トム・ハンクス、実話への思い熱弁!奇跡の生還劇に隠された苦悩
クリント・イーストウッド監督の最新作『ハドソン川の奇跡』(9月24日全国公開)で、ニューヨーク上空で飛行機の全エンジンが停止するという極限の状況から、とっさの判断で乗客全員を無事救出させたサリー操縦士とジェフ副操縦士を演じたトム・ハンクスとアーロン・エッカートが、「実話」を基に描かれた作品に出演する際の心構えや、本作に込めたメッセージなどを語った。
映画のモデルとなったのは、2009年1月15日に起こった航空機事故。当時、不確かな情報が錯綜する中、「ニューヨーク」「2,800フィートの低空飛行」といったキーワードから、トムもアーロンも「9・11」を想像したという。トムは「最初は着水の映像もなくて、とっさに『また変なことが起きてしまった』と連想してしまった。でも後から、実際に起きた出来事は、想像していたのとは違ってとてもハッピーなことだと知ったんです」と当時を振り返る。
しかし、乗客155人の命を救ったと報道されたサリー操縦士とジェフ副操縦士は、事故調査委員会から“容疑者”として取調べを受けることとなる。トムは「アメリカで事故が起きれば必ず調査をするし、全ての証拠を探します。でもサリーさんとジェフさんがこれほどまでに大変な思いをしていたとは知りませんでした。自分たちが間違ったことをしていたならわかりますが、彼らは決してそんなことをしていない。(取調べのあった)18か月間の苦悩は想像を絶することだったのではないでしょうか」とサリーに感情移入する。
アーロンも「サリーさんもジェフさんも体重が減り、全く眠れないこともあったといいます。もしかしたら、嫌な決断が下るのではないかという不安やトラウマを抱え長い時間過ごしていたんです」と2人の苦悩に共感。さらに「そんな登場人物の深い葛藤を脚本家のトッド・コマーニキやクリント(・イーストウッド)が見つけてドラマチックに描いたんだ」とアーロンは着眼点を絶賛する。
物語ゆえ、ドラマチックな演出やセリフは必要だが、実在した人物を演じる際、トムには必ず守るべきポリシーがある。それは「再現すること」。「なるべく真実に基づいて人物を動かさなければならない。そのためには事実や背景を徹底的に調べて、関わった人がどういうことをしたのかをなるべく忠実に演技することが自分に課せられた責任だと思うんです。なので、脚本家がもしも過剰な要素を付け加えたりしたら、僕はこの仕事を受けていなかった」。
トム、アーロン共に「実話」の持つ力を十分に理解し本作に臨んだ。そんな中、サリー操縦士を演じたトムは、彼の功績に多大なる敬意を払いつつも「サリーさんが1人で155人を救ったわけではないのです。乗務員の言うことをしっかりと聞いた乗客、着水してから救助活動を行った警察やフェリーの人々など、さまざまな人の力によって一人の犠牲者も出さずに済んだんです」と力説。さらに「私たちの世界は恐れや怒り、信じられないことがたくさんあります。そんな中、自分の行動に誇りを持って正しい行いをする。そんな思いが集まれば奇跡は起こるんです」と作品に込めたメッセージを熱く語った。(取材・文:磯部正和)