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ぐるっと!世界の映画祭

日本人女優初の審査員に就任!女優・渡辺真起子、サハリン国際映画祭へ行く(ロシア)

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映画祭会場で記念撮影。

【第51回】
 本連載2度目の紹介となるサハリン国際映画祭「オン・ジ・エッジ」(ロシア)。しかし河瀬直美園子温小林政広etc……巨匠から新人、映画のみならず人気ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」や故・蜷川幸雄さん演出舞台出演など日本を代表する女優・渡辺真起子が、コンペティション部門の審査員を務めたとあってはリポートをお願いしないワケにはいかないでしょう。かつ、体制が変われば、映画祭もその影響を受けざるを得ないとあって……。現地時間9月9日~17日に行われた第6回大会のレポートです。(取材・文:中山治美、写真:渡辺真起子、サハリン国際映画祭)

サハリン国際映画祭オフィシャルサイト

中野量太監督による第4回サハリン国際映画祭レポート

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州知事逮捕で方針変更

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映画祭ゲストだった米俳優スティーヴン・セガールと一緒に。
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サハリンの州都ユジノサハリンスクのホムトヴォ空港に到着!

 映画祭のサブ名称は“世界の果て”を意味する「オン・ジ・エッジ」。それは大作が並ぶ大規模な国際映画祭とは一線を画した反骨精神をも表した名で、アジア映画とロシア映画を中心に上映していた。

 しかし今年のラインナップには「フェスト・ヒット」と題し、ベルリン国際映画祭金熊賞(最優秀作品賞)受賞のジャンフランコ・ロージ監督『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(2017年2月公開)、カンヌ国際映画祭パルムドール(同)受賞作のケン・ローチ監督『アイ、ダニエル・ブレイク(原題) / I, Daniel Blake』など、今年の国際映画祭の話題作が並ぶ。実は映画祭の主催者はサハリン州なのだが、創設当時から知事を務めていたアレクサンドル・ホロシャビン氏が2015年3月に収賄容疑で逮捕され、同年9月にコジェミャコ・オレグ・ニコラエヴィチが新知事に就任した。

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開会式は生憎の雨。アニエスベー提供のドレスでレッドカーペットを歩いた。

 「その州知事の意向もあってか、全体的にロシア映画の本数を増やしたようです。それでも、クロージングのまとめの言葉として州知事は『この映画祭は入場料無料で誰でも参加できるのだから、もっと年配者から子供まで幅広い観客が楽しめる映画を増やした方がいい』という事を言っていたので、来年はまた上映作品の傾向が変わるかもしれません」(渡辺)。

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会期中はちょうど、ユジノサハリンスクの「まちの日」。街中ではパレードや各種イベントが開催され、市民で賑わっていた。

 ちなみに開催時期も、以前は8月下旬だったが、例年9月の第2土曜に行われるユジノサハリンスクの「まちの日」に合わせるために9月に変更した。前身のウラジミロフカという開拓集落が1882年に誕生した事を祝うもので、今年は9月10日だった。「街中ではパフォーマンスや、露店も多数並び、盛り上がっていましたよ」(渡辺)。

 映画界的にはベネチア国際映画祭やトロント国際映画祭と開催時期が重なるが、地元住民のための映画祭を盛り立てる相乗効果だけでなく、海外から参加したゲストにとっても地元の文化や習慣を味わえる滅多にない機会となったようだ。

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女優が審査員を務めるワケ

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映画祭クロージングはまた装いを変えて。カメラを向けられ、審査員から女優へと切り替えた瞬間を見よ!
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新しく建設されたロシア正教会を見学。眩しいくらいの装飾が絢爛豪華だった帝政ロシア時代を彷彿とさせる。

 渡辺が映画祭の審査員を務めるのは、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門、2013年の第14回東京フィルメックス・コンペティション部門、2015年の第28回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門に続き4度目となる。出演作『チチを撮りに』(2012)が第3回でグランプリを受賞しており、その縁で審査員の依頼がきたのかと思いきや、映画祭カタログの渡辺のプロフィール部分にもその事の記載はなし。

 「カンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別大賞)を受賞した『殯(もがり)の森』(2007)とか、ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞した『愛の予感』(2007)とか、どうやら国際映画祭で受賞した作品に出ている事の方に関心があったようです。現地でも、そういう紹介のされ方をしていました(苦笑)」(渡辺)。

 言語の壁もあるのかもしれないが、日本の女優が国際映画祭で審査員を務めた例は少ない。渡辺は英語通訳できるスタッフを一人同伴して参加した。

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渡辺真起子出演作『ハローグッバイ』(菊地健雄監督)は第29回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門で上映。(C) 2016 Sony Music Artists

 「私は映画を見ることが好きですし、俳優を続けていく上で、せっかく多くの作品に触れる機会を与えてもらったのであれば名誉だと思ってお引き受けしたいと思ってます。割と長く1988年から28年女優の仕事を続けてますけど、自分が出られない作品の方が絶対的に多いわけですし、残念ながら、カメラの前に立っているだけでは私の人生が満たされない。そうじゃない時間も映画に触れていたいと強く思うんです。なのでせっかくこの世に生まれてきたのだから、見られるものはなんでも見たい。それに、監督だけが仕事相手を選んでいるのではなく、売れていようがなかろうが、役者もまた自ら選択しているんです。仕事相手は、自分で選びたい。そのためにも、日頃から目を養っておきたい」(渡辺)。

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映画祭ゲストでワイワイとそろってランチ。ここから新たな出会いが生まれる。

