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映画のワクを超えるカルチャーの発信源 ホワイトシネクイント

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

全景

 再開発まっただ中のマイホームタウン渋谷。2018年に渋谷ロフト向かいの「渋谷シネパレス」を引き継ぎ2年ぶりに復活した「シネクイント」は当連載でご紹介済み。後を追う形で2019年、旧渋谷PARCOパート1、3跡地に建て替えられた新生渋谷PARCOに、新たに映画館がオープン

カルチャー志向におすすめのシアター

新パルコ
新・渋谷PARCO、公園通り側。

 「シネクイント」は、今はなき「シネマライズ」と共に1990~2010年代渋谷のミニシアターブームの象徴だった。時は移り映画の街・渋谷は最盛期を越えた感はあるが……。僕も25年住んで、ずっと見てきた。映画のほか、アート、ファッション、ガングロ、ヒップホッパー、いわゆるシブヤ系文化が華やかだったが、近年はほかの街と変わらないフツーの繁華街みたい。独特の渋谷文化はいずこへ!?  牽引してきた渋谷PARCOは嘆き、お店を集めるだけでなく再び文化をつくると、巻き返しに燃える。

 さっそく渋谷PARCOのエスカレーターで8階の「ホワイトシネクイント」へ。「PARCO劇場」、ギャラリーの「ほぼ日曜日」と同じフロア。公園通りに面したエレベーターは、他フロアの営業時間外は直通となる。

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劇場へ行けるエレベーター
正面から直接劇場へ行けるエレベーター。

 壁面に大きな劇場名。おや、入り口と出口が別? うどん屋「おにやんま」やラーメン「どうとんぼり神座」のようなシステム? 映画館では珍しい。カウンター&売店の横、スクリーン前方から入場し、観賞後は後方の出口から。休憩所、待合室はないシンプルな造り。券売機で指定席のチケットを買ったら、エスカレーターで2つ上がって、10階の眺めの素晴らしい、渋谷が一望できるオープンテラスで待つのがお薦め。

 鑑賞にコーラとポップコーンは必須~、ソフトドリンク+ポップコーンのセットで700円。そして「シネクイント」と言えばクラフトビール、「東京ホワイト」というのが、ここにもちゃんとある。3種のジェラート、ミルク・ピスタチオ・ほうじ茶もおいしそうだなあ。

座席
カーブして並ぶ座席は前後の間隔も十分。

 おおっ、スクリーンを中心に、108席のシートが弧を描きカーブし並んでいる。全座席のどこからでも見やすいスタジアム型。そして前後の座席の間が広めで、通りやすい。さらにシートの左右のひじ掛けどちらにも、ドリンクホルダーが! 通常の劇場では片方しかないことが多いので、隣の客に占領されたり、右利きなのに左に手を伸ばさなきゃならなかったりするけれど、これなら問題なし!

 「ラグジュアリー感、特別感を演出したかったんです。お一人で来ても隣を気にせず、もちろんカップルのデートにも向いています。感度の高いカルチャー好きな方に、PARCO全体で楽しんでいただけると思います」と広報の本戸翔子さん。

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映画館の概念にこだわらず実験的な企画も行う

オープンテラス
10階のオープンテラスが気持ちいい。

 新「シネクイント」の取材の時、映画事業部長の堤さんに「次のシアターは、名称は未定です」とお聞きしていたが、ホワイトとは驚いた。どんな意味が込められているのか。支配人・神戸晶子さんと広報・本戸さんに伺う。

 「皆でアイデアを出し合って決めました。映画館の概念にこだわらず、何色にも自在に染まっていく、という意図です。音楽ものだったり、アートドキュメンタリー、ファッションブランドのコレクションなど、映画以外の作品や、さまざまな文化を取り上げ、実験的な企画も行います」(神戸支配人)

 新しい発見、可能性、才能、楽しみ方、が無限に広がる無垢(むく)な場所なのだ。

 「シネクイント」との違いを尋ねると「シネクイントは路面店ですが、ホワイトはPARCOに入っているので、テナントさんやミュージアムとの連動がしやすく、ここでやることが生きる作品を選んでいます」(神戸支配人)

シネマライズ跡
向かいのシネマライズ、ライズX跡。現在はライブハウスが入る。

 オープニングはドキュメンタリー映画『草間彌生∞INFINITY』(2018)を、続いてデザイナー・三宅一生のショーの制作現場の記録『PLAYGROUNDS Stories behind HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE』(2019)、シンガーソングライター・矢野顕子の“一発録り”レコーディングの記録『SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。』(2017/デジタル・リマスター版)と続いた。今年僕が観たのは、ニューヨークのグラフィティの黎明期をとらえた伝説のドキュメンタリー日本初上映の『Style Wars』(1983)。

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さまざまな角度からアートを楽しめる

アメリカン・ユートピア
『アメリカン・ユートピア』(2020) 監督:スパイク・リー 出演:デヴィッド・バーン 字幕監修:ピーター・バラカン

 館内のギャラリーやショップと連動することで、来場自体がイベントになる上映も積極的に開催!

