第71回カンヌ国際映画祭(2018年)コンペティション部門21作品紹介
第71回カンヌ国際映画祭
5月8~19日(現地時間)までフランスで開催された第71回カンヌ国際映画祭。是枝裕和監督の『万引き家族』が、日本映画として21年ぶりとなる最高賞パルムドールを獲得し、幕を閉じました。気になる受賞結果一覧とコンペティション部門全21作品(コンペティション外を除く)は以下。(文:岩永めぐみ/平野敦子/本間綾香/編集部 浅野麗)
⇒【2018年カンヌ映画祭総評!受賞作&傾向まとめ】はこちら
<パルムドール(最高賞)>『万引き家族』
製作国:日本
監督:是枝裕和
キャスト:リリー・フランキー、安藤サクラ
【ストーリー】 治&信代の夫婦と、息子の祥太、信代の妹・亜紀は、家主である初枝の年金を頼りに暮らしていた。一家は足りない生活費を万引きで稼いでいたが、ある日、独りぼっちで震えている少女を見つけ、娘として育てることにする。
【ここに注目】 是枝監督にとって『海街diary』以来3年ぶり、5回目となるコンペティション出品。ある出来事をきっかけに、仲が良かったはずの家族がバラバラになっていき、それぞれの抱えていた秘密が明らかになる。リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林に加え、是枝組初参加の松岡茉優、そしてオーディションで選出された2人の子役が抜てき。かつて柳楽優弥に史上最年少の男優賞をもたらした是枝作品への参加とあって、賞への期待がかかる。
<グランプリ>『ブラッククランズマン(原題) / Blackkklansman』
製作国:アメリカ
監督:スパイク・リー
キャスト:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライヴァー
【ストーリー】 アメリカ・コロラド州、刑事ロン・ストールワースは、地元紙に掲載されたKKKメンバー募集の広告に応募。アフリカ系アメリカ人であることを隠しながら、組織内で徐々にその地位を上げ、潜入捜査を進めていく。
【ここに注目】 スパイク・リー監督が、白人至上主義団体KKKに潜入した実在のアフリカ系アメリカ人の刑事を描くクライムスリラー。『ゲット・アウト』を大成功させたジョーダン・ピールが共同製作に名を連ねている。ストールワースを演じるのは、名優デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントン。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『パターソン』の人気俳優アダム・ドライヴァーとの共演にも注目。
<審査員賞>『カペナウム(原題) / Capharnaum』
製作国:レバノン
監督:ナディーン・ラバキー
キャスト:ナディーン・ラバキー
【ストーリー】 いまだに古いしきたりや考え方にとらわれている人が多く暮らすとある中東の国では、自由に物を言うことはおろか、両親に口答えをするなどもってのほかだった。だが、社会の底辺で暮らす12歳の少年ゼインは、両親を訴えることにする。罪状は「自分を産んだこと」……。
【ここに注目】 監督デビュー作『キャラメル』で高い評価を受け、続く『ウェア・ドゥー・ウィー・ゴー・ナウ(英題) / Where Do We Go Now?』では、本映画祭・ある視点部門にノミネート、女優としても活躍するレバノン出身のラバキー監督。タイトルの“カペナウム”は「無秩序に物が積み重なった状態」という意味で、本作を手掛けるにあたり、貧困、子供の扱われ方、移民といった監督が描きたいテーマを羅列したことが始まりだったことに由来するのだとか。コンペティション部門へは初出品。
<監督賞>パヴェウ・パヴリコフスキ監督『コールド・ウォー(英題) / Cold War』
製作国:ポーランド、イギリス、フランス
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
キャスト:ヨアンナ・クーリグ、アガタ・クレシャ
【ストーリー】 1950年代~60年代、戦後、冷戦下のポーランド。バックグラウンドも性格も異なり、壊滅的に相性が悪い男女。2人はお互いを非難し合いながらも、運命の恋人として、くっついたり離れたりを繰り返し……。
【ここに注目】 アカデミー賞外国語映画賞を獲得した『イーダ』から5年振り、ポーランド人監督パヴェウ・パヴリコフスキによる新作。ピアニストと歌手の複雑な恋愛模様が描かれ、『イーダ』のヨアンナ・クーリグやアガタ・クレシャがキャストに名を連ねる。共産主義政権下の1948年に文化省の主導で設立された、フォーク音楽&ダンスグループ・マゾフシェのパフォーマンスが背景になっているという。
<男優賞>マルチェロ・フォンテ『ドッグマン(原題) / Dogman』
製作国:イタリア、フランス
監督:マッテオ・ガローネ
キャスト:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ
【ストーリー】 郊外で「ドッグマン」というトリミングサロンを営む、おとなしく控えめな性格のマルチェロ。彼は何よりも犬たちと自分の娘のことを愛していた。だが、近所に住む暴力的な元ボクサーのシモンチーノにより、彼の平穏な日々は乱されていき……。
【ここに注目】 『ゴモラ』と『リアリティー』で2度、本映画祭グランプリを受賞という快挙を成し遂げたイタリアの鬼才、ガローネ監督が放つヒューマンドラマ。1980年代末に実際にイタリアで起きた殺人事件にインスパイアされた本作では、粗暴な元ボクサーの男に支配された主人公が、なんとかして自らの人生を取り戻そうとあがく姿が描かれる。今回有名俳優の起用はないものの、未だ謎が残る事件の背景を映し出した野心作が賞レースをヒートアップさせる。
<女優賞>サマール・イェスリャーモワ『アイカ(原題) / Ayka』
製作国:ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン
監督:セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ
キャスト:サマール・イェスリャーモワ
【ストーリー】 モスクワに違法滞在しながら働く、1人のキルギス人女性。彼女は男の子を出産した後、病院に置き去りにし、借金を工面するために奔走する。
【ここに注目】 カザフスタン出身のドヴォルツェヴォイ監督が10年ぶりに発表する新作は、モスクワを舞台に、不法移民として働く若いキルギス人女性の苦悩を描いた物語。ドヴォルツェヴォイ監督は、2008年の前作『トルパン』では、カザフスタンの遊牧民をドキュメンタリータッチで描いて絶賛評を獲得。同作で、本映画祭ある視点部門のグランプリを受賞している。
<脚本賞>アリーチェ・ロルヴァケル『ハッピー・アズ・ラザロ(英題) / Happy As Lazzaro』
製作国:イタリア、スイス、フランス、ドイツ
監督:アリーチェ・ロルヴァケル
キャスト:アドリアーノ・タルディオーロ、トンマーゾ・ラーニョ
【ストーリー】 純粋でバカが付くほどお人好しの若い農夫のラザロと、自分の想像力に傷ついた若者タンクレディの、若々しく、熱意に満ちた友情の物語。ラザロは50年の時を旅する。
【ここに注目】 『夏をゆく人々』が本映画祭グランプリを受賞したロルヴァケル監督の最新作。『人生は、奇跡の詩』のニコレッタ・ブラスキや『ロープ/戦場の生命線』のセルジ・ロペスら、ヨーロッパの実力派俳優たちが共演し、ある純粋な若者の姿を通して人間の聖性を問いかける。『夏をゆく人々』にも出演した監督の実の姉、アルバ・ロルヴァケルは今回も出演。姉妹ならではの相性の良さも魅力。