史監督の第13話「シュウのレポート」(※但し、これは「振り返り回」と称される実質的な総集編)と、越知靖監督が撮った第23話「厄災三たび」を除けば、物語の展開を大きく左右する縦軸に関しては、全て辻本監督の担当回で処理されている。第14話で登場したヴィランのスイード(演:佐藤江梨子)も、『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』のイグニスや『ウルトラマデッカー』のアガムスなどのように、2クール目を大きく牽引する存在とはならず、登場回数は辻本監督が撮った第14・15話、第24・25話の計4話のみに限定されていた。また、ウルトラマンアークの声を演じた萩原聖人は、主人公・飛世ユウマ(演:戸塚有輝)の父親役としては同様に辻本組のみの出演となった。

 「これまでは縦軸に絡まない単発回を主にやらせてもらっていたので、今回はメイン監督として腹を括り、縦軸にしっかりと向き合おうと思いました」と辻本監督。こうしてシリーズ構成上の縦軸を辻本組に集約することで、1話完結形式のエピソードを増やすことが可能となり、以前のウルトラシリーズに近いフォーマットを実現した。

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必要に応じて“たまに喋る”…辻本監督のウルトラマン像

アークが言葉を発する回も限定的に - (c)円谷プロ

 またメイン監督に課せられる役割として、ウルトラマンを魅力的に描くことが挙げられる。当然のことと言えばそれまでであるが、ウルトラマンは怪獣とヒーローの双方に魅力があり、ある意味、人気を二分している側面もある。「僕は怪獣が好きだから、ついつい怪獣ばかり描いてしまうけど、今回はメイン監督としてウルトラマンをきちんと描くことを自分の中のテーマに据えました。真正面から取り組んだ結果、とても新鮮だったし、今振り返っても楽しかったですね」

 監督が本作で追求した「ウルトラマン像」について、もう少し詳しく訊いてみた。ニュージェネでは、饒舌にしゃべるウルトラヒーローが多く登場しており、一方で、長い歴史を振り返れば、時代によってまちまちで、ファンの間でも「しゃべらないほうが神聖な雰囲気が出る」などさまざまな意見がある。そんな中、辻本監督はこう語る。「無口なウルトラマンもいれば、人間以上に喋るウルトラマンもいるし、そこに優劣は別にないんだけど、僕にとっては、必要に応じて“たまに喋る”のがウルトラマンなんです。普段は人間味をそんなに感じさせず、 神様のような存在だけど、ごくたまに神々しい言葉を発する。それが非常に心地良かったんです」

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 また前述の発言について、辻本監督は『ウルトラマン』における初代ウルトラマン、『帰ってきたウルトラマン』におけるウルトラマンジャックを例に挙げる。いずれも、シリーズを通して両者が関係性を深めていく作劇はなされてはいなかったが、第1話や最終回などで主人公と対話する場面があった。「今回、ウルトラマンアークが言葉を発するのは、僕が担当した第1・3話、第14・15話、第24・25話のみに限定し、他の回ではアークにしゃべらせないようにしていました」。その塩梅こそが、辻本監督の追い求めるウルトラマン像であった。

怪獣の容姿が愛らしいワケ

怪獣の見た目にもこだわりが - 最終2話に登場した夢幻獣ギルバグ - (c)円谷プロ

 ウルトラマンシリーズの最終話といえば、地球規模の危機など、スケールの大きな展開が描かれることが多いが、本作ではユウマを夢で惑わせるという、マクロではなくミクロ、全体ではなく個人と、従来とは真逆とも言える展開で最終回を描き切った。

 「総力戦で立ち向かうスペクタクルは好きなんですけど、ユウマが所属するSKIPは戦わない組織なので、そういう展開が描きにくいんです。それもあって、今回は、狡猾な宇宙人が主人公の内面を抉るような話にできないか? と継田(淳/シリーズ構成・メイン脚本)さんに相談しました。そして、夢を操る怪獣が出現し、果たして目の前で描かれる事象が夢なのか? 現実なのか? と、視聴者をも戸惑わせるといった展開に着地点を見出しました」

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 そうして登場した怪獣が、夢幻獣ギルバグだ。『アーク』の怪獣といえば、第1話のシャゴンから始まり、どこか愛嬌のある容姿をしたものが多い。辻本監督はこれまでも怪獣の目を合成でせわしく瞬きさせるなど、愛らしさを感じさせる演出を行ってきたが、様々な怪獣デザイナーが参加する中、愛らしさは本作のいずれの怪獣にも通底しており、そこには辻本監督の確たる狙いがあった。

 「最近はLSS(※円谷プロ造形部「Light Sculpture Studio」)の造形技術が格段に進化していて、派手な装飾が付いていたり、細部に至るまで緻密に作り込まれているんです。それはもちろんすごいことだし、今のトレンドなんだと思うけど、自分が子どもの頃に観ていたウルトラ怪獣とは、少し外れている気がしたんです。そこはせっかくメイン監督を務める以上、統一感を持たせたいと思い、意図的に愛らしさを盛り込んでもらいました」。これには前作『ウルトラマンブレーザー』で、辻本監督自身がデザインを手がけたモグージョンでの手応えがあったそうで、「ああいうのを見ると、ちょっとホッとするんですよね。まるで実家に帰ってきたみたいな(笑)」と自らの怪獣好きの傾向を述べている。

