マーベル映画を日本で撮影してもらうには?『ブラックパンサー』釜山ロケ地巡りでわかったこと
日本でもついに公開を迎えたマーベルスタジオ最新作『ブラックパンサー』は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に次ぐ歴代2番目の速さで、全米累計興行収入すでに4億ドル(約426億円)を突破するなど、大旋風を巻き起こしている。そんな本作の一部は、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)での韓国首都・ソウルに続き、韓国第二の都市・釜山で撮影された。一方、『アベンジャーズ』シリーズ第4弾には日本のシーンがあるとされながらも、アメリカ・アトランタのスタジオに“日本風”セットが組まれての撮影だったと報じられている……。ブラックパンサーが釜山で繰り広げるカーチェイスシーンが絶品なだけに、「いつか日本でも撮影してほしい!」という気持ちを抱きながら、釜山のロケ地巡りをしてきた。(編集部・石神恵美子)
釜山でのカーアクションが超クール!『ブラックパンサー』予告編
『ブラックパンサー』は、アフリカの秘境にあり、全てを破壊してしまうほどのパワーを持つ希少な金属ヴィブラニウムの産出国でもあるワカンダ王国の王位を若くして受け継いだ主人公ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)が、「ブラックパンサー」という神聖な名のもとに、国民をあらゆる脅威から守るために奮闘するさまを描く。
チャガルチ市場(中区)
ブラックパンサーが釜山を訪れるのは、悪党クロウ(アンディ・サーキス)がヴィブラニウムを裏カジノで売りさばこうとしていると聞きつけたためだ。ワカンダ王国の誇り高き女戦士オコエ(ダナイ・グリラ)&女スパイのナキア(ルピタ・ニョンゴ)と一緒にその現場に乗り込む。その裏カジノがある設定になっているのが、観光スポットとしても有名な、韓国最大級の海産市場「チャガルチ市場」。
市場のお店には新鮮な海産物が所狭しに並べられ、韓国風おでんなどご当地グルメも満載。そしてこの屈指の観光スポットから、ブラックパンサーがレクサス「LC500」のうえに乗って、カジノから逃走した悪党を追いかけるシーンがはじまる。大通りには大掛かりな撮影用機材を設置したため、その時の爪痕もはっきり残っていた。言うならば、日本の築地で撮影をするようなものだろう。釜山の本気が伝わってくる……。
そしてその裏通りにあたる細い路地でもカーチェイスシーンが撮影された。車一台が通れるくらいの驚きのせまさ!
この通りには電線が張り巡らされていたものの、『ブラックパンサー』の撮影のために、市が整備したそう。
社稷北路(東莱区)
韓国のプロ野球チーム「ロッテ・ジャイアンツ」の本拠地である社稷野球場を北に進んだところに位置する交差点では、予告編(1:32~)でも印象的だった、ブラックパンサーが敵の攻撃をよけ、ビルの側面を駆け抜ける(!)シーンが撮影された。
ブラックパンサーが破壊してしまっていた緑と赤のハングル文字のネオン看板もちゃんと存在! ちなみにその看板は整形外科のもの。
本作の製作陣は、看板がよく見えるところを望んでいたそうで、最初は別の場所が候補になっていたものの、工事と重なり撮影許可が下りず、社稷北路に決まったという。もともと候補だった場所に比べれば、そこまでの繁華街ではないということだが、それでも交通量は多く、路線バスのルートにもなっている。撮影期間中、路線バスは臨時ルートを走り、仮のバス停を設けるなど、市民にも協力してもらったそう。
影島ヨンソン大路(影島区)
ブラックパンサーがとんでもない姿勢で地面をひっかきながら車を急カーブさせたり、敵の車に飛び移ったりするシーン(予告編1:08あたり)は影島ヨンソン大路での撮影。
夜9時ごろから早朝にかけて撮影は行われ、その間には一般車両の交通規制が敷かれたそう。橋の独特なデザインが印象的。
広安大橋(南部・海雲台)
