サードシーズン2011年3月
私的映画宣言
大好きなティモシー・オリファント主演のテレビシリーズ「ジャスティファイド(原題)/ Justified」をBOX買い。連邦保安官って肩書にもうっとり。
●3月の私的オススメ映画は、酔いどれ連邦保安官が活躍する『トゥルー・グリット』(3月18日公開)と、C・ベイル愛がさく裂した『ザ・ファイター』(3月26日公開)でございまする。
当欄のアカデミー賞予想では『英国王のスピーチ』の作品賞受賞としたが個人的に肩入れしているのは『トゥルー・グリット』。物語の深みはオリジナル『勇気ある追跡』を完全に超えていて、ラスト・シーンにはシンミリ泣けた。
●というわけで3月の私的オススメ映画は『トゥルー・グリット』(3月18日公開)。
オスカー前に来日したヘイリー・スタインフェルドちゃんに取材。とっても愛らしくかわいい女の子だったので、彼女にオスカーを取ってほしいなあと思う。が、自分が予想していたのはヘレナ・ボナム=カーター……。
●3月の私的オススメ映画は、『イリュージョニスト』(3月26日公開)。
2月にプリンスのマディソンスクエアガーデン公演を観て、そのスペクタクルな超絶エンターテインメントショーに激しく感動。あの絶唱! あのダンス! あのギターソロ! そしてあのステージ演出とセットリスト! プリンスは、人間を超越した生き物です。
●3月の私的オススメ映画は、『塔の上のラプンツェル』(3月12日公開)と『トゥルー・グリット』(3月18日公開)。
出張中にロサンゼルス在住の仲良し記者さんに連れられて、テレビで使った衣装のリサイクル店へ。タグに番組名が書いてあり、誰が着用したか明記してあるものも。「デクスター~警察官は殺人鬼」のTシャツやティーンズドラマ使用のアクセサリーなどをリーズナブルに購入して大いに自己満足!
●3月の私的オススメ映画は、『ザ・ファイター』(3月26日公開)。
ツーリスト
ハリウッドを代表するトップスター、ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーの初共演が実現したロマンチック・ミステリー。イタリアを訪れたアメリカ人旅行者が、謎の美女に翻弄(ほんろう)され、知らないうちに巨大な事件と陰謀に巻き込まれていく。監督は、『善き人のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。共演はポール・ベタニー。撮影地であるベニスやパリの美しい映像や大胆なラブシーンも見ものだ。
[出演] ジョニー・デップ、アンジェリーナ・ジョリーほか
[監督] フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
裏工作して、ゴールデン・グローブ賞コメディ・ミュージカル部門の候補に押し込んだなんて陰口をたたかれたが、立派なコメディーでした。美女アンジーにナンパされ、上げ膳(ぜん)食おうと思ったジョニデくんったらイカンな~と思いきや……という流れ。ミステリーとしては伏線が用意されているわけでもなく、シャレたセリフがあるわけでもなく、キャラの作り込みもあくまでも浅い。ダメじゃんと思ったら最後のど~んというオチで一気にコメディーとなる驚がくの構成。もう、びっくりしちゃった。ある意味、成功しているかも?
何の伏線も張らないままお話をひっくり返す、ミステリーの反則技をしゃあしゃあとやってのけた元ネタ『アントニー・ジマー』と同じオチだとイヤだなあと思っていたら、何とまあ……。となれば、ジョニーとアンジーの共演の華やかさに注目したいところで、それぞれに頑張ってはいるが、比較的お笑いノリの前者とシリアス一辺倒の後者がかみ合っているとは言い難い。風光明媚なベニスの景色は素晴らしいので、観光映画として観た方が吉。
銀幕スターの時代の映画ならともかく、現代によくこの情報量の薄さで、映画化しようとしたもんだと、ちょっとびっくり。さすがアンジー、ジョニデのネームバリュー、余裕しゃくしゃくといった感じか。スタッフたちに何の思い入れもなく、さらに本人たちもまったく気負いなく演じているのが逆にすがすがしいほど。というわけで、推薦もしなければ、否定する気もないけど、これほどデートムービー向きな映画もない。ゆったり何も考えず楽しめます。
「二大スター初共演!」が売りの映画はうまくいかないことが多いが(『ザ・メキシカン』とか)、本作もその系譜に連なった。何ですか、これ? ミステリーにしては緊張感ゼロでスリルもなく、ひねりはあるようでない(一番やっちゃいかんオチ)。ストーリーはすかすか。ラブストーリーにしては説得力がなさすぎ。終映後、激しい虚無感と脱力感に襲われた。アンジェリーナ・ジョリーの顔、どんどんサイボーグ化していませんか!?
アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップの組み合わせで大作感を漂わせるも、デップのいつもの調子が出てくるとユーモアがいっぱい。これってコメディーなの? と困惑しつつ、極め付けは「まさかこうくるわけないよな」が現実となるオチのトホホさ。オリジナルを観ていないのだがオチも同じと聞き、なぜリメイクしたのかに疑問が残る。アンジーの不必要なまでのゴージャスさと何でもいいからデップが観たい! という方にオススメ。
ザ・ファイター
実在する伝説のプロボクサーと異父兄の家族愛、さらにはリングでの熱き戦いを描く感動作。ゴールデン・グローブ賞をはじめ、2010年度の各映画賞を席巻。監督は『スリー・キングス』のデヴィッド・O・ラッセル。主人公を『ディパーテッド』のマーク・ウォールバーグ、その兄を『ダークナイト』のクリスチャン・ベイルが演じる。激しいボクシングシーンを見せるマークと、外見をがらりと変えて薬物中毒の元ボクサーにふんするクリスチャンの熱演が見どころ。
[出演] マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベイルほか
[監督] デヴィッド・O・ラッセル
兄リスペクトのボクサーが奮起し、世界の頂点を目指す実話。貧乏一家の星である兄ディッキーの凋落(ちょうらく)を見ないフリして現実逃避する母や姉妹、そんな家族に愛想を尽かしきれない主人公ミッキーの切なくも温かい家族のきずなが胸にどすんと響く。主人公を支えるエイミー・アダムス演じる恋人シャーリーンの愛情もまた激しく、アイルランド系女性の「喧嘩(けんか)上等!」な生きざまに感動。ミッキーをめぐって彼の家族と火花を散らす彼女のファイターぶりも圧巻だ。自宅に実物大のジムを建築し、ボクサー特訓したマーク・ウォールバーグも頑張ったけど、クリスチャン・ベイルがうま過ぎて、マーク目立たず。残念。
こういう話は、どうしても『ロッキー』を連想させるが、ドキュメンタリー調の映像に徹した点に技あり。実話の映画化に説得力を与える点でも、この手法は生きていて、大勝負に向かう主人公がその過程でバラバラだった人間関係をまとめあげる展開にグッときた。ひたすらハイテンションでしゃベリまくっているクリスチャン・ベイルは賞レース独走も納得の存在感。ファイト・シーンで体を張っているマーク・ウォールバーグが無冠なのは、ちょっとかわいそうだ。
すごいすごいと言われて、ハードルを上げて観に行ったにもかかわらず、すごかったクリスチャン・ベイル。あれはもう演技の範疇(はんちゅう)を超えている。周囲のポテンシャルも上げまくりだ。どん底を見た男が再び頂点を目指すというベタなストーリーの割には、軽いユーモアを交えて進む小気味いい展開。途中、ちょっと物足りないかなと思うほどだったが、クライマックスの試合中、いつの間にか涙がほおを伝っていた。何もかもがちょうどいいさじ加減。
一つの夢に向かってボクサー兄弟が自身と真剣に向き合い、ぶつかり合い、リスペクトを取り戻しながら戦うという、カタルシス満点の感動ドラマ。2人が成長しながらきずなを深める過程の描写も素晴らしく、兄弟を見守る女たちの存在感もたまらない。クリスチャン・ベイルの肉体改造度は壮絶だが、なまりも強烈で役を完全に自分のものにしていて真にあっぱれだ。臨場感と時代感を出すため、試合シーンをテレビ画面を引き伸ばした粗い画質にしている点もうまいとしか言いようがない。
