ホッパー、デップ、タトゥーロのパフォーマンスがいい!
ビートニクを知るにはぴったりの入門編
[奥田悟郎]
デニス・ホッパーがウィリアム・パロウズを演じている! と聞いて試写
に行ってきた。う~ん、これってぜんぜん種類は違うけど、『バトル・ロワイアル』の坂持金発(サカモチキンパツ)役をビートたけしが演じる、というのに通
じる「そうきたか」というキャスティングだよな。
で、結果はというと、『バトル・ロワイアル』のたけしがイマイチはずしていたのに対して、こちらは大成功。ホッパーが、演じるというよりはバロウズになりきって「裸のランチ」の一節を朗読するポエトリー・リーディングのパフォーマンスを披露しているわけだが、これがめちゃくちゃかっこいいのだ! やっぱこの人って、役者としての根底にビート的なスピリットを今も持ち続けている人なんだろうなぁ(そういえばこの映画では、『イージー・ライダー』の映像もちょっとだけ使われています)
ほかにも、ジャック・ケルアックをジョニー・デップが、アレン・ギンズバーグをジョン・タトゥーロが、それぞれ演じていて、ホッパーと同じように主要作品を朗読している。どちらもビート作家たちに対する敬愛の気持ちがヒシヒシと伝わってくるような、とてもいいパフォーマンスを披露してくれていて、かなり気持ちいい。ハッキリいってこの3人の朗読を聞くだけでも、この映画を観にいく価値はありますな。
映画全体は、ビートの誕生から、その精神がどのようにして後のジェネレーションに影響を与えていったか、そして主要な作家たちの死に至るまでを、'50~'90年代に至るさまざまな映画やテレビショーの映像を駆使して(というか、まさにバロウズ流カットアップ風の手法で切り貼りしつつ)ドキュメンタリーとして描いているもの。
ビートニクの主要な登場人物はほとんど登場するし、カットアップ風と見せかけて意外とオーソドックスな構成なので歴史的な流れもわかりやすいし、これからビートニクのことを知りたいという人には、たぶんぴったりの入門編である。
で、余計なお節介ではあるけれど、個人的には、もしこの映画を観て気に入ったら、ここで引用されているさまざまな作品を直接ビデオで借りて観ることをオススメします。そうすると、ビートニク的な精神や方法論が、いかにその後のカウンター・カルチャーに影響を与えていったかということが実感できるはず。特にバロウズは、実際に多くの映像作品も作った人なので、あんまり普通のレンタルビデオ屋には置いてないけど、ぜひ探して観てもらいたい。この『ビートニク』をはじめ、ほんとうに多くの映画がその影響を受けているのだ。(ちなみに、この映画の原題“The
Source”は、「我々こそがソース(原点)だ」というウィリアム・バロウズの言葉からつけられている。かっこいいんだ、この爺さんは。)
この映画の企画を最初に発案したというアレン・ギンズバーグが1997年に死に、100歳まで生きるような気がしていた「スーパー爺」ウィリアム・バロウズも死に、ジャック・ケルアックはとっくの昔に死んでいたので、今ではビートの3人のスターたちは全員この世からいなくなっているわけだが、どっこい、彼らの発信したミームが今も生き続け、増え続けていることを確信させてもらえるような映画である(そしてこの文章も、ささやかながらそのミームのひとつとして誰かに届くと嬉しいなと思ったりしています……)。
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