今年のカンヌ映画祭、無視されてきた人々に声を与える場所に
第71回カンヌ国際映画祭
是枝裕和監督作『万引き家族』が最高賞パルムドールを受賞し、幕を閉じた第71回カンヌ国際映画祭。授賞式では審査員長のケイト・ブランシェットが、今年のコンペティション部門出品作は「いわゆる“無視されてきた”人々……無力で、居場所を追われ、幻滅している人々、そしてつながりや愛を求めている人々に声を与えた」とたたえていたが、今年のカンヌはまさにそうした人々に声を上げる機会を与える場所になった。
【画像】圧巻の光景!ケイト・ブランシェットら女性映画人82人が集結
セクハラ問題をきっかけにした「#MeToo」運動が活発になって以降、レッドカーペットもただきらびやかなだけでなく、意思表明をする場に。カンヌのレッドカーペットでも、ケイトが「女性はマイノリティーではありません」と女性映画人82人で女性の権利向上を訴える“ウィメンズ・マーチ”を行い、女優のアイサ・マイガは黒人女優たちを率いてフランス映画界における人種差別を非難。映画祭会場では『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のベニチオ・デル・トロらがイスラエルによるガザ攻撃に抗議し、犠牲者に黙とうをささげた。
昨年10月、プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインから21歳の時にレイプされたと告発していた女優・監督のアーシア・アルジェントは、授賞式にプレゼンターとして登場すると「それはここ、カンヌでのことでした。この映画祭は、彼の“狩りの場所”でした」と怒りをにじませて発言。ワインスタインはカンヌで2度と歓迎されることはなく、恥辱の中で生きていくとした上で、「今夜、この会場にも女性に対する行いに責任のある人たちがいます。あなた方は自分が何者かがわかるでしょう。もっと重要なのは、わたしたちが、あなた方が何者かを知っているということです。これ以上、わたしたちはあなた方をの罪を見過ごしたりしません」と力強いスピーチをし、大きな拍手を浴びた。
パルムドール受賞作『万引き家族』も生活のために軽犯罪を重ねる家族の姿を描いた作品で、是枝監督は「今の日本の社会の中で、隅に追いやられている、見過ごされがちな家族をどう可視化するかということ考えました」と受賞者会見で語っていた。グランプリの『ブラッククランズマン(原題) / Blackkklansman』(スパイク・リー監督)も人種問題、続く審査員賞の『カペナウム(原題) / Capharnaum』(ナディーン・ラバキー監督)も中東における貧困や移民の問題を扱っている。「“無視されてきた”人々に声を与える」という難題に多彩な映画表現を使ってそれぞれに取り組み、心を震わすアートとして形にしたことが評価されたといえそうだ。
また、反政府的だとして国外渡航が許されなかったイランのジャファル・パナヒ監督、ロシアのキリル・セレブレンニコフ監督のコンペ出品作の公式会見ではあえて中央に彼らが座るはずだった空席を作っており、彼らの不在がいっそう強く感じられた。(編集部・市川遥)