もっとボクシング寄りの硬派な作品かと思っていたら、意外にも家族のドラマが厚く語られていて新鮮な驚き。負け犬がアメリカンドリームを達成していく過程とうまく絡めてお涙頂戴にならず、ひねりのあるデヴィッド・O・ラッセル監督の作り込みがよく効いていた。俳優は等しく好演だが、クリスチャン・ベイルの憎み切れない厄介者ぶりとメリッサ・レオの自己中心的な母親像は強烈! ラストは爽快(そうかい)感と共に、血のつながりって本当にやっかいでもあり強いきずなでもあるんだよなあとホロリ。
わたしを離さないで
イギリスの文学賞・ブッカー賞受賞作家カズオ・イシグロの小説を基に、傷つきながら恋と友情をはぐくみ、希望や不安に揺れる男女3人の軌跡をたどるラブストーリー。『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『つぐない』のキーラ・ナイトレイ、『ソーシャル・ネットワーク』のアンドリュー・ガーフィールドといった若手実力派スター3人が豪華共演。詩情豊かでみずみずしい映像と、ドラマチックな展開の果てに待ち受ける衝撃と感動を堪能したい。
[出演] キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールドほか
[監督] マーク・ロマネク
原作ファンからは批判されているようだが、「死とどのように向き合うか?」「人間とは? そして人生とは?」といったテーマはきちんと受け取った。限られた人生でも人間は愛し、憎み、許し、受け入れるという描写は実に美しいし、若手役者陣の抑えた心理演技も効果的だ。イギリスの田園風景をポストカードのように切り取った映像も叙情的。とはいえ、見終わってよく考えるとかなり背筋が寒くなる。子どものころの情報操作いかんによっては反抗しない人間の育成も可能ということをいいたかったのかしらん。疑問を持たずに人間爆弾となる人材とか作られたら嫌だな~。
基本的に原作に忠実な映画化で、小説を読んでいればドラマ面での驚きはない。それでも個人的には、あの長い話をうまくまとめたモンだと感心した。ロマンスの切なさと、生命の意味という2本の柱から軸がブレず、堅実といえる映画化。それでも曇り空の陰鬱さや、ひとけのない海岸の物悲しいムードなどの英国的な風景が情感をあおり、映画ならではの味を醸し出す。俳優陣は皆それぞれに印象的だが、ドンさくくも純なキャラのキャリー・マリガンは、とりわけハマリ役。
入口と出口が違う映画だとたいてい企画倒れの失敗作だが、この映画の場合は意図的にやっている。観客を、入ったところからは思いも寄らない場所へグイグイと連れて行ってしまうのだ。鑑賞後は何とも、やるせない気持ちと何かすごいものを見てしまったという充足感で、どっぷりと余韻に浸らざるを得ない。主要キャスト3人は皆、おのおのの持ち味が最大に発揮されていて素晴らしく、特にビッチなキーラ・ナイトレイは『穴』以来のハマり役だと思った。
原作も良かったが、この映画版は輪をかけて素晴らしい。三角関係(ラブストーリー)に焦点を絞ったのが成功した要因だろう。美しくも切ない、激しく心揺さぶる実はSFドラマだが、人間性とは何か? 生きるとは何か? という哲学的命題を観る者に突きつけ、人間の尊厳と価値について考えさせる。これは混迷したこの暗い時代にこそ響く深いテーマ。子役も含めキャストの配役も見事だが、アンドリュー・ガーフィールドには脱帽。久々の天才俳優出現だ。
抑制の利いた語り口と色あせたようなトーンの映像が、SFの要素がありつつ切ないラブストーリーである物語と絶妙にマッチ。原作へのリスペクトをしっかりと反映させながら、マーク・ロマネク監督の感性が光る小粒ながらも味わい深い一作だ。キーラ・ナイトレイ、アンドリュー・ガーフィールド共に好演だが、個人的に久々に気になる若手キャリー・マリガンが本作でも魅力を発揮。クラシカルな雰囲気もぴたりとハマって今後の活躍がさらに楽しみに。