 共に審査員を務めるメンバーは、映画『太陽の年』(1984)で知られるポーランドクシシュトフ・ザヌーシ監督を審査員長に、ロシア映画『草原の実験』(2014)のアレクサンドル・コット監督 、『ルナ・パパ』(1999)などの脚本家イラクリ・クヴィリカーゼ、ドイツ映画祭2016で『閉ざされた部屋の嵐』(2015)が上映されたイザベル・シュテーヴァー監督、中国のインディペンデント映画のプロデューサーであるヤン・ユージン。渡辺は事前に、彼らが手掛けた作品を可能な限り観賞してから渡航したという。

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審査員メンバーと一緒に。(写真右から)イザベル・シュテーヴァー監督、脚本家イラクリ・クヴィリカーゼ、クシシュトフ・ザヌーシ監督、渡辺真起子、アレクサンドル・コット監督、プロデューサーのヤン・ユージン。

 「毎回、審査員の作品を事前に観賞するのは必須です。お互いに母国語で話せない可能性が高いので、より相手の職歴や趣向を理解しておいた方が、話し合いをした時に分かり合えるかなと思って。一緒に審査する方へできる限り敬意をはらいたいとも思ってます」(渡辺)。

 同様の事をザヌーシ監督も考えていたようで、彼の発案で会期中、審査員たちが手掛けた作品を皆で観賞する時間を設けたという。「映画祭側もそのために上映劇場を特別に開けてくれたのです。ステキでしょ!? 人種や国籍の違うメンバーが集って映画を見るなんて、ある意味、平和なのかもとしみじみ考えてしまいました」(渡辺)。

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コンペには日本の作品も2本!

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『無伴奏』を引っさげて現地入りした矢崎仁司監督。審査員特別賞を受賞。
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映画祭グッズの数々。他ナイロンの上着もいただいたという。

 コンペティション部門の作品は、矢崎仁司監督『無伴奏』(2015)、真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)を含む15本。1日2~3本、多い時で4本を審査員皆で観賞し、全て見終わってから審査会議に挑んだという。受賞結果は次の通り。

●最優秀作品賞
クリスチャン・ヴェルナー監督『フォーリン・ボディ(英題) / Foreign Body』(ドイツ)

●最優秀監督賞
ニノ・バシリア監督『アンナズ・ライフ(英題) / Anna's Life』(ジョージア)

●主演女優賞
エカ・デメラッゼ『アンナズ・ライフ(英題) / Anna's Life』(ジョージア)

●主演男優賞
ウラジミール・ミシュコフ『ドリームフィッシュ(英題) / DreamFish』(ロシア・エストニア)

●審査員特別賞
矢崎仁司監督『無伴奏』(日本)

●アラ・スリコフ(監督)名誉会長賞
ドリット・アキム監督『ムーン・イン・ザ・トゥエルブス・ハウス(英題) / Moon In The 12th House』(イスラエル)

●ユジノサハリンスク市長賞
●観客賞
オムニバス『ザ・ペテルブルク・オンリー・フォー・ラブ(英題) / The Petersburg. Only for love』(ロシア)

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ユジノサハリンスク市長賞と観客賞をW受賞した『ザ・ペテルブルク・オンリー・フォー・ラブ(英題) / The Petersburg. Only for love』(ロシア)は、ロシアの女性監督7人によるオムニバス映画。ロシア映画界の新たな流れを予感させてくれる作品だ。

 「審査は、審査員長のザヌーシ監督の主導により、テキパキと進められました。1人2ポイントを持ち、ポジティブな面から語り合い、多数決で受賞作を絞っていく。皆の共通した意見としては『できるだけ多くの作品に賞を渡したいね』と。セレクションの全体的な印象は、映画祭のタイトル通り、エッジの効いた作品が多いなという印象です。移民、貧困、虐待、民族問題などが日常にある。どこの世界も状況は近しく一緒なのだと痛感しました」(渡辺)。

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海辺へピクニック&カニ!

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サハリン名物のカニに舌鼓。
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連日の審査で疲れたのか?「海が見たい」という審査員仲間の声が上がり、海辺にピクニックに出かける事に。映画館という密室から解放されて楽しそう。

 今回は千歳経由で、オーロラ航空でサハリン入り。航空代と宿泊費は映画祭側の招待で、4ツ星ホテルのパシフィック・プラザ・サハリンに宿泊。審査の合間には観光ツアーも用意され、かつてここが「樺太」と呼ばれた日本の領土であり、日露戦争の激戦地となった痕跡も見学した。

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レーニン像と一緒に。ソビエト社会主義共和国連邦崩壊時に多くのレーニン像は市民の手によって倒壊・破壊されたが、これはロシアに現存している中で最大級だという。

 「ロシア映画と言えば、国際的に今注目されているのは『父、帰る』『裁かれるは善人のみ』アンドレイ・ズビャギンツェフ監督作。なんとなく暗く重いという印象がありましたが、賞の冠名にもなっている映画祭名誉会長アラ・スリコフ監督はコメディー映画を主に手掛けていて、ミュージカル作品もあり、とても興味深いです。ユジノサハリンスク市長賞と観客賞を受賞した、ロシアの女性監督7人によるオムニバス映画『ザ・ペテルブルク・オンリー・フォー・ラブ(英題) / The Petersburg. Only for love』は、ペテルブルクの人たちの日常をユーモラスに描いていて和まされました。これらの作品は日本で上映される機会はなかなかないと思いますし、審査員自体の日当というのもないのですが(苦笑)、でもこの場所に来なければ出会えない人・作品がある。これからもレコードの“ジャケ買い”じゃないけど、こうして自分で足を運んで、新たな才能や作品との出会いを少しでも多くの人に伝えられたらと思います」(渡辺)。

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