お父さんと付き合うのって難しい!7人の映画の“パパ”
今週のクローズアップ
年をとるにつれて、父親との会話が減ったりしていませんか? 間もなく公開される『ありがとう、トニ・エルドマン』をきっかけに、「一緒に暮らしたら大変そうだけど愛すべきパパ」たちが登場する映画をピックアップしてみました! 映画の中から父親とうまく付き合うヒントが見つかるかも?(構成・文:シネマトゥデイ編集部 石井百合子)
『スター・ウォーズ』シリーズ“敵だと思っていたら父だった”ダース・ベイダー
ここが最高!:強い
ここがイヤだ!:気に食わないことがあると“フォース”を使って大暴れする
うまく付き合うには……
自分のピンチを見せて情に訴える
『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)で、ダース・ベイダーがルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)との戦いの最中に、「おまえの父はわしだ!」とまさかのカミングアウトをするシーンはあまりに有名。ルークが「No!」とショックを受けていた通り、宿敵が父だったなんて、受け入れるのに時間がかかりそう……。続く『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(1983)の終盤、ルークはしつこく自分を暗黒面に引き入れようとするベイダーと格闘の末、ベイダーの右手を切り落として瀕死の状態に追い込む。しかし、ルークが皇帝に追い詰められた際、ベイダーは最後の力を振り絞って皇帝を殺害し、ルークの命を救う。「父さんにはまだ善の心が残っている」というルークの思いが通じたのか、つかの間、父子としてルークとベイダーが対話するシーンは感動的だった。ベイダーがこれだけ多くの人に愛されるのはビジュアルのみならず「父」としての側面が大きいはず。
『ありがとう、トニ・エルドマン』“神出鬼没の人生コンサルタント”ヴィンフリート/トニ・エルドマン
ここが最高!:常にユーモアを欠かさない
ここがイヤだ!:ヘンなカツラ&入れ歯の変装姿でつきまとう
うまく付き合うには……
自分も父にならって変装してみる
ルーマニアの首都ブカレストで日々せわしく働くイネス(ザンドラ・ヒュラー)のもとに、ひょっこりやってきた変装とジョークが大好きな父ヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)。しかし、イネスは大手石油企業との契約延長がかかったビッグプロジェクトを目前に気持ちが張りつめており、父に構っていられない。ふとしたことで取引先の役員の機嫌を損ね意気消沈したかと思えば、スパの店員には横柄な態度。そんなイネスを心配したのか、一度はイネスのもとから去ったはずの父が別人の変装をして現れ「人生のコーチングをするトニ・エルドマン」を名乗り、まとわりつくように。女子会の最中にいきなり父親が現れたらそりゃドン引きするし、正体バレバレなのに別人のフリをしている意味がわからない。屋上で上司ともめていたら背後で「ブーブークッション」に腰掛けていたり、大事な仕事の前に「逮捕しちゃうぞ~」とイネスに手錠をかけると手錠のカギを紛失して大騒ぎしたり。はっきり言ってとっても迷惑だし、役に立っているとは言えないのだけど、クライマックスにイネスが見せる劇的変化を見ると、どんなかたちであれ、娘を思う父の思いは効果絶大なのだと思い知らされる。エルドマンがラストで披露する“とっておき”のコスプレも見もの!
『ゴッドファーザー』“ザ・頼れる男”ビト・コルレオーネ
ここが最高!:浮気なんてもってのほか! 家族第一
ここがイヤだ!:頼みを断ると恐ろしい攻撃にでる
うまく付き合うには……
父親とは違う分野で才能を発揮し、信頼を得る
名優マーロン・ブランドが演じたビト・コルレオーネは、時代を超えて愛される名キャラクター。マフィアのドンで、義理と礼儀を重んじる男。政治家の友人も多い権力者で、娘の結婚式の日にも人気歌手をはじめ頼み事をする友人たちが次々と押しかけ、休む暇がない。彼を「ゴッドファーザー」(尊称)と呼び、友人として接しさえすればどんな頼み事でも“解決”してくれるというが、その手段はかなり強引で血なまぐさい。一方、良き家庭人でもあり、長男ソニー(ジェームズ・カーン)の浮気に感づいているのか、さりげなく「家庭を大切にしない奴は男じゃない」と戒めることも。商談で父の話を遮ろうとしたり、うかつで短気なソニーをあまり信頼していないようで、3人の息子たちの中では唯一堅気で、エリートの三男マイケル(アル・パチーノ)を溺愛している。政治家として陽の当たる道を歩んでほしいと発破をかけるが、ソニーが暗殺されたことから図らずもマイケルが次期ドンに。孫(マイケルの息子)の前では好々爺となり、家庭人とマフィアのドンとのギャップもたまらない。
『はじまりへの旅』“アメリカ版「北の国から」”ベン・キャッシュ
ここが最高!:勉強、サバイバル術、政治、哲学、何でも教えてくれる
ここがイヤだ!:森の外に出ると変人に見られる
うまく付き合うには……
一回、徹底的にディスる
