サードシーズン2013年1月
私的映画宣言
めいと『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を観に行く。テレビシリーズのころはまだ生まれていなかった彼女がもうエヴァに乗れる14歳。しかも教えなくてもちゃんとカヲルくんを気に入っている様子。おばさんはちょっと胸熱です。
●1月公開の私的オススメは『エンド・オブ・ザ・ワールド』(1月18日公開)
3.11の地震、ニューヨークのハリケーンと続き、発電機購入を真剣に検討する日々。世界の終末に備えて『マッドマックス』シリーズでも見直そうかな。
●1月公開の私的オススメは、中年テディベアは最高だけど、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のトラもすてきすぎ。(1月25日公開)
アーノルド・シュワルツェネッガー主演のクライム・アクション・サスペンス『テン(原題) / Ten』(2014年公開予定)のセットビジット取材で、アトランタに行ってきました。アーノルドの話、すこぶる面白かったです。
●1月公開の私的オススメは『LOOPER/ルーパー』(1月12日公開)
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の監督&出演者ご一行様に取材。愛と犠牲をしきりに口にする彼らの発言から、ドラマのアツさに期待が膨らんだ。
●1月公開の私的オススメは『テッド』(1月18日公開)と『LOOPER/ルーパー』(1月12日公開)がダントツ。
『レ・ミゼラブル』『ホビット 思いがけない冒険』『スター・トレック イントゥ・ダークネス』と来日取材が続いた年末。インタビュー中、突然飛び出したヒュー・ジャックマンの「生歌」と、アン・ハサウェイの超々小顔にサプライズ感激!
●1月公開の私的オススメは『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(1月25日公開)
テッド
『ザ・ファイター』のマーク・ウォールバーグ主演のドタバタ異色コメディー。命が宿ったテディベアのテッドと自立しきれていない中年男のコンビが巻き起こす騒動を、にぎやかなタッチで映し出していく。監督とテッドの声を務めるのは、テレビアニメ「ファミリー・ガイ(原題) / Family Guy」などの製作に名を連ねるセス・マクファーレン。固い絆で結ばれたテッドと主人公に嫉妬するヒロインを、『ブラック・スワン』のミラ・クニスが演じる。かわいいルックスとは裏腹に、言動すべてがオッサンなテッドには爆笑必至だ。
[出演] マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス
[監督] セス・マクファーレン
男友達との時間を大事にする男子とその彼女の攻防はよくある話だが、男友達をテディベアに変えただけでこんなに面白く、そして許せてしまう。これは「わたしと友達、どっちが大事?」と詰め寄りがちな女子のためのよくできた啓蒙(けいもう)映画だ。ヒロインはマコーレー・カルキン、アシュトン・カッチャーと実生活でもダメ男大好物のミラ・クニス。Sに見えてMなのか、『寝取られ男のラブ♂バカンス』『ステイ・フレンズ』など、ダメ男サポート役が実によく似合う。特に今回は汚物処理シーンが最高!
これは春に観たときに「今年のベスト1」と心に決めた作品。バカバカしい設定でありながら、観客のハートをつかんで離さない人間ドラマをしっかり盛り込む構成にセス・マクファーレン監督の天才ぶりを感じた。愛らしい容姿を裏切るお下劣トークと親友ジョンとの大げんかで見せる想像を絶する運動能力を見れば、誰もがテッドのとりこに! ナニがないのに次々と美女をコマしてるのもそんな彼の魅力なのだ。主人公たちが偏愛する『フラッシュ・ゴードン』はじめ、映画の小ネタがそこかしこにちりばめられていて、ずっとニヤニヤ。マッチョな役が多いマーク・ウォールバーグだけど、あのゴリラ顔は実はコメディーの方がハマるのかも。
セックス! ドラッグ! フラッシュ・ゴードン! 80’sテイストな抱腹絶倒超過激コメディー。ウイットと毒のあるセリフの連発で、一つのシークエンスに必ず一度強烈なオチがあるという奇跡的なプロットに脱帽。最高のバディー・ムービーとしても、大人になりきれないダメ中年男の成長物語としても堪能できる。着地も美しく完璧で、文句の付けようがない。実名で登場するノラ・ジョ-ンズもあっぱれだが、ジョヴァンニ・リビシの狂ったストーカーっぷりも最高!
言葉を話すかわいいテディベアの映画だと思って観に行ったら下品でガッカリ……なんて女子もいるんだろうけれど、クマのフワフワをかぶったダメ男の話なんだからしょうがない。そして、そんな大人になりきれない男子にとってはツボにハマるコメディー。オタクな映画ネタで笑わせつつ、いつも楽しませてくれる友人(コレがクマ)と、大事な恋人のはざまで揺れ動く、男心の微妙な案配をリアルにすくい取っている点がイイ。ダメ男のファンタジーを現実化した結末もグッときた。私的シンクロ率高めで当然、高得点。
無垢(むく)でかわいい外見をしていながら、やること、言うことはエロで横暴。そのギャップに萌える……って、まるで恋のときめき(!?)のような快作。というわけで基本はテッドの暴走を笑って眺めていればいいんだけど、実はマーク・ウォールバーグの男子共感度満点な妙演が本作のキーポイント。『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』に続き、マイペース男をやらせたら、現在、世界ランク1位と断言したい。理性で抑えていた本能が暴走する。その一瞬のマークの表情は、他に誰もマネできません!
