日本映画の殿堂!テアトル新宿
ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記
本年こそは充実した年にしたいと思っておりますが、さてどうなりますことやら。第1回目は、新宿に来ました。歌舞伎町や西口の高層ビル街、おもいで横丁とも程よく離れて、落ち着いた新宿三丁目。東京メトロ丸の内線、都営新宿線B3出口から徒歩3分、JR、小田急、京王新宿駅東口から徒歩10分。北側に花園神社、南側に伊勢丹。靖国通りの並びの新宿ピカデリーや、明治通りとの五丁目交差点辺りにできたシネコンとは対照的な、テアトルビルの地下1階のワンスクリーンの映画館。かつてこの交差点に、映画のポスターやチラシの専門店があったので、1980年代からウロウロしていましたが、映画を観たのは1990年代になってから。
ラインナップが話題の邦画専門劇場
階段を降りると、外の喧騒を忘れる静かな空間が、映画を観に来たといや応なしに期待は高鳴る。カウンターのタッチパネルで、事前に予約したチケットを発券。並びの売店にはドリンク、お菓子、軽食のメニュー、中には珍しいものも置いてあって豊富。ホットドッグは注文が入ってから作るので、でき立て。席での飲食が可能なので、鑑賞のお供にぜひ。
ショップでは公開中と過去作品のパンフレット、関連書籍の品ぞろえも充実している。落ち着いた雰囲気のロビーには1人掛けのミニソファーが多く置かれていて、予告編を映すモニターを観ながら待つこともできる。218席の場内は、ミニシアターと呼ぶには広い。床は段差のないスロープで安心。シートは、背もたれが高くて座り心地は抜群。
個性が定まった90年代
1957年にオープン、1968年に名画座として現在の建物とになり、2014年にリニューアルして現在に至る。過去にはミニシアター向けの洋画も多く上映していたが、1990年代の半ばから邦画の割合が増え、徐々に邦画専門館へと移行していった。話題の作品と共にレイトショーでは、他では上映しないマニアックな作品を選ぶ多彩なラインナップ。ここでやる作品だからとチェックするファンが数多くいる。
僕らの世代には北野武監督作品を、初期からずっと上映している印象が強く、『3-4X10月』(1990)とか『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)など、当時一般受けしなかった北野作品を積極的に上映。その効果もあってか、第54回ベネチア映画祭で金獅子賞を獲った『HANA-BI』(1997)は、いまだこちらの興行収入第1位をキープし続けている。単館でのヒットが全国拡大となる現象の先駆け的存在ともいえる同館。
興収2位は記憶に新しいアニメーション映画『この世界の片隅に』(2016)、興収3位は岩井俊二監督『Undo “アンドゥー”』(1994)と『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1994)の同時上映、さらに興収6位も北野監督『Kids Return キッズ・リターン』(1996)と1990年代の記録はいまも燦然(さんぜん)と輝いている。また、青山真治監督『EUREKA ユリイカ』(2000)は3時間37分を一挙上映して話題になった。
近年のヒット作は、岸井ゆきのと成田凌共演の『愛がなんだ』(2018)。「このときは非常に若い10~20代の方にたくさん来場いただいたのが印象に残っています。注目の監督や話題の役者さんの作品だけでなく、新人監督の作品も幅広く上映しています」と、支配人の大谷卓也さん。
舞台あいさつやトークイベントが多いと定評
大谷さんは京都市出身。専門学校卒業後、大阪の映画館にアルバイトで入り、就職ののち、4年前に都内に配属され上京。2年前に東京テアトルに入社し、昨年5月から現職に。まだフレッシュな支配人さん。
「『金曜ロードSHOW!』とか、ハリウッド映画を主に観て育ったので、邦画はあまり観てなかったです。高校生だった1990年代後半はミニシアター全盛で、『トレインスポッティング』(1996)、『マルコヴィッチの穴』(1999)とか、そういうのから影響を受けました。でも実際に映画館で働いてみて、それまで観てなかった作品に触れると、ああ、このジャンルも面白いなあ、深いなあ~って、いろんな発見がありました。そして現在は邦画に囲まれています(笑)」
そんな大谷さんが歴代の支配人より受け継いでいる同劇場の魅力の1つとして、監督やキャストの舞台あいさつやトークセッションがある。
「イベントには力を入れています。洋画と違って邦画専門なのでスタッフやキャストの方を呼びやすいというのもあります」
一昨年に公開した『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(2019)では、舞台あいさつの日に台風が直撃してやむなく中止に……。翌日に監督とキャストが急きょ来館してサイン会を行ったことも。また毎年実施している「若松孝二監督 命日上映」では、観客として来ていた井浦新に急きょトークに参加してもらったこともある。
「最近では12月に『私をくいとめて』(2020)で、主演ののんさんや監督・キャストの方々をお迎えしての舞台あいさつがありました。当館は比較的多くのんさんの作品を上映していて、昨年はこの作品のほかに『星屑の町』と『8日で死んだ怪獣の12日の物語 -劇場版-』を公開したのですが、いずれもコロナの影響もあってリアルでの登壇が実現しなかったので、なおさら感慨深かったです」
映画をイメージしたオリジナルドリンクが人気!
