サードシーズン2011年12月
私的映画宣言
東京国際映画祭で惚(ほ)れたイギリス製青春映画『サブマリン』を輸入版DVDで再見し、改めて切なくなる。アレックス・ターナーのアコースティックな音楽も素晴らしい。日本公開熱烈希望。
●12月公開の私的オススメは、これも英国映画『ロンドン・ブルバード -LAST BODYGUARD-』(12月17日公開)と『宇宙人ポール』(12月23日公開)。
仕事で韓国版「CSI」という触れ込みの「サイン」をイッキ見。科捜研が舞台だけど、一話完結で事件解決じゃなくて、さすが韓流だよなーの驚がく話。こんな法医学者って、アメリカじゃありえん! 面白すぎる。海外ドラマの「ルビコン」もハマりそー。
●12月公開の私的オススメは、『宇宙人ポール』(12月23日公開)。こんなE.T.なら遭遇お願いしたいっ!
2011年も残りわずか。1年は早いなあ。今年はラジオやテレビからUstreamまで、メディアで仕事をする機会が多く、いろいろと勉強になった一方で思うこともあれこれ。勉強不足を痛感する師走。
●12月公開の私的オススメは、『50/50 フィフティ・フィフティ』(12月1日公開)。
今回、ピンチヒッターで初登場させていただきます。映画ライターとして細々と活動中。年末に向けて渋谷ユーロスペースなどでやたらトーク仕事が続いています。12月21日(水)には「月刊ニコ生PLANETS」の特番「惑星開発大賞」に登場予定。
●12月公開の私的オススメは、松江哲明監督の『トーキョードリフター』(12月10日公開)。震災後の東京を眩惑(げんわく)的にとらえたドキュメンタリー映像詩です。
リアル・スティール
スティーヴン・スピルバーグ率いるドリームワークスが、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のヒュー・ジャックマン主演で手掛けた、ロボットとの出会いを通じて親子のきずなを描く感動のストーリー。ボクシングの主役が生身の人間からロボットに移行した時代、リングにすべてを懸けた父と息子の起死回生のドラマを描く。監督は『ナイト ミュージアム』シリーズのショーン・レヴィ。心が通い合わない父と息子が遭遇する奇跡の物語と、圧巻の格闘技ロボットたちの熱い戦いぶりに引き込まれる。
[出演] ヒュー・ジャックマン、エヴァンジェリン・リリー
[監督] ショーン・レヴィ
ロボット格闘技が流行している、という設定にリアリティーを抱かせる工夫が欲しいところで、SFドラマとしては弱い。ロボ同士の対決も見た目には面白いが、メカそのものに共感できるわけではないので、スポ根劇のような熱気にも欠ける。そんな活劇的な点より、父と子の対立→和解のドラマにうまみを感じた。息子を金で売るダメ父ちゃんの描き方はリアルだし、ゲームの知識で父を助ける息子のアシストも機能している。良くも悪くもディズニー的なファンタジー。
もうッ、欲張りさん! な映画。おんぼろロボットの復活&挫折した元ボクサーの再起&親子のきずなと劇的なドラマが重層的に入っていてクライマックスでうまくまとめている。しかも日本人にとっては、こうもほとばしる日本愛を見せつけられると放っておけない。ダコタくんが日本語のTシャツを着れば、「極悪男子」のロゴ入りロボットも登場。『トランスフォーマー』にならってグッズで一もうけしようという魂胆か? 中身が良いからそれでも許す。
『チャンプ』に『ロッキー』……。往年のボクシング映画のいいトコ取りをしながら、父と息子のきずなのドラマを紡ぐ。もっとも『ナイト ミュージアム』のショーン・レヴィ監督だけに、コミカルな味も利かせながら、父性に目覚めていく男の心情をきっちりと追う。演じるヒュー・ジャックマンのダメ父ぶりもさすがに心得たものだが、子役ダコタ・ゴヨくんの大人顔負けの演技にはヒューもかすみそうになる。ロボットボクサーATOMとのダンスパフォーマンスは、芦田愛菜&鈴木福の「マルモリ」を彷彿(ほうふつ)させる。世界的にエンタメ界は子役パワーが席巻してんの?