東京家族
オリジナルに寄せているのだろうが、長男が開業医で長女が美容室経営、次男は舞台美術……って今どき、かなり特殊な設定。にもかかわらず、「ああ、わかる」と言いたくなる家族あるあるが満載なのは、根幹にある『東京物語』の家族像が普遍的なのはもちろん、本作の現代的な味付けが絶妙だからだろう。昔に比べ、大人は子どもっぽく、子どもは大人っぽくなった現代。それでも親が子を思う気持ちは変わらない。自分のことに精いっぱいの子世代こそ本作を観て、親のことを振り返る時間を持ちたい。それだけでもう親孝行だと思う。
薄れゆく家族の絆という主題は小津作品と共通していると感じるが、「濃厚な絆」に不慣れな世代としては子どもたちに過度な期待をする親世代に違和感アリ。というか、今どきの70代はもっと自立しているというか、老夫婦だけで悠々自適に人生を楽しんでいるのでは? しかも長女がまた不自然なくらい親不孝者なのにびっくり。それも中嶋朋子がとても巧みに演じているせいなんですが。過不足ない完成度なんだけど、なぜか最後まで乗り切れず。唯一、共感したのは妻夫木くん演じる次男。故郷を離れて将来性に乏しい趣味的な仕事に従事していることで肩身が狭い感じをよく出していた。わかるよ、その気持ち!
丁寧にゆったりしたペースで描かれる長尺のモダンな家族ドラマだが、言うなれば人畜無害の普遍的なファミリー映画。数多く登場するキャラクターたちの整理と配置は巧みだが、個性的な登場人物が少ないので、全体的に印象が薄いのが残念。東日本大震災の挿入はスムーズで嫌味がないし、ポジティブな後味で決して悪い作品ではないが、映画ならではの「マジック」を感じることはなかった。
小津安二郎の『東京物語』にオマージュをささげつつ、山田監督自身の『息子』を現代的に焼き直し。田舎で暮らす親と東京に住む子どもたちの関係を見つめつつ、不仲だった父と末っ子の間に希望を抱かせる流れは、『息子』の震災後バージョンというべきか。こういう話は自分のような地方出身者には考えさせられる部分が大きいし、それだけ力のある作品には違いない。が、特に中堅の役者の芝居がいかにも芝居っぽく、リアリティーが伝わってこない点が残念。西村雅彦を長男役として受け止めるまで、ちょっと時間がかかった。
冒頭、セリフ回しからカメラのアングルまで、1953年の『東京物語』を忠実に再現した演出に驚いた。まるで、ヒッチコックの『サイコ』をそのまま再生させたガス・ヴァン・サント作品のよう! 60年前の超名作への敬意や、かつての日本の美徳を取り戻したい監督の思いが伝わってきて、温かい目でスクリーンを見つめていた。大震災のエピソードで現在の観客にアピールする意図もよくわかる。ただ、時代を超えた普遍的な家族のテーマなら、1953年の『東京物語』を、今改めて観ても十分に感動できる気が……。
つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語
女優を魅力的に撮る行定監督。ドラマ「女たちは二度遊ぶ」も面白かったので期待していたのだが、今回は悪い意味で統一感ゼロ。俳優それぞれの演技がバラバラでコメディー演技の人もいれば、シリアスな人もいて、観ていて落ち着かない。こういう作品の場合、鑑賞しながら「女って怖い」「女って強い」など、女性に対するさまざまな印象を抱かされ、最終的に「やっぱり女ってわからない」となるのが正解だと思うが、この映画を観た感想は「女優ってきれい」止まり。
死の床にある女性・艶の生涯を彼女と関わった、もしくは夫がそう推測する人間たちの言葉から浮かび上がらせながら、双方の人生模様を描いている。艶はとにかく男とSEXが好きで次々と情事にふけっていた設定で、彼女の周囲には情欲や嫉妬、裏切り、憎悪といったドロドロしたものが渦巻くようだ。でも全てひとごとにしか思えず、退屈極まりない。艶の存在を知って心が騒ぎ始める女性たちの誰にもまったく共感できず。この第三者感は艶の人間像が描かれていないせいかもしれないし、わたし自身の「過去の恋愛でごちゃごちゃ言うのやめません?」な考えのせいかもしれない。とはいえ、個人的には乗れないけど女優陣の演技力を比較するのにはもってこいでした。
生臭い映画である。リビドーのメタファーともいえる一人の女性に翻弄(ほんろう)され、運命が狂っていく人間たちが醜悪な本性を見せる光景は、一見面白い。しかし、官能的な情愛群像劇であるにもかかわらず、肝心要の濡れ場の描写がぬるい。話の設定は面白いが、テーマであるセックスとちゃんと向き合っていないため、不本意な結果に。本作に登場する男は皆ばかで薄情で無責任だが、それはある意味、真実を突いているのかもしれない。
人間関係がとても回りくどい。人脈図を作って整理したとき、枝葉の部分にいるような女性たちが、一人の恋愛依存症の女性の周囲に、こんなにもたくさん集まってくるものなのか? そんな疑問が頭をよぎる。「そういうものよ」と女性に言われたら「そうですか」と受け止めるしかないが、共感を呼ぶ作品とは言い難く、動物観察をするような感覚で冷静に見てしまった。小泉今日子と荻野目慶子がパーティーで演じる、「ガルルル!」という、うなり声が聞こえてきそうな肉食獣的ケンカには笑ったが……。
『桐島、部活やめるってよ』の大人愛憎版ということで、「つや、危篤だってよ」と命名したい展開。ただ桐島と違って、魔性の女だったはずの艶の実像がなかなか見えてこない。翻弄(ほんろう)された女たちの各ドラマが全体的に淡々としたムードで進み、もどかしさは増すばかり。中心にいる艶の夫の内面にも深く切り込まないので、阿部ちゃんの狂気めいた表情も空回りしている気が……。とはいえ、要所での生々しいセリフや、全キャストのハイレベルな演技で、不思議な満足感には包まれた。