キテる!?続々公開されるスペイン映画に注目!
今週のクローズアップ
昨年秋に約18年ぶりの直行便が復活し、盛り上がりを見せるスペイン。映画界でも、公開中の『怪物はささやく』をはじめ、この夏は『しあわせな人生の選択』(7月1日公開)『スターシップ9』(8月5日公開)など、スペイン映画やスペイン人監督の作品が続々公開されるほか、Netflixなどの動画配信サービスのおかげで、本国ヒットのビデオスルー作品も手軽に見られちゃうご時世。というわけで、芸術と情熱の国スペインに、まずは映画で手っ取り早くひとっ飛びしちゃいましょう!(編集部・浅野麗)
マストチェックの巨匠監督はこの人!
スペイン映画といえば……スペイン映画界が誇る巨匠、ペドロ・アルモドバルでしょう。その作品の数々は赤をイメージカラーとした芸術的な世界観が確立されており、まさしくスペインらしい映画の代表格といえます。また、アントニオ・バンデラスやペネロペ・クルスといったスペインを代表するハリウッドスターである彼らの活躍も、アルモドバル監督の存在あってこそ。代表作『オール・アバウト・マイ・マザー』が第72回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した際には、2人がプレゼンターとして登場し、ウィナーであるアルモドバル監督の名を読み上げ抱擁、会場を沸かせました。その後、アカデミー賞脚本賞も受賞し、今や世界的な監督の仲間入りを果たしたアルモドバル監督。プロデューサーである弟のアグスティン・アルモドバルとともに、製作という形での新しい才能への協力も積極的に行っており、まさしく彼なしにスペイン映画は語れない、最重要人物と言っても過言ではありません。
全編英語作品で成功を収める女性監督
アルモドバル監督のようにスペイン語圏の俳優と共にスペイン語にこだわった映画で成功を収めている監督がいる一方で、スペイン語圏以外の俳優を起用し、英語を中心とした作品で成功しているのが、イザベル・コイシェ監督。『あなたに言えなかったこと』で初の英語作品に挑戦した後、アルモドバル製作総指揮の『死ぬまでにしたい10のこと』や、『あなたになら言える秘密のこと』でその名を知らしめました。2009年には菊地凛子主演、東京を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』がカンヌ国際映画祭のコンペティションに出品されるなど、名実共に世界的活躍を見せる女性監督の一人となったコイシェ監督。「自分と仕事をした俳優に対してすごく忠誠心がある」と自ら語るように、一度タッグを組んだ俳優と再度新作に取り組むことが多く、監督にほれ込まれた菊地凛子も『ノーバディ・ウォンツ・ザ・ナイト(英題)/ Nobody Wants the Night』で再タッグ。女性監督が映画祭でオープニングを飾ることは珍しいといわれる中、第65回ベルリン国際映画祭で見事オープニング作品として上映されました。
今一番アツいのは……本国人気ナンバーワン監督J・A・バヨナ
鬼才ギレルモ・デル・トロがその才能にほれ込み全面バックアップし、『永遠のこどもたち』で鮮烈な長編デビューを飾ったのが、話題の映画『怪物はささやく』が現在公開中のJ・A・バヨナ監督。『永遠のこどもたち』は長編デビュー作ながらカンヌ国際映画祭でプレミア上映されたほか、本国スペインではその年の年間興行収入1位を記録するなど、その名を一気に知らしめました。続く長編第2作『インポッシブル』で英語作品に初挑戦すると、スマトラ島沖地震による大津波を題材にした同作では、ナオミ・ワッツがアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞で主演女優賞にノミネートされ話題に。そして3作目、英文学の傑作を映画化した『怪物はささやく』では、アニメーションやCGといった現代的なツールを駆使した壮大な世界を見事に作り上げ、映画賞を総なめ。本国スペインでは第31回ゴヤ賞で最多9部門を受賞したほか、年間興行収入1位も記録しました。最新作はなんと世界的大ヒット作『ジュラシック・ワールド』の続編というバヨナ監督。本国人気はもちろん、ハリウッドからの注目も存分に浴び、まさしく今一番ノリにノッているスペイン人監督といえそうです。