近年ハリウッドの大作系は予定調和に過ぎて退屈なものが多いのはいうまでもなく。本作も設定には多少目新しさがあるものの物語にさして意外性があるわけでもないのだが、ウェルメイド(よくできている)とはこういうことなのだと感心させられた。常に「この程度で泣かされるもんか」と斜に構えて臨むひねくれ者の筆者も、ヒュー・ジャックマンの魅力に被害者ぶらない子ども+『ロッキー』的なミラクルストーリーというわかりやすい感動大作にまんまと乗せられてノックアウト。
今年はスピルバーグが「裸の王様」的に変な映画を連発しまくっている印象だが、コレはパワフルな珍作として好きな一本。とにかくリアル超合金の戦いに、最新テクノロジーにより万能感を手に入れたコドモオトナの無邪気さが爆発している。『トランスフォーマー』と同じく元ネタの多くは日本のロボカルチャー。しかし未成熟な父と愛に飢えた息子の交流を軸にした話は、シルヴェスター・スタローン主演の1987年作『オーバー・ザ・トップ』とほぼ同じやん!
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
トム・クルーズがすご腕スパイ、イーサン・ハントを演じる人気アクション・シリーズの第4弾。爆破事件への関与を疑われ、スパイ組織IMFを追われたイーサンたちが、容疑を晴らすべく黒幕との危険な駆け引きを繰り広げる。『Mr.インクレディブル』のブラッド・バードが初の実写映画でメガホンを取り、『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナーや『プレシャス』のポーラ・パットン、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のサイモン・ペッグがチームのメンバー役で共演。世界一の高層ビルでトム自身が見せる驚異のスタントのほか過激なアクションに目がくぎ付け。
[出演] トム・クルーズ、ジェレミー・レナー
[監督] ブラッド・バード
ピクサー出身のブラッド・バード監督による漫画に徹した潔さを、まずは評価した い。ユーモアのセンスに加え、キャラが縦横無尽に立ち回る立体駐車場でのクライマックスは、ピクサーアニメのスペクタクルを実写で再現したかのよう。興味深い のは、テクノロジーに懐疑的な描写が頻繁に登場することで、5秒後に消滅するはず のメッセージに何も起こらなかったり、変装マスクが壊れたり。チームワークを重視 した物語には、メカより人間同士のつながりを信頼せよという隠れテーマが込められ ているような気がする。
自分の人生をプロデュースできているのか否かはさておき、トムは相変わらずプロデューサーとして良い仕事している。ジェレミー・レナーらニューカマーを投入し、本作が初実写映画となる『Mr.インクレディブル』の監督に大役を任せるとは! 才能を見抜く力はピカイチ。ただ今回、敵の存在感が薄ッ! ただでさえ核戦争を仕掛けるテロリストと手あかまみれの設定なんだから、もう少し彼の背景を描かないと。まっ、「祭」として楽しいからいいんだけどさ。
シリーズ1作目から16年、完全にトムの「スパイ大作戦」。今回、チームのメンツが今までになく地味っ! 敵も名優だけど、地味っ! 今までの中でお色気も一番薄っ! 個人的には007のイメージでスパイはモテる=美女との図が観たいが、前作イーサンには愛する女性ができたしな(この話もスルーしていません)なので、目指すのはドバイの超高層ビル……。ブラッド・バード監督の演出には無駄がなくて、緩急のテンポのサジ加減も良し。お笑い要員サイモン・ペッグの重用で楽しい。反面、スリリングさが薄まったのは否めない。家庭人トムが作る映画……万人が楽しめる安心なスパイ映画になった感じ。
サイモン・ペッグの十二分に期待に応えたコメディーリリーフぶりとIMAX映像の迫力に★一つプラス。3Dがどうも苦手な筆者としては、IMAXの方が劇場で観るスケール感をしっかりと楽しむことができた。大きなスクリーンで観る大作映画、やっぱりいいなあ。映画は前作に続き、J・J・エイブラムス節を踏襲した格好。そもそもシリーズ1&2作目はオリジナルを離れた別ものだったが(それはそれで◎)、3&4作目は「スパイ大作戦」に近いノリでこれはこれで楽しい。
コレはもう「21世紀の『プロジェクトA』」では!? 50歳近いトム・クルーズが、全盛期のジャッキー・チェンばりの肉弾アクションをキメてくれて大興奮(ユーモアの質もジャッキー的)。危険思想を抱くマッドな学者を投入して、冷戦時代を思わせるアメリカ・ロシアの対立を作り「キューバ危機の再来」をでっち上げた物語もわかりやすい(少し幼稚だけど)。ピクサーアニメ『Mr.インクレディブル』で活劇魂を発揮したブラッド・バード監督の演出も快調!
