映画とテレビで活躍するハリウッド女性監督がアツい!(2/4)
厳選!ハマる海外ドラマ
- さまざまな分野を開拓してきた女性監督
- アクション、ホラー、サスペンス、人間ドラマと幅広いカリ・スコグランド
- アカデミー賞脚本賞受賞!エメラルド・フェネル
- 優れたコメディーセンスを発揮するスザンナ・フォーゲル
アクション、ホラー、サスペンス、人間ドラマと幅広いカリ・スコグランド
そんな中、これからがいよいよ女性も本格的にこの分野で作品の顔になれるのかと思わせてくれたのが、MCUシリーズと関連性が高い動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」のオリジナルシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」である。
単独で1シーズン全話の監督としてクレジットされたベテランのカリ・スコグランドは、映画とテレビを通じてアクション、ホラー、サスペンス、人間ドラマと幅広く多くの作品を手掛けてきた。そのキャリアの一つの頂点とも言うべき本作は、それこそスクリーンで観たいと思わせる迫力のアクションシーンからブラック・ライブズ・マター(BLM)に正面から向き合うメッセージ性まで、骨太で実に堂々たる手腕を発揮しておりしびれる。
スコグランドはカナダ出身の映画監督、脚本家、プロデューサーで、2016年より自ら設立した製作会社マッド・ラビットを率いている。編集技師としてキャリアをスタートし、監督として1990年台半ばからテレビや映画で監督を務めるようになる。初の長編映画監督作品をはじめ、1998年のCBCのテレビ映画「ホワイト・ライズ(原題)/ White Lies」はカナダ国内の賞や国際エミー賞候補になるなど、早くから評価されてきた。
2000年代後半から、特に2010年代は名だたるテレビのヒット作・秀作のエピソード監督を数多く手掛けている。「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」(2010~2014)や「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」(2011~2013)など、大掛かりなセットや登場人物が多く、全体を仕切るのは大変だろうなと思える重厚なタッチの歴史劇も目立つ。
ほかにも「ザ・ラウデスト・ボイス -アメリカを分断した男-」(2019)など見どころの多い作品が並ぶが、中でも注目したいのは、プライムタイム・エミー賞を受賞したヒストリー・チャンネル製作の歴史ドラマ「ヴァイキング ~海の覇者たち~」(2013~2020)の連続した2エピソード と、Huluオリジナルの「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」(2017~)のテーマの核心に関わる2つのエピソードだ。
農民や漁民であり、海賊で略奪・植民を行っていた複雑で暴力的なヴァイキングの世界と、自分が北欧神話に登場する神オーディンの子孫だと信じる戦士ラグナル・ロズブローク(トラヴィス・フィメル)を軸とした「ヴァイキング」。スコグランドが監督したシーズン2の第7話と第8話は、シーズンのハイライトとも言うべきエピソードだろう。処刑や大宴会、出産や結婚式から船団を率いての大海原への出港まで、ごりごりとしたダイナミックで力強いタッチで描かれる。
同時に、これは「ハンドメイズ・テイル」にも言えるのだが、俯瞰(ふかん)ショットとセリフがなく音楽とスローモーションを組み合わせたシークエンスで俳優の表情が多くを伝える演出が素晴らしい。「ヴァイキング」では夜に大勢が見守る中、“血の鷲”と呼ばれる背中を刃物で切り開いて、生きたまま肺を取り出すという処刑シーンが見もので、禍々しさもありつつ超自然的な雰囲気もたっぷり。炎に照り返された人々のそれぞれの心情が伝わる表情のクローズアップも含めて、残酷ではあるが引き込まれずにはいられない美しさがある。
「ハンドメイズ・テイル」シーズン1の第10話は、シリーズ中でも屈指のエピソードだろう。女性として、人間としての尊厳も権利もすべてを奪われた侍女たちが、一人の女性をぐるりと囲んで残酷な石打ちの刑を強いられるくだりは圧巻だ。
徹底して虐げられ続けてきた彼女たちが命令に反き、雪がちらつく中、列をなして家路につくシークエンスで伝説の黒人ジャズ歌手ニーナ・シモンの「Feeling Good」がかかる。楽曲に合わせてスローモーションで映し出される主人公ジューン(エリザベス・モス)の表情からは、絶望の中にも決して消えることのない強い“意志”が感じられる。白い雪と赤いローブの対比も美しく、セリフやモノローグではなく映像こそが作品のテーマを雄弁に語るスコグランドの手腕にほれぼれする。
シーズン2の第7話もまた本作における重要エピソードで、かつて編集者だったジューンが支配者層の女性から原稿チェックを頼まれる幕切れのシーンが秀逸で、ここでも物言わぬジューンのしぐさや表情から伝わる強い感情が胸に残る。
「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」ではアクションシーンの配置も周到(個人的にはもう少し観たかったが)で作品の世界観をしっかりと描きながら、長尺のドラマシリーズならではの人間ドラマにも厚みを持たせていた。2時間程度に収めなければいけないというプレッシャーがないことは、現実世界を反映した物語において「黒人がキャプテン・アメリカの盾を引き継ぐことの意味」を追求することを可能にした。またスコグランドは Screenrant.com のインタビューで「全ての登場人物を通して社会的、政治的な観点から話していている」(※1)と語っている。
これまでのMCUシリーズでもそうした視点は盛り込まれてはいたが、ここまで明確に“ヒーローの定義”を通して“アメリカという国家とは何か”をダイレクトに問いかけるメッセージ性は初。MCUシリーズ全体の中での1作品としての色を維持しながら、単体での個性を打ち出すことに成功した立役者の一人だろう。もっとも突き詰めていくといろいろと突っ込みどころもあるのだが、力技で見せて切っているあたりはそれもまた力量と言えるだろうか。
ちなみに、テレビ業界では多くは脚本と製作総指揮を兼ねて現場を統括するショーランナー、あるいは企画や開発を手掛けたクリエイターが映画で言うところのエグゼクティブ・プロデューサーや監督のような位置付けとなっている。だが、Varietyなどによると、「スコグランドは現場で脚本家(ヘッドライター)のマルコム・スペルマンに書き直しを指示する権限があった」(※2)という。
前述のようにテレビの現場ではエピソードごとに監督が異なることも多く、基本的にシリーズ全体を統括する立場にはなく脚本=ショーランナーの仕事に口出しすることは考えられない。だが記事によれば「Disney+」のオリジナルシリーズにおいては、従来のショーランナーは用いず、映画方式を採用するようだ。脚本にこそ重きが置かれ、守られてきたクリエイティビティについて疑問視する声がライターたちの中からあがるのも当然で、この変化が今後どのような影響をもたらすのかには要注目である。
- さまざまな分野を開拓してきた女性監督
- アクション、ホラー、サスペンス、人間ドラマと幅広いカリ・スコグランド
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