足にヒル…!前田敦子の動じない魅力、黒沢清監督明かす
カンヌ国際映画祭で高い評価を受けた『回路』『岸辺の旅』など、海外でも注目される黒沢清監督が、日本・ウズベキスタン合作映画『旅のおわり、世界のはじまり』(2019年公開)で、女優の前田敦子と3度目のタッグを組んだ。かねてから前田の女優としての才能を高く評価する黒沢監督が、ウズベキスタンでのロケを振り返るとともに前田の魅力を明かした。
前田と黒沢監督の出会いは、2012年に製作が発表された日中合作映画『一九〇五』から。実現が叶わなかった本作での縁は、全編ロシアロケによる前田の主演作『Seventh Code セブンス・コード』(2013)で実を結び、『散歩する侵略者』(2017)へとつながった。黒沢監督は、前田の優れている点としてセリフの言い回しを第一に挙げる。
「(映画やドラマの)脚本のセリフは、自分が普段使わないような言葉も書かれているものだと思いますが、前田さんはそれをさも普通に、さらっと言えてしまうんです。浅野忠信さんも同様ですが、アドリブと見まがうぐらい自然で。それで『こんなこと普段から前田さんは言ってるの?』と聞いてみると、『全然言いません』と。役柄を理屈じゃなくて瞬時につかんでいるということなのか、とにかくそのセリフなり仕草なりをごく自然に表現する力があるのです」
そして第二に挙げるのは「いかなる状況でも全く動じないところ」だという。前田演じる葉子が、ウズベキスタンでバラエティー番組の撮影を体当たりでこなすレポーターという設定もあり、ドブ川につかるシーンの撮影では川から上がると前田の足にヒルがついていて、監督やスタッフを驚かせたことも。
「前田さんはAKB48の不動のセンターとして活躍してこられたわけで、全く物怖じをしないのです。撮影が外国であろうと、共演者が外国人であろうと全く動じない。今回、かなり肉体的に過酷なこともお願いしたんですが、躊躇せずやってくれました。例えばドブ川に入るシーンでは撮影スタッフが完全防備で入るところを、彼女はほとんど素足。川から上がったら前田さんの足にヒルが何匹かついていて……。でも前田さんは何ともなさそうで、『申し訳ないんだけどもう一回入れる?』とお願いしたら、あっさり『いいですよ』と」
そのほかにも、「普段は『普通の女の子』なのに、スクリーンに映るとものすごい個性を発揮する」「映っているとつい彼女に目が行ってしまう」など前田の強みを挙げ出したらきりがないという黒沢監督。
日本とウズベキスタンの国交樹立25周年と、日本人が建設に関わったナボイ劇場の完成70周年を記念して製作する本作は、ウズベキスタンの全面協力のもと4月から5月にかけてオールロケを敢行。黒沢監督がウズベキスタンで開花させた前田の新たな魅力に期待したい。(取材・文:編集部 石井百合子)