「べらぼう」鳥山検校役・市原隼人、なぜ凄い?演出・小谷高義が語る

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほかで放送中)で花魁・瀬川(小芝風花)を身請けした盲目の大富豪・鳥山検校を演じる市原隼人。目が見えていないにもかかわらず、瀬川のふとした声音などから蔦重(横浜)との深い関係も悟ってしまう鋭い洞察力を備えた男として描かれているが、その鳥山を演じる市原の魅力を演出の小谷高義が語った。
本作は、喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴、東洲斎写楽らを世に送り出し、“江戸のメディア王”として時代の寵児になった蔦屋重三郎(通称:蔦重)の生涯を描く大河ドラマ第64作。脚本を、連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013)や大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017)などの森下佳子が手がける。鳥山検校は、幕府の許しを得て高利貸しを行い、多額の資産を築いていた。当時吉原でその名を轟かせていた花魁・瀬川を莫大な金で身請けし、すべてを手に入れたかのように見えたが、妻・瀬以(瀬川)の心だけは自分のものにできず、そこに蔦重の存在を感じ取る……という役どころだ。本作で描かれる鳥山について、小谷はこう語る。
「このドラマでは、実在の人物が数多く登場していますが、鳥山もしかりで。そもそも『検校』というのは、視覚障害のある方々のトップにいる数人の1人。例えば、勝新太郎さんが演じた座頭などは映画などで多く描かれてきていますが、検校は彼らを取りまとめているポジションです。検校は指示を出す立場なので自分は動かない。そういった人をドラマでどう描くのかとなった時に(脚本の)森下(佳子)さんが凄いと思ったのは、瀬川との関係へ収斂しようとしているところでした」
そして、検校を描くにあたってポイントになったのが「音」だったという。
「この作品では、検校の金貸しとしての側面を説明する部分はあるものの、そこまであくどい仕事の部分は見せていなくて。金持ちだからきらびやかな部屋に居るという描き方もあり得たんですけど、“彼は目が見えないのだから、押し出すべきはそういうことじゃないだろう”と。そして、当時検校や座頭たちができる仕事といえば、あんまか三味線。鳥山はあんまの人のようなんですが、今回は音を敏感に感じとる部分を大切にしましょうと。僕が担当した回ですと三味線を弾いてもらったり。新田(真三)の演出回では、足音や気配を感じとるとか。その根拠となるのは音や空気の揺れだろうとかいうことを初期に市原さんにお話ししたら、丁寧に突き詰めてくださいました」
鳥山が第8回(2月23日放送)から登場するなり、その強烈な存在感や色香が注目を浴びている。小谷は自身が助監督として参加した『おんな城主 直虎』でも市原と撮影を共にしているが、本作での市原に「演出の深川(貴志)と視覚障害のある方々に取材されたり入念なアプローチをされていて、常に真摯な姿勢を崩されません。“目が見えないので基本的には人と目が合わない、だったら視線についてどう考えるのか”“この場面での視線はどこに合わせるのか”“ここは目が合う角度に顔を向けてもいいんじゃないか”といったディテールを細かく考えられている」と圧倒されている様子だ。
ところで、そもそもなぜ鳥山は身請けするほど瀬川に惹かれたのか?
「鳥山と瀬川が初めて会ったとき、吉原では初会は花魁は客と口をきいてはいけないしきたりがありますが、鳥山の心遣いに感激した瀬川は本を読み聞かせたんですよね。鳥山からすれば、他の客にはやらないことをしてくれたわけで。おそらく彼が吉原を訪れるのは初めてではなく、遊び慣れている。本来は通う花魁を変えてはいけないんだけれども、おそらく彼は金持ちだから特別に許されていて、当代一の花魁である瀬川のいる松葉屋にやってきたんだろうと。自分が嫌がられることに対しても敏感な彼が、瀬川から商売を超えた感情を感じて惹かれていったのではないかと思います」
16日放送・第11回では、蔦重が富本節のカリスマ・富本豊志太夫/午之助(寛一郎)に俄祭りに出てもらうため、浄瑠璃の元締めでもある鳥山を訪ね瀬川と再会する展開となった。鳥山は声を弾ませる瀬川に「ずいぶん楽しそうだな」と言い、瀬川の手を取った際に「脈が速い」と指摘し、蔦重への嫉妬心をのぞかせた。このシーンでの鳥山の心理を、小谷はこう分析する。
「蔦重が鳥山と対面し、名乗ったのがこの回でした。第10回で大門の入り口に瀬川を迎えにいった際にも、蔦重が近くにいたのでおそらく何者かの存在があるということは感じているはずです。鳥山にはピュアだなと思う部分もありますけど、花魁を身請けしていろいろなことが起きうることはもちろん承知の上で、瀬川にとって自分がどんな存在なのかは冷静に捉えてはいると思います。瀬川にとって全面的にウェルカムで始まる話じゃないと思っているからだんだん疑心暗鬼になるところがあるんじゃないかなと……」
瀬川の心には別の男がいることを悟ってしまった鳥山。いつの日にか、彼が瀬川の心を捉えることはできるのか。波乱含みの二人の関係が注目される。(取材・文:編集部 石井百合子)