永遠の僕たち
第64回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でオープニング上映され高い評価を受けた、『ミルク』のガス・ヴァン・サント監督による一風変わった青春ドラマ。葬式に参列することを日常とする、死に取り付かれた青年と、不治の病に侵された少女の恋を繊細に描く。主演は、デニス・ホッパーの息子ヘンリー・ホッパーと、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ。二人を見守る重要な役どころで、日本の実力派俳優・加瀬亮が出演しているのも見逃せない。
[出演] ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ
[監督] ガス・ヴァン・サント
死に対する思春期の恐怖と憧憬。ナイフのように危険かつ魅力的な、そんなカミソリのような感性をファンタジーに昇華したお話は青クサいといえば青クサい。それでも、はみ出し者カップルのリアリティーとユーモアがかみ合い、難病モノにありがちな過度な感傷が回避され、生きることの意味を真摯(しんし)に問いかけてくる点がイイ。日本人の「お辞儀」の意味を問う逸話そのままの、ピン! と背筋の張った作り。今より20歳ぐらい若いときに観たら、大感動したかもしれない。
加瀬くん演じる特攻隊員ヒロシがいなければ、おしゃれ女子好みのキュートなラブストーリーになっていたはず。その意味では加瀬くんの存在は大きいが、生と死をテーマにしているわりには特攻隊員というのを上手く物語に生かせてないような。反戦メッセージを強調されても困るが、なぜ米国の片田舎に住むイーノックにだけ見えるのか? その意味をついつい考えちゃうんだけど理解できなかったなぁ。しかしミア・ワシコウスカは良い作品選びをしているね。
余命わずかな少女と、家族を失った青年が恋に落ちる。重たそうな気がするが、見たら、いい意味でハズされた。故デニス・ホッパーの息子ヘンリー・ホッパーのすねたところは父親にそっくり。そんな彼とミア・ワシコウスカが会うべくして会った運命の恋人をナイーブに演じる。ガラス細工のように繊細でピュアな二人が限りある時間を過ごす。デートシーンがステキで、心にじんわり沁みる。自分が20代、いや10代でこの作品を観てみたかった……。加瀬亮も特攻隊員姿の幽霊ですごい貢献。全編英語でしゃべってんだけど、それがフツーに見えます。
死というものをどう受け止めたらよいのか、死んだら人はどうなるのかといった問題に真っすぐに向き合う若者の姿を、ガス・ヴァン・サント特有のアプローチでみずみずしく描き出している。よってお涙ちょうだいの難病ものではないが、人によっては好き嫌いが分かれるかもしれない。死というものに対処する気持ちに折り合いがついたかと思うと、また振り出しに戻るといった主人公の感覚は筆者も同じなので劇中何度も泣けてしまった。
米国・ポートランドの風景に淡く溶け込む加瀬亮は、『ミステリー・トレイン』(ジム・ジャームッシュ監督)でメンフィス旅行中のカップルを演じた永瀬正敏と工藤夕貴のたたずまいを懐かしく思い出した。「ハリウッド進出」という上昇志向とはまったく異なる、国境を越えた緩やかな同志たちのつながり。スケッチ風のタッチを崩さず生と死を往来する語り口も含め、ガス・ヴァン・サント監督作の中でも、とりわけ映画の自由を感じさせてくれる傑作。