 伝説のゲイ・カルチャーの先駆者トム・オブ・フィンランドの日本初個展が渋谷PARCO B1の「GALLERY X」で開催された際には、彼の伝記映画『トム・オブ・フィンランド』(2017)を上映。さらに、4階のPARCO MUSEUM TOKYO にてクリーチャーデザイナーとして知られるH.R.ギーガーの作品展が開催された際には、彼のドキュメンタリー映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』(2014)を上映した。

 「今後もマッチする作品があれば、こうした連動上映は積極的にやっていきたいです。それが渋谷PARCO の映画館としての強みでもあります」(本戸さん)

カウンター
チケット&フード・ドリンク、グッズ販売カウンター。

 5月12日からの営業再開に伴い公開となった『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』(2020)では、同じフロアの「ほぼ日曜日」で展覧会も開催。

 「森山大道という一人の稀有なアーティストの魅力を、渋谷PARCOの8階で映画と展覧会を通して堪能できる大変貴重な機会です! ホワイトシネクイントで観ていただくと2倍楽しめます」(本戸さん)

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独自の作品ラインに定評

手描きの看板
ほっこりとするスタッフ手描きの看板。作品にちなんだドリンクも。

 「昨年9月から上映した『mid90s ミッドナインティーズ』の前哨企画として、旧シネクイント最初の作品で、最大のヒット作『バッファロー'66』(1998)と、『KIDS/キッズ』(1995)の2本の90’s作品をかけて大変盛り上がりました!」(神戸支配人)

 昨年11月にはオープン1周年企画「ソフィアとスパイク」を開催した。スパイク・ジョーンズ監督『マルコヴィッチの穴』(1999)、ソフィア・コッポラ監督『SOMEWHERE』(2010)と歴代の話題作を上映。一世を風靡(ふうび)した、いわゆる「PARCO映画」祭りみたい!

 岡崎京子のコミックを実写映画化した『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020)など渋谷の風景が登場する作品もチョイス。6月には、昨年から延期になっていた『猿楽町で会いましょう』(2019)が公開予定。

ホルダーに装着
ドリンク+ポップコーンセットはホルダーで座席に装着、シネコンにも負けてない。

 『バッファロー'66』は今年1月、正式にロードショーとなった。旧シネクイントにアルバイトから入ったという神戸支配人の一番好きな映画を尋ねると「やっぱり『バッファロー'66』です。忘れられない大きな体験でしたから。そのため再び上映できたのは、自分としては爆アガリでした(笑)」。

 広報の本戸さんは入社5年、松本PARCOで営業をしていた。

 「映画が好きなので、映画部門への移動を希望していて、ここのオープンで念願がかないました」(本戸さん)

 好きな作品は『アダムス・ファミリー2』(1993)だという。

 「ですので、アニメの『アダムス・ファミリー』(2019)をPARCOで配給をするって聞いて、すごくワクワクしましたね」(本戸さん)

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これからの渋谷に期待!!

 どうしたら、若い人がミニシアターのファンになってくれるのか?

 「いま一般的に映画鑑賞と言えはシネコンですが、ここに買い物に来た人が、普段目にしないような映画を発見、遭遇して頂きたいです。カルチャーに興味のある若い方を、映画ファンに育てたいんです」と本戸さん。

 また神戸支配人も「いまニュースを見ると、『渋谷にこんなに人がいます。行っちゃいけません!』みたいな報道が多くて、渋谷でお客さんをお迎えする者としては、とても悲しいです。感染対策もちゃんとやっていますので、ぜひいらしください」と映画ファンに向けて呼びかける。

うどん
B1のCHAOS KITCHENで、うどん「おにやんま」の肉ぶっかけ590円をいただく、美味。

 お二人の昼食はほとんど外に出ずPARCO内で済ますらしい。新PARCOは飲食も充実してますからね~。取材終了後のランチは、エレベーターでB1の地下食堂街へ。レトロ&昭和テイストの懐かしい感じのお店のテーマパークのようで楽しい。数軒体験済みだが、五反田のガード下にもあるうどん屋「おにやんま」がここにもあるのがうれしい! ここで食べられるとは(笑)。

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映画館情報

ホワイトシネクイント
東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ8階
TEL:03-6712-7225
公式サイト
Twitter:@whitecinequinto

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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