『ブラックパンサー』の世界観と完璧に調和しているのが、ダイアモンドブリッジの愛称を持つ釜山きってのランドマーク、広安大橋だ。橋は“ブラックパンサーカラー”とも言うべく、パープル色にライトアップ。予告編でもおなじみ、ブラックパンサーが敵の車をひっくり返すシーンが撮影された。
大きな橋なので交通量も多いが、本作撮影のために、なんと釜山の市長が自ら関係各所に連絡を取るなど、「広安大橋を封鎖せよ!」と言ったかどうかは定かではないが、率先して行動を起こしてくれたそう。最終的に2日間、夜から明け方までを完全封鎖して撮影できたのだという。レインボーブリッジは……。
広安里海辺(水営区)
先ほどの広安大橋が望める広安里ビーチ沿いの道路でも、ブラックパンサーが車のうえに乗ったまま敵を追いかけるシーンが撮影された。
繁華街と広安大橋の夜景が楽しめるデートスポット的な雰囲気が漂う。
通りにはレストランなども立ち並んでおり、大勢の人が見物に駆けつけてしまい、1テイク撮り終わるたびに、拍手が起こっていたとか。なお、この道路沿いには、ブラックパンサーの像が建てられており、“聖地巡礼者”にとって絶好のフォトスポットになりそう。
東西大前の坂道(沙上区)
映像の分野で高い評価を得ている東西大学の前のとんでもなく急な坂道で撮影されたのは、ブラックパンサーと分かれて、ナキア&オコエの女性コンビが車で爆走するシーン。
東西大学の学長がかつて釜山国際映画祭の関係者であったことから、学校の駐車場を撮影クルーに貸し出したり、学生たちが周辺の交通整理を行うなど、大学一丸となって映画の撮影に協力していたそう。学生にとっては、ハリウッド映画の撮影を間近で目撃できる格好の機会になったに違いない。
また、急勾配すぎる坂道のため、普通に運転している車に乗っているだけでも揺れがひどく、思わずシートベルトを握りしめてしまうほど。そんな坂道を猛スピードで下っていくなんて……改めてこのアクションシーンのすごさを実感。
影島ワチロ 三叉路(影島区)
「釜」「山」と書くだけあって、釜山は坂道だらけ。影島区にある、同じくとんでもない坂道で撮影されたのが、ブラックパンサーが敵と合流する三叉路のシーン。
釜山での一連のカーチェイスシーンは、実際には点在している場所で撮影したものを編集でうまくつなぎあわせ、疾走感を出すことに成功している。このシーンも少しだけ登場するが、編集のつながりを出すためもあってか、釜山の街を一望できるこの三叉路が選ばれたよう。遠くに橋がばっちり映るのも、決め手の一つになったのかもしれない。
【取材後期】
釜山国際映画祭ですでに高い評価を得ている釜山。このロケ地巡りには、釜山フィルムコミッションのリーダーで、『ブラックパンサー』の撮影にも立ち会っていたイ・スンイさんが同行してくれた。「釜山は映画の撮影に協力的なんです」と何度も口にしていたが、それは主要道路の交通規制や電線の整備、そして学生ボランティアなど、数々のエピソードに裏付けされていた。
最近ではハリウッド映画や中国映画の撮影が多いようだが、木村拓哉主演の映画『HERO』(2007)など日本映画も釜山で撮影されている。また、先日急逝した大杉漣さんが、海外にある“第二の故郷”を訪問する人気番組「another sky-アナザースカイ-」(日本テレビ系・3月2日放送)で釜山を訪れていたばかりだった(スンイさんがうれしそうに大杉さんとの2ショット写真を見せてくれていたのが忘れられない)。
釜山の人々の映画に対する熱意に触れ、『ブラックパンサー』の製作陣が釜山をロケ地に選んだ理由がわかった気がした。『ブラックパンサー』は韓国でも公開から2週連続で首位をキープする大ヒット。本作で語られる社会的メッセージは世界中の人々の共感を呼び、さらにはヒットしないとされてきた“黒人スーパーヒーロー映画”での輝かしい成功自体が映画界に大きなインパクトを与えたことなどを考えると、本作の撮影に尽力した釜山が受ける恩恵も大きそうだ。こんな釜山の取り組みから、日本が学べることがあるかもしれない。
映画『ブラックパンサー』は全国公開中
取材支援:韓国観光公社
(C) Marvel Studios 2018