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オオカミの家 (2018)

2023年8月19日公開 74分

アリ・アスターも虜にしたトラウマ級の仕上がり『オオカミの家』の評価は?

編集者レビュー

ookami
(C) Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

オオカミの家』2023年8月19日よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開

チリ南部にあるドイツ人集落から逃げ出し、森の中の一軒家で2匹の子ブタと出会った少女が目にする、悪夢のような体験を描いたストップモーションアニメ。監督などを務めたのはチリの2人組アーティスト、クリストバル・レオンホアキン・コシーニャ。日本では、2人の才能を絶賛する『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が製作総指揮を務めた短編『』(14分)と、『オオカミの家』(74分)が同時上映される。

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編集部・倉本拓弥 評価:★★★★

 全てのものは「彫刻」として変化し得る。監督のクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャが制作時に課した、10個のルールのうちの一つだ。そのルール通り、主人公が迷い込む一軒家の空間・家具・色彩全てが破壊・再構築を繰り返し、観客を狂気の世界へと誘う。家全体が生き物のように、目まぐるしく内装が変化するため、次に何が待ち構えているか考える余地を与えない点も、他のストップモーション作品とは一線を画している。

 等身大の人形や絵画のデザインもどこか禍々しく、狂気がにじみ出ているかのような異様な存在感を放つ。それらが動くだけでもグロテスクだが、後半ではそれ以上の悪夢が畳み掛けてくるため、一瞬たりとも気が抜けない。監督コンビが5年かけて完成させた世界観は、『ミッドサマー』で知られる現代ホラーの名手アリ・アスター監督さえも虜にしたトラウマ級の仕上がりだ。本作がきっかけで、アスター監督のトラウマホラー最新作『ボー・イズ・アフレイド(原題) / Beau Is Afraid』のアニメーション・パートの制作を任されるなど、現代ホラー界における新たな逸材の今後の活躍が楽しみだ。(編集部・倉本拓弥)

編集部・入倉功一 評価:★★★★

元ナチス党員のカルト教祖が、チリに設立した移民を中心とした実在の入植地「コロニア・ディグニダ」にインスパイアされたストップモーションアニメ。集落から脱走した娘マリアが、2匹の子ブタと暮らしはじめた一軒家で遭遇する悪夢のような出来事を描く。

絵画や人形で表現されたキャラクターが、ワンシーン・ワンカットで変容していく芸術的なアニメーションには目を奪われるばかり。一度崩壊して別の姿へと変貌していくキャラクターを見ていると、死体のように見えるビジュアルも相まって、まるで彼らが腐敗と再生を繰り返しているような感覚に陥り、徐々に狂気の世界へと誘われる。ヤン・シュヴァンクマイエル作品を初体験した時のような「何か狂った物を観ている」感覚を味わえるはずだ。

実際の入植地では、拷問や殺人、児童虐待、そして洗脳が日常的に行われていたという。暗く不穏でありながら、どこか安心感を覚える世界観は、洗脳された人間の心象風景でもあるからなのだろう。マリアが次第に、自分に囁き続ける、教祖の象徴であろうオオカミの声を懐かしく思っていく展開に身が凍る。

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『オオカミの家』あらすじ

動物が大好きな美しい娘マリアは、チリ南部の山あいにあるドイツ人集落で暮らしていた。ある日、彼女は飼っていたブタを逃してしまったせいで厳しい罰を与えられ、その罰に耐えられずに集落から脱走する。森の中の一軒家に逃げ込んだマリアは2匹の子ブタに出会い、ペドロとアナと名付けて面倒を見始めるが、間もなく森の奥からは彼女を捜すオオカミの声が聞こえてくる。

(C) Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

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