河瀬監督らが語る日仏映画合作協定はなぜ必要なのか(5/6)
映画で何ができるのか
日仏映画協力協定の意義
市山:国際共同制作についてわたしの知識からお話しますと、わたしは今までプロデュース作4本でCNCから助成を受けています。その全てがジャ・ジャンクー監督の中国映画で、大変助かっております。最近の2本の作品『山河ノスタルジア』(2015)と『帰れない二人』(9月公開)は、こちらにいらっしゃるジュリエットさんのお力でMK2からCNCのシネマ・ドゥ・モンドに申請していただき、助成金をいただきました。
ただシネマ・ドゥ・モンドは、低予算映画は申請ができるのですが、ある一定の予算を超えると両国で合作協定がないと厳しいようです。前述した2作品は製作費5億円以上とかなり大きな金額だったのですが、これが申請できた理由は、中国とフランスの間で合作協定があったからです。つまり、今の日本映画でも製作費2億円ぐらいの作品は申請できるのですが、もう少し予算が上がってしまうとシネマ・ドゥ・モンドに申請できないということになります。そういった意味でも、日仏映画合作協定が締結されるというのは、日本映画にとって重要になってくると思います。
オリヴィエ・デルプー:わたしも両国が密接な関係を結んでいくことを期待しています。わたし共としてもフランス映画祭の強化、さらにはアンスティチュ・フランセ東京や通常の劇場で、若い方にも鑑賞していただけるようなプログラムを組んでいきたいと思います。幸い日本では、(地方の映画館や上映団体などで組織する)コミュニティシネマのネットワークがあるので、全国での巡回上映を強化し、日本でのフランス映画ファンを増やしていきたいと思っています。
ジール:ところで河瀬さん。カンヌ国際映画祭でカメラドールを受賞する前の、あなたの作品のフランス配給はどのような感じだったのですか? あなたがフランスで紹介されるようになったきっかけを教えてください。
河瀬:『萌の朱雀』がカンヌ国際映画祭で上映されるに至った流れというのは、実はわたし自身も、日本のプロデューサーも図らずも……という感じでして、カンヌのディレクターが見つけてくれたのだと思います。
本当にフランスの映画関係者たちは、世界中から映画を探してくれます。新しい監督を発見するという使命の中に、日本の監督も入っている。そのような目を日本だけじゃなく、他の国の監督にも向けていると感じます。つまりわたしのような、日本でしか撮っていない、カンヌのこともよくわかっていなかった監督を一生懸命探して見つけてくれたのです。
では、発見の場がどこになるかというと、これはインターナショナルな映画祭なのかなと思います。そこへ行くにはどうしたらいいか。日本人は日本語しか知らないので、そこに英語字幕を付けて、さまざまな映画祭に選ばれる努力をする。そのような時にプロデューサーや、日本の映画関係者が架け橋になってくれたら良いのかなと思います。
今までの全体的な話の流れを聞いていますと、やはりアンテナを働かせるという意味では、フランスの皆さんはそれを実行しているからこそ、長い歴史の中でいろんな国の監督たちと関係を育んできたのだと思いました。その点日本は、国内で経済的にも配給が成立してしまうので、あえて国を越えて、外に行かなくても大丈夫という考えがあるのだと思います。でも映像作家にとっては、世界で観てもらえるというのは視野が広がり、そしてあらゆる国の感性がわれわれの中にも入ってくることは重要です。今、この場に日本の映画関係者の皆様が多数来られていると思うのですが、フランスの皆様とコラボレーションしたり、意見交換することでアンテナを働かせることができ、次の場につながるのかなと思いました。