南相馬市の避難所で『THE有頂天ホテル』『男はつらいよ』など無料上映!ポップコーンも無料配布で『釣りバカ日誌8』には笑いも!
東日本大震災の被災地で無料映画上映を行っている非営利団体「にじいろシネマ」(並木勇一・代表)が6月4日、5日、福島・南相馬市内の避難所で上映会を行った。
「にじいろシネマ」は、ホームシアターを手がけているバドシーン(埼玉県越谷市)の並木勇一代表を始めとする社員と映画会社「Loaded Films」の水野詠子さんらが中心メンバー。4月14日から活動をスタートし、今では松竹や東宝など協力企業も増えて、上映許可を得た作品は約80作にも及ぶ。中でも南相馬の避難所は、福島第一原発から半径20キロ圏内の警戒区域から避難して来た方々が中心で、自宅に戻ることも自由に出来ず、復興の光すら見えない不安な日々を過ごしている。そんな方々に「娯楽を届けたい」(並木代表)の思いから同地での上映が実現した。
南相馬は、沿岸部は津波被害を受け、田んぼに流された漁船が多数見られるが、街中心部の家屋に震災の被害はあまり見られず。ライフラインも問題ないようだ。しかし、ほとんどの店舗が休業中。コンビニも営業時間を短縮して営業している。南相馬警察署署員によると、市の人口は約7万人だが「今はもう2万人ぐらいしかいないんじゃないか。皆、他府県に避難してしまったからね。お店も、従業員がいないから営業できないだよ」と説明する。代わりに街中で目にするのは、大阪、石川、愛知など全国から集まった警察関係者。彼らは南相馬の「道の駅」で防護服に着替えてから、連日、警戒区域へ移動し、遺体捜索などを行っているのだ。改めてここが、放射能の脅威にさらされている場所であることを思い知らされる。
4日の上映は、原町第二中学校(避難者数146人)の食堂スペースで行った。上映作品は避難所の方々の希望や年齢層を考慮して現地で決めるのだが、子どもたちは他府県に避難している人たちが多く、高齢者が中心だ。そこで、午前中は福島県いわき市でロケを行った『釣りバカ日誌8』、午後は吉永小百合が2度目のマドンナを務めた『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』に決まった。津波の恐怖を味わった方々に『釣りバカ日誌』を見せることの不安もあったが、地元福島出身の西田敏行が劇中で披露する福島弁のセリフに笑いが起こる。
ただ観賞者は少なく、午前中は約20人ほど。午後は5人ほどで、最後はたった一人になってしまった。被災者の方々は、やっと警戒区域の自宅から自家用車を持ち出すことが許可されたばかり。週末は、バラバラの避難所で暮らす家族の元を訪ねたり、また仮設住宅への入居が決まった方は引っ越し作業に追われていた。落ち着いて映画を観られる状況ではないようだ。それでも、「映画にはポップコーンがつきもの」(並木代表)と始めた、出来たてポップコーンの無料提供がはじまると香ばしい匂いにつられて、各教室にこもっていた方たちも食堂に顔を出すようになった。「子どものころに食べたポン菓子を想い出すねぇ」というお婆ちゃんや、「キャラメルポップコーンのにおいをかぐと、ディズニーランドに行ったときのことを想い出すわ」というお母さんもいた。
翌5日は、原町第一小学校の体育館で前日と同じく『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』と『THE有頂天ホテル』と娯楽作を上映した。ここも高齢者が中心なのは変わらない。しかし70歳代の男性は、全く知り合いのいない避難所で最初は寂しい思いをしていたそうだが「でも、避難所に来て良いこともいっぱいあったよ。人との人との繋がりっていうのかなぁ。そういうのが年々希薄になっていたけど、死ぬ間際になって再び人の厚意の有難味を味わえるとはなぁ」としみじみ語る。またこの日は、『男はつらいよ』上映後に自然と拍手が沸き起こり、「もっとないの?」とおねだりする60歳代の男性や、「『釣りバカ日誌』も観たかった」という女性の声もあった。
実は、東日本大震災の被害を受けた三陸地方は映画館がほとんど残っておらず、遠出をしなければ映画を見られない。「にじいろシネマ」のメンバーが上映へ行くと「東北に嫁いで以来、初めて映画を見た」という声も聞かれたという。そんな人たちが今回の震災で、さらに映画鑑賞の習慣そのものがなくなってしまうことを並木代表は懸念しているという。そのために上映会には、130インチの大スクリーンに、5.1chサラウンドの音響設備にこだわっている。「にじいろシネマ」のメンバーはこの本格的な上映機材と自家発電機、ポップコーン・マシーンなどと共に、今後も宮城県気仙沼市などを訪問する予定だ。(取材・文:中山治美)
「にじいろシネマ」上映問い合わせは、並木代表まで(yuichi.n@budscene.co.jp)