おさえておきたいスペイン版アカデミー賞こと“ゴヤ賞”
スペイン映画を紹介するにあたりよく登場するのが「ゴヤ賞」。スペイン版アカデミー賞とも称され、スペイン映画芸術科学アカデミーによって授与される賞のことです。前述した3人の監督も作品賞や監督賞、脚本賞といった主要部門で何度も受賞しているのはもちろん、過去3度にわたり、ゴヤ賞で作品賞を受賞した作品がアカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。
7月1日に公開される『しあわせな人生の選択』は、第30回ゴヤ賞にて、コイシェ監督の『ノーバディ・ウォンツ・ザ・ナイト(英題)/ Nobody Wants the Night』を抑え、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞の最多5部門を総なめ。あの映画批評サイト Rotten Tomatoes でも、100%フレッシュを獲得した注目作です。自身の母親の闘病体験を「ユーモラスな形で表現したい」と作り上げたセスク・ゲイ監督の思いを、アルモドバル監督作、コイシェ監督作でおなじみのスペイン人俳優ハビエル・カマラと、『瞳の奥の秘密』や『人生スイッチ』などのアルゼンチン人俳優リカルド・ダリンという、ラテン映画界きっての実力派俳優の2人が素晴らしい演技で体現。親友の死という悲しいテーマではあるものの、終活を共にする彼らの姿は不思議とあたたかな余韻を残してくれます。
Netflixでチェックできる! 次世代の才能たち
良作はたくさんあるものの、やはり英語以外の作品となると劇場公開のハードルが高いのが現実……ですが、それも動画配信サービスの普及により、より手軽に見られるようになりました。最後に、現在Netfilxで見ることのできる注目の作品をいくつかご紹介しましょう。
まずは、今年の2月に授賞式が行われた第31回ゴヤ賞で、作品賞、新人監督賞、助演男優賞、脚本賞の4冠を手にした注目作『物静かな男の復讐』から。アルモドバル監督作『アイム・ソー・エキサイテッド!』やNHKで放送されていた海外ドラマ「情熱のシーラ」に出演していた俳優のラウール・アレバロの監督デビュー作。初監督ながら見事栄冠を手にしました。静かに進められていく復讐劇と衝撃の結末。決して派手ではありませんが、不思議な後味を残す作品になっています。
続いて、地方独自のカルチャーが色濃く、独立志向なども盛り上がっているスペインの今を「娘の結婚」をテーマにユーモラスに描き、スペインで大ヒットを記録した『オチョ・アペリードス・バスコス(原題) / Ocho Apellidos Vascos』の続編『オチョ・アペリードス・カタラネス』。こちらは残念ながら第1作が配信されていないので、登場人物の相関関係など少々困惑してしまうかもしれませんが、ラブコメなのであまり深く考えずに楽しむことができます。スペイン文化の典型的な地方ネタなどが盛り込まれており、スペインについて勉強している人などにも良さそうです。
そして、このシリーズ2作で注目のカップルとなったのが、主演のダニ・ロビラと、恋人役のクララ・ラゴ。実際に交際に発展しただけでなく、共に役者業も順風満帆。ダニはゴヤ賞の授賞式で司会を務めたほか、突如難病と診断され100メートルも歩けないといわれた主人公がトライアスロンに挑戦すべく気難しい義父と奮闘するという、実話をベースにした笑いあり涙ありのヒューマンドラマ『100メートル』に主演。『オチョ・アペリードス』シリーズで恋人の父親を演じたカラ・エレハルデと義理の親子として再共演し、カラが第31回ゴヤ賞で助演男優賞にノミネートされる話題作となりました。一方、クララの主演映画『スターシップ9』は、8月5日に公開される注目作。新鋭アテム・クライチェ監督が、Netflixのドラマシリーズ「ナルコス」の制作チームとタッグを組んだ長編デビュー作で、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のアレックス・ゴンザレスと共演。近未来を舞台に、運命の出会いを果たした男女の純愛が描かれています。