ハリウッド、女性搾取のセクハラ構造を伝えた二大女優(2/2)
名画プレイバック
今:「フュード/確執」にも登場する悪名高き記者ヘッダ・ホッパーは本当に嫌な女だなと思うし、マスコミって……と複雑な思いも。ホッパーをモデルにした記者はコーエン兄弟の『ヘイル、シーザー!』(2016年)にも出てきますが、ほんと古き良き時代どころか1950年代のハリウッド黄金期はちっとも「夢の工場」じゃないなあと。
山縣:ホッパーは女優としては成功できずにゴシップ記者になった悪魔のような女なの。彼女より先に活躍していたルエラ・パーソンズと競いながらスターたちのゴシップを面白おかしく書きたてて話題作りをしていたんだよね。
今:『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)でヘレン・ミレンが演じていたホッパーは、彼女自身もキャスティング・カウチの被害者であり、その恨みを晴らしたくてスタジオのボスたちの弱みを握ったという描かれ方でしたね。一方のパーソンズはメディア王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの子飼いで、虎の威をかぶっていた。
山縣:スターのゴシップをスクープすることに情熱を捧げた女性たちで、記事が真実であろうがなかろうが気にしないの。話題になればいい。スタジオのオーナーたちは、とにかく映画を当てたい、客を呼び込みたいというだけなので、ホッパーとパーソンズという二大ゴシップ記者に情報をリークし、火に油を注ぐわけ。もちろん、興行は商売だからそういう面も全否定はできないんだけど。
今:そこに女優は年齢差別(エイジズム)が加わる。
山縣:女優は金の卵を産むガチョウでいるうちはまだしも、20代も半ばを過ぎれば商品価値は落ちたと判断されてしまった時代。今もそうしたエイジズムはあるんだけど、デイヴィスとクロフォードが『何がジェーンに起ったか?』に出演した当時の50代なんて、言い方は悪いけど当時のハリウッドとしては女優としては終わってるわけですよ。それが、再び脚光を浴びて、マスコミに煽られて、本人たちもそうした世間の期待に応えようとしてしまったところは大いにあると思う。
今:デイヴィスや前述のハヴィランド、ヘプバーンらが第一歩を踏み出したけれど、続く1970年代にはジェーン・フォンダやバーブラ・ストライサンド、シャーリー・マクレーン、キャサリン・ロスらが、ウーマンリブの騎手として頑張った。それでもやっぱり、ワインスタインを見ていると旧態依然を維持させてしまった事実は、業界全体の問題として捉えなければいけないですよね。
山縣:忖度と自主規制の悪しき慣習だよね。セクハラ&レイプ騒動勃発直後、ワインスタインは「1960年代、1970年代には仕事のやり方が違っていた」とコメントしたけれど、さすがに2000年代にもなって同じようにやっていたのは時代について行けなさ過ぎて現状に至っているのだと思う。でも、これは氷山の一角で、今でも続々と声を上げる人々が女優だけでなく男性も監督、スタッフら関係者は後を絶たない。
今:リース・ウィザースプーンが「勇気ある人々が(ワインスタインの行為について)語るのを耳にして、私も声を大にして語らなければならないと思った。今ほど、自分が孤独じゃないと感じたことはない」と語っていたけど、デイヴィスもクロフォードも、あの時代に闘っていた女優たちの多くは、きっと本当に孤独だったんだろうなと思う。SNSもなかったし。
山縣:ハリウッドではもちろん、強い連帯でサバイブしながら良い作品を作ろうとしている人たちはいるし、エマ・ワトソンやブリー・ラーソンのほか、特に10代、20代のスターには人間としての当然の権利としてフェミニズムを体現している、頼もしいスターたちがたくさんいる。簡単に解決できることではないと思うけど、まずはすべての膿を出し切って、新しいハリウッドがどうあれば良いのかを私たちマスコミも考えていかないとね。
海外ドラマ「フュード/確執 ベティvsジョーン」はBS10 スターチャンネルにて毎週金曜よる11:00ほか日本独占放送中
プロフィール
今祥枝(いま・さちえ) 映画・海外ドラマライター。10月より「女性自身」で海外ドラマのコラムの月一連載スタート。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。当サイトではほかに「厳選!ハマる海外ドラマ」を担当。Twitter:@SachieIma
山縣みどり(やまがた・みどり) 「anan(アンアン)」や「GQ」、「ELLE」などで映画レビューやインタビューなどを執筆。この秋はやはりNYに旅したい。エイミー・シューマー主演の「Meteor Shower」など観たい舞台がいっぱい!