森の中で6人の子供を育てるベン・キャッシュ(ヴィゴ・モーテンセン)。電気もガスもない自給自足の生活……というと、まるでテレビドラマ「北の国から」の黒板五郎のようだが、ベンはそれを上回る頑固な性格だ。とはいえ、ベンの「通学しない」教育方法は18歳の長男から7歳の末っ子まで、古典文学や哲学を学び6か国語をマスターするほどの徹底ぶり。長男はイェール、スタンフォード、ハーバード、MIT(マサチューセッツ工科大学)、ブラウンなど名門大学に合格する秀才。さらに肉体トレーニングも欠かさず、ケガへの対処法、星を頼りに森を進む方法、食用植物、服の作り方、ナイフ一本で生き残る方法、性の知識まで教え、心機能と筋肉は一流アスリート並み。しかし、森を一歩出ると子供たちは自分たちがいかに世間とずれているのかを目の当たりにすることになる。ベンの妹夫婦の家で夕食に鳥料理が出れば子供たちは「鳥はどうやって殺したの?」と無邪気に尋ね、ベンは子供たちからワインをねだられると躊躇することなく注ぎ、妹夫婦の子供に妻の死因を聞かれれば事細かに説明する。そんな彼らに妹夫婦は困惑し、ベンの教育方針に「子供は学校に行き世界を知らなきゃ」と異を唱えても取り合う気配はない。「子供たちを救っている」というベンだが、経験したうえで拒絶するのと、知らないまま拒絶するのとでは大きく異なってくる。ベンが自らの価値観のみで育てることは、本当に子供たちを幸福にするのか。亡き母親を弔うために森を出た彼らの大冒険は、多くの疑問を投げかける。それにしても、葬儀に真っ赤なジャケットで参列するのはカンベンしてほしい。
『96時間』シリーズ“親バカ大賞グランプリ!”ブライアン・ミルズ
ここが最高!:親バカなところ
ここがイヤだ!:親バカなところ
うまく付き合うには……
まめに連絡を入れて安心させる
ブライアン・ミルズ(リーアム・ニーソン)は、別れた妻との間に生まれた美しい娘キム(マギー・グレイス)を溺愛する元工作員。1作目では旅行先で人身売買組織に連れ去られた娘を奪還し、2作目、3作目でも危機から救ってきたスーパーパパだ。強くて頭が良くてダンディーで、こんなパパがいたら怖いものなし! と言いたいところだけど、度を越した親バカぶりには引いてしまう。誕生日プレゼントにはカラオケマシン(しかしキムは新しい父親から贈られた馬に夢中に)というズレっぷりからもまったく周りが見えていない! 親友と海外旅行に行きたいとねだられると「危ないから」と頑なに却下し、「じゃあパパも行く」とまで言い出す始末で、恋人ができるとGPSを駆使して恋人の自宅を突き止める……。といった風で、いつまで経っても子離れしないので結婚にこぎつけるのは相当ハードル高そう。
『サイン』“妻を亡くし、信仰を失った元牧師”グラハム・ヘス
ここが最高!:家族を守るためなら宇宙人が相手でもひるまない
ここがイヤだ!:トラウマに触れると子供相手でもかんしゃくを起こす
うまく付き合うには……
決してトラウマに触れないこと
無残な交通事故で妻を亡くして以来信仰を捨て、牧師を退き、2人の子供を育てながら弟メリル(ホアキン・フェニックス)と農場を営むグラハム・ヘス(メル・ギブソン)。ある日、トウモロコシ畑に巨大なミステリー・サークルが出現。間もなく、それが世界各国で目撃されていることがわかる。特殊能力を持っているわけでもなく、ごく平凡な小市民ながら、やがて現れる宇宙人(衝撃的なビジュアル)に包丁で立ち向かい、指を切り落とすなどピンチには強い。妻を轢いた男と対面しても責めることなく冷静な良識人だ。が……いよいよ宇宙人の脅威が迫り、ある晩にまるで最後の晩餐のようにテーブルについたとき、息子がヘスに祈りをせがんだ瞬間、豹変。彼の中で何かが決壊したかのように「祈りはやめた」と断固拒否する姿にシーン……と気まずい空気が流れると、ヘスは子供たちの食事にフォークを突き立て、子供たちは怯えて大泣き。良識人であるほど背負っているもの、抑圧しているものが大きくて、ポッキリ折れやすいのかも……。
『お父さんと伊藤さん』“息子夫婦の家を追い出された背中に哀愁漂う”お父さん
ここが最高!:とにかく元気
ここがイヤだ!:わがままで口うるさい
うまく付き合うには……
おおらかな性格の恋人、夫と2人体制で接する
20歳年上のバツイチ・伊藤さん(リリー・フランキー)と同棲する34歳の書店アルバイト・彩(上野樹里)のもとに、突然ボストンバッグと謎の箱を持ったお父さん(藤竜也)がやってくる。兄夫婦にいられなくなったようで、「しばらくこの家に暮らす。狭いけど何とかなるでしょ」と宣言。彩いわく、お父さんは「爆弾のような人」で、「意固地、気難しいというかうるさい」。夕食時には「中濃ソースじゃなくてウスターソースでないと嫌だ」と駄々をこね、「食事は和食、味付けは薄味で」「スプーンをなめるんじゃない」とまあ、うるさい。休日にお父さんをもてなそうと出かけ、「映画は面白かったよね?」と言えば「目がまわった」と返し、ああ言えばこう言うといった調子。これまで同居してきた兄嫁はよほどつらかったのか鬱病気味で、お父さんの顔を見るなり嘔吐するほど。それでも「死ぬ前に好きにやって何が悪い」というお父さんの言い分はもっとも。これまで家族のために働いてきたにもかかわらず、なぜ厄介者扱いされなければならないのか。口やかましいお父さんだけど、映画を見終えるころには「ちょっとぐらい大目に見よう」と寛容な気持ちになり、これまで自分がしてもらったことを思い返すきっかけになるはず。