台湾人メジャーリーガーの挫折と復活を追ったドキュメンタリー、監督を直撃
台湾出身の元メジャーリーガー、王建民(ワン・チェンミン(英語表記はチェンミン・ワン))を描いた注目のドキュメンタリー映画『レイト・ライフ:ザ・チェンミン・ワン・ストーリー(原題)/ Late Life: The Chien-Ming Wang Story』について、フランク・W・チェン監督が、PR会社PMKのオフィスでインタビューに応じた。
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2005年にニューヨーク・ヤンキースでメジャーリーグ・デビューを果たした王建民。2006年、2007年と2年連続で19勝を挙げたものの、2008年にヒューストン・アストロズ戦で走塁の際に右ひざをひねり、右足筋肉の部分断裂と診断され、故障者リストに入ってしまう。復帰するもマイナーリーグに降格。その後、引退せずに複数のチームを転々としながらメジャーリーグへの復帰を目指した。本作はそんな王の姿を追ったドキュメンタリーだ。
チェン監督は、2005年に学生としてロードアイランドで暮らし始めた頃、その年からメジャーで活躍し始めた王をヤンキー・スタジアムで見たそうだ。「台湾出身の投手が名門ヤンキースで先発として投げている姿を感情的に見ていたよ。2013年に、僕の友人の誘いで来ていた彼と実際にレストランで会ったんだ。その時は、3Aスクラントン・ウィルクスバリ・レイルライダースで投げながら、メジャーリーグへの復帰を望んでいた。小さなレンタカーで来ていたんだけど、190cm以上もある彼が、その小さな車に乗り込む姿を見て、2005年当時の彼の姿とは対照的で、かなり衝撃を受けたんだ。と同時に、僕は野球選手のこういう姿をもっと人々は見るべきだと思ったんだよ。こういう姿を見ると、いかにメジャーでプレーしている選手が大変か理解できると思ったからね」。初めはドキュメンタリーへの参加を断った王だったが、彼のエージェントから時間をかけて接触するべきだとアドバイスされ、そのかいあって製作にこぎ着けたそうだ。
2年連続19勝を挙げる偉業を達成した王は、当時母国・台湾で“台湾の誇り”と呼ばれていたそうだ。「おそらく、その時、台湾で最も知られていた人物だったと思うね。彼の看板が掲げられ、テレビ番組への出演やCMなど、あらゆる場所で彼を目にしたんだ。僕の家族もそうだったけど、台湾の人たちは皆、朝早く起きて、アメリカの試合を見ていたんだ」と当時の熱狂ぶりを明かした。だが、2008年に右足筋肉の部分断裂と診断され故障者リストに入ってからは一変した。
できる限り足に負担をかけないようにして、回復するためのトレーニングをしていたという王。ヤンキースも彼にはできる限り走らせないようにしていたそうだ。さまざまな挫折を乗り越え、2年後、ついにワシントン・ナショナルズと契約しメジャー復帰することになる。「同チームのコーチは『王建民は(ケガの後)ヤンキースが再契約を結ばなかったことが間違っていたことを証明したかったんだ』と話してくれたよ」。
その後2014年~2015年にかけて、6チームを渡り歩きながら投げ続けた王。チェン監督は「僕がこの映画を通して思ったのは、多くのプロ選手にとって、そのスポーツ(王の場合は野球)は、その人が心の底から信じたものだということなんだ。それが他の人よりも優れ、そして大きな舞台でプレーしている。彼もこの辛い時期、自分がメジャーリーグのピッチャーだということをただ証明したかったんだと思うんだ」と王の野球への熱意に敬意を表した。現在、王は台湾プロ野球チーム、富邦ガーディアンズのコーチをしているそうだ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)