新作の公開にあわせて、作品をイメージしたオリジナルドリンクをスタッフが知恵を絞って考え、人気を博している。『滑走路』(2020)では、映画のシーンの朝焼けと夕焼けをイメージした紅茶のドリンクを販売。
『私をくいとめて』では、主演ののんさんが甘酒のCMキャラクターをしている関係もあり、甘酒とオレンジジュースをミックスしたドリンクを「糀甘酒ブラッドオレンジテイスト」とのんさんが命名。これはおいしかった。
社史は日本映画興業史そのもの
創業者の吉岡重三郎氏は、東京宝塚劇場(現・東宝)社長、後楽園スタヂアム(現・東京ドーム)社長、日活社長を歴任、また大映の発起人のうちの1人。戦後1946年、東京テアトル株式会社(元・東京興行)を創立。本連載で取材のキネカ大森は日本初のシネコンとして1984年にオープン。東京テアトルグループの中で、僕が一番思い出深いのは、道玄坂にあったシネセゾン渋谷。2011年惜しくも閉館したが、ここでオールナイトなどで本当にたくさんの作品を観た。
テアトルシネマグループは現在、都内近郊6館、関西3館の映画館を運営している。一貫性のあるラインナップ、エリア特性に応じた番組編成で劇場ごとのファンが定着、インディペンデント系トップレベルのシェアを誇っている。フラッグシップ館のテアトル新宿は、日本映画の発展に貢献。また企画製作、配給もしていて、製作・配給の『南極料理人』(2009)は大ヒット、『この世界の片隅に』も、こちら東京テアトルの配給だ。今年は菅田将暉と有村架純の『花束みたいな恋をした』などが控えている。
新人監督の登竜門!
若くはなかったけど新人だった北野武監督作品を世に送り出した。この劇場のお眼鏡にかなった作家は、ブレイクする可能性が大! 新しい才能にスポットを当てた「田辺・弁慶映画祭セレクション」も毎年開催している。
「和歌山県田辺市で毎年11月頃に開催される新人監督を対象にした映画祭『田辺・弁慶映画祭』の出品作から、受賞作4~5本を3週間に渡ってテアトル新宿で上映する企画です。これらの作品は間に配給会社が入っていないので、監督やスタッフと劇場がやり取りをして、公開までの準備を進めていきます。まったく知らなかった個性を見つけるのが喜びで、とてもやりがいがあります」
昨年は思いがけない展開になった。
「毎年初夏に開催なのですが、昨年は11月に延期となってしまいました。しかし、例年、宣伝期間が短かったので、延びたのが逆に功を奏して、告知の時間が十分に取れたため情報が行き渡り、結果、過去1番の動員数となりました。今年も開催したいと思います。この機会にぜひ、新しい多様な作品に触れていただければと。さまざまな発見があると思います」
映画の後は周辺のグルメスポットで
最後に、劇場周辺のおススメのグルメスポットをうかがう。
「よく行くのはスパゲティーNokishitaさん、おいしくてボリュームがあっておススメです。魚を中心にした定食のぼんやさんは、元々居酒屋のようですが、コロナ自粛後にランチも始めたらしくて。そういうお店が多いですね。まあ、食べるところにはこと欠きません」
1990年代初頭を知る僕は、日本映画にこだわらずシャレた洋画のリバイバルとかもやってほしいな……、なんてこと考えながら取材後、ランチを食べるお店を物色。映画を観たあとゴールデン街に繰り出すこともあったけど、まだ昼間。ここから徒歩1分の老舗のカレー店ガンジー、あそこは最高だな~。あ、毎回カレーばっかり食べてますね(笑)。
映画館情報
テアトル新宿
東京都新宿区新宿 3-14-20 新宿テアトルビル B1F
03-3352-1846
公式サイト
Twitter:@theatreshinjuku
ラジカル鈴木 プロフィール
イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。