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名優たちが火花『教皇選挙』が描く世界共通のパワーゲーム エドワード・ベルガー監督が語る製作秘話

『教皇選挙』より
『教皇選挙』より - (C) 2024 Conclave Distribution, LLC.

 映画『西部戦線異状なし』のエドワード・ベルガー監督の最新作『教皇選挙』(公開中)は、次期ローマ教皇を選ぶ“教皇選挙”という、謎に包まれた世界を舞台に、裏で起きるさまざまな陰謀や思惑を描いたミステリーだ。作品、主演男優、助演女優など、8部門で第97回アカデミー賞にノミネートされ、ピーター・ストローハン(『裏切りのサーカス』)が脚色賞を受賞した本作の製作の裏側を、全米公開前にベルガー監督が単独インタビューで語った。

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 ローマ教皇の死去に伴い、ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は、世界各国から100人以上の枢機卿団を招集した「教皇選挙」を取り仕切ることになる。主な候補者は、カナダ、モントリオール教区の穏健保守派トランブレ(ジョン・リスゴー)、米国出身でバチカン教区のリベラル派ベリーニ(スタンリー・トゥッチ)、初のアフリカ系教皇の座を狙うナイジェリア教区のアデイエミ(ルシアン・ムサマティ)、ベネチア教区伝統主義の保守派のテデスコ(セルジオ・カステリット)らで、ローレンス自身も候補者の一人だった。そこに、任命されたばかりのメキシコ出身、カブール教区のベニテス(カルロス・ディエス)が選挙直前に到着する。票が割れる中、水面下では候補者の間で熾烈な争いが起きており、不正やスキャンダルが次々と露呈するなか、物語は驚きの結末を迎えることになる。
 
 ベルガー監督は、ロバート・ハリスの原作を脚色した、ストラーハンの脚本の初稿を読んで、すぐに監督をしたいと思ったそうだ。

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 「今作を作りたかった主な理由は、ローレンス(ファインズ)が“疑い”について語るスピーチがあるからです。枢機卿であることへの疑い、職務にふさわしい人物であることへの疑い、そして、疑いを強さとして受け入れることについてのスピーチです。僕は、監督として仕事をする時、決断力や明確であるところを見せて、“疑い”を見せないようにしていました。でも、“疑い”はあるんです。それで5年ほど前から、受け入れ始めました。映画作りはチームスポーツですから、何か“疑い”があると言うと、みんながその会話に加わってくれるんです」

『教皇選挙』枢機卿同士の争いのなか、ローレンスの思いは…… (C) 2024 Conclave Distribution, LLC.

 さらにベルガー監督は、ファインズとの話し合いも“疑い”についてだったと振り返る。「撮影前、レイフと一緒に脚本を確認し、各シーンでローレンスが何を感じているか、そのシーンにどんな意味があり、彼がどう変化するかについて話しました。彼は、僕が映画のどこに興味があるのかを知りたがり、(不正を見つける)刑事的な物語の部分に興味があるのか、それともこの男が経験する“疑い”の内なる旅に興味があるのかと聞きました。僕はすぐに『彼の“疑い”の旅です』と答え、それは彼も同じだったのです」。

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 撮影でもその点を重視して進めたため、事前に撮影のプランを詰めていたが、ファインズの演技に合わせて、撮り方を随時変えていったという。「レイフの目や演技を見て、彼が何を感じているかを解釈し、それに従ってカメラの配置を決めました。カメラはレイフが(その時に)何を感じているかを撮影するためにあったんです」というベルガー監督の説明の通り、本作では、ローレンスの内面的な葛藤を演じる、ファインズの繊細な表情が見事に捉えられている。
 
 ファインズとリスゴー、トゥッチなど、名優たちの演技合戦も大きな見どころだが、特筆すべきは、登場シーンは短いものの強い印象を残す、シスター・アグネス役で初めてアカデミー賞助演女優賞候補となった、イザベラ・ロッセリーニだろう。ベルガー監督も「彼女の役割は、男たちが決断するのを助けることです。彼女はいつも耳を傾け、観察しています。存在感があり、権威やオーラを放つ女優が必要でした。イザベラ・ロッセリーニ以外に誰がいるでしょうか? 彼女はアイコンですからね」とロッセリーニを絶賛していた。

『教皇選挙』イザベラ・ロッセリーニ演じるシスター・アグネス (C) 2024 Conclave Distribution, LLC.

 名優たちの見事な演技、飽きさせないエンターテインメント性の高いストーリー、そして圧巻の映像美がそろった今作。“疑い”を受け入れることでより優れた監督となったベルガーの手腕に唸らされる。最後にベルガー監督に、宗教との関係を尋ねると「僕はプロテスタントとして生まれましたが、教会が与えてくれるものが少ないから、教会にはあまり行きません。でも、寺や教会、シナゴーグ、モスクがなければ、歴史も、伝統も、社会にとって重要なアイデンティティもありません。だから、僕はそれを制度として受け入れています。結局、これ(映画のなかの出来事は)はどこでも起こりうる話なんです。閉ざされたドアの向こうで繰り広げられるパワーゲームがテーマなんです。それは、次期CEOを選ぶ役員会が舞台かもしれないし、政治が舞台かもしれません。こういうパワーやダイナミックを探求し、次のボスになるため、人々はチェス盤にどのように駒を置くのか、それが僕にとって興味深いのです」と語っていた。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)

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