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 また、こうしたデザインコンセプトには、他にもう一つの狙いがあった。「『ブレーザー』では多数の新規怪獣が話題となり、当然『アーク』でも踏襲したいと思いました。ただ現状では、新怪獣をたくさん出すのは、大変です。そこで、モグージョンぐらいのディティールやサイズ感に収めると、造形の手間や時間を少しでも抑える事ができるようなんです。一体でも多く新しい怪獣を出したいと思う中、そこは僕がやりたい方向性と製作規模が上手く一致した、ということです」

 『ウルトラマンギンガ』以降、ニュージェネを観続けて来た大人のファンは、製作背景を多少なりとも把握して観ているところがあるだけに、最終話で、ギルバグが倒された後にスイード星人態が登場する展開は、ある意味、二重の驚きがあったのではないかと思う。こうしたサプライズはあらゆることを上手く調整した結果、実現したものだという。

夢か? 現実か? ユウマの心を惑わせる最終回

ギルバグによる夢に翻弄されたユウマ - (c)円谷プロ

 ギルバグによる夢で幕を開けた第24話前半の演出についても訊いてみた。冒頭、これまでに倒された怪獣たちが佇む中、ウルトラマンアークが「最後は笑顔で“さよならアーク”と言ってくれないか?」とユウマに語りかける場面がある。「この黒い背景の世界は、初稿では、瓦礫の下で気を失っているシチュエーションだったけど、ずっと寝たまましゃべらせるわけにはいかないし、そこそこの分量だったので、何か違う描き方をしたい。それで一風変わった演出を思い付き、継田さんに伝えて脚本に落とし込んでもらいました」

 観続けていくと、夢だとわかるとはいえ、それまで積み上げて来た『ウルトラマンアーク』の全話を覆そうとする展開は、まるで「脱ドラマ」を思わせ、かなり尖ったな印象を覚える。「子ども番組で絶対にそんなわけはないけど、一瞬でも“え、『ウルトラマンアーク』ってそんな番組なの?”と思ってもらえればと。ここはたっぷりと時間をかけて撮影しました」と力を込める。

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 同様に驚かされたのが、幼少期のユウマの前で瓦礫に埋まった両親が、何事もなかったかのように起き上がる第25話のシーン。地面には安全面を配慮したマットが敷かれており、軽々と落ちる瓦礫も明らかに作り物だとわかる。劇中では、それもまた夢としての表現なのだが、ある意味、撮影の裏側を見せてしまうわけである。しかも、ここは第3話の回想で描かれたユウマと両親の別れをなぞって演出されているが、実はこの場面自体、第3話と同時に撮影されたものだという。

 「この時点で最終2話の脚本はできていなかったのですが、お忙しい萩原さんのスケジュールもありますし、次に撮影するとなると季節は冬になり、ロケ地も山奥なので撮影に行けなくなる可能性もありました。でも、絶対にこのシーンを撮りたいと思ったので、現場で“最終回で必ず使いますから”とペラに書いたセリフを渡して、萩原さんと、母親役の牧佳子さん、子役の立花利仁くんに演じてもらいました」

 まさにこの一連こそが、ユウマの内面を抉ってゆく場面であり、なんとしてでもユウマをウルトラマンアークに変身させたくない、というスイード側の事情を垣間見せつつも、「派手な特撮やアクションで押し通さず、いつもと違う最終回の攻め方が出来たと思っています」とその手応えを語る。

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「優しいウルトラマン」を撮り終えて

最終話で見せた“ウルトラハグ” - (c)円谷プロ

 全てを終えた今、本作のシリーズ構成を振り返ると、第14・15話でルティオンの銀河の存在、そして全ての元凶がゼ・ズーであることが明らかとなり、その姿が第24話で初めて登場した。だが、最終回でゼ・ズーとの戦いは描かれることなく物語は幕を閉じた。

 「大きく風呂敷を広げたけど、敢えて切り捨てることで保たれる世界観があったと思います。それでも『ウルトラマンアーク』の物語をきちんと完結させて、満足感を得られるものにする自信はありました。そういう意味で僕らが何を目指したかといえば、ユウマとSKIPの心の交流、そして、それぞれの立場で“相手を思いやる気持ち”なんです」

 相手を思いやる気持ちー。本作は「優しいウルトラマン」がコンセプトとして掲げられており、過度な対立や深刻な葛藤など、ドラマでよくある描き方は意図的に抑えられていた。その作品カラーは終盤に至るまで一貫しており、終盤の第24話で描かれた、いわゆる「正体バレ」においても顕著に表れていた。

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 「SKIPのヒロシ所長(演:西興一朗)が“ひょっとしてユウマは……”と言いかけるけど、最後まで言い切らないんですよね。その辺りのセリフの分量も含めて、“言わずともわかるよね”というニュアンスは、僕と継田さんが目指していたドラマの描き方なんです。ここで“ユウマはひょっとしてウルトラマンアークなんじゃないか?”と言わせたら、確かにわかりやすくなるけど、そこを敢えて言わないのがSKIPらしさ。越知靖監督が撮った第23話のユウマとシュウのやりとりも同じですね。過度にセリフで説明することはやめて、芝居や物語の展開でドラマを表現していくというスタイルを、継田さんが徹底してくれたのです」

 また、辻本監督は「言葉にし過ぎると途端にチープになってしまう」とも述べており、その匙加減を探った結果が、今回の正体バレに至る過程で、「過剰に描かず、感じ取ってもらうことこそが、『ウルトラマンアーク』で描きたかった世界観なんです」と本作に込めた思いを吐露した。(取材・文:トヨタトモヒサ)

『ウルトラマンアーク THE MOVIE 超次元大決戦!光と闇のアーク』は2月21日(金)全国公開

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