稲垣吾郎と二階堂ふみ、過激描写に躊躇なし!『ばるぼら』の手塚眞監督が激白
第32回東京国際映画祭
手塚治虫の異色漫画「ばるぼら」を、息子である手塚眞監督が稲垣吾郎と二階堂ふみの共演で実写化するにあたっての苦労と、過激描写に対する率直な思いを語った。
稲垣ふんする異常性欲に悩まされる売れっ子小説家・美倉洋介が、二階堂ふんするばるぼらに出会うことで起きる不可思議な出来事を耽美的、かつ幻想的に描き出す物語で、過激な描写は避けられない。手塚監督も「やはり『ばるぼら』を映画にするからには当然そうなるでしょうし、逆にそうでなかったら作る意味がない」と感じていたという。だがそれだけに、映像作家として独特の美学を持つ手塚監督が、父・手塚治虫の作品を初めて映画化するという今回の意欲的なプロジェクトに興味を持つ俳優は多かったというが、やはり原作にある大胆な描写を前に、「興味はあるのですが、その場面だけは無理です」と二の足を踏む者も多かったというのは事実だった。
しかしそれから紆余曲折があり、稲垣と二階堂のキャスティングが実現した。「お二人ともそこに関してはあまり躊躇がなかった。覚悟を持っていらしてくださった。これはもう賭けみたいなものでした。確かに脚本の文字だけを見れば、多少過激に見える部分もありますし、作品自体が非常に特殊な内容を持っている。ですから『ばるぼら』を好きじゃない方は絶対出ないだろうと思いました。ただ、興味を持っていただければ必ず良い結果にできると思っていた」と明かし、稲垣と二階堂から興味があると返事をもらった時は本当にうれしかったと当時を回想し、安堵の表情を浮かべた。
さらに「お二人は脚本を読んで、これがどういう世界観なのか、どういう美意識の中で自分が演技をすることになるのか、そういうビジョンがハッキリと浮かぶ方だと思いました。彼らは撮影現場に入った時に、もう何をやればいいかわかっていたようでした。彼らは表現者として自立されている方なので、彼らが思ったことを自由にやってもらって、それをクリスさん(クリストファー・ドイル)のカメラがすくい取ってくれれば、それだけで成立する」と感じ、あまり過度な演出はしないようにしたという。
稲垣が演じた美倉という役は、売れっ子作家でありながら、どこか心に空虚さを抱えているという複雑なキャラクター。彼にとっても、役者としての表現の幅の広さを見せるような役柄となった。「もちろん稲垣さんがSMAPであったことは知っていますが、それよりもむしろ役者としての彼に注目していました。最近彼が出演した作品も観ていますし、『十三人の刺客』などでも面白い役をやられていて、この人は演技が出来る人だから、いつかご一緒したいと思っていたんです。だからキャスティングはもう稲垣さんしか考えられませんでした」とベタ惚れの様子。
本作は日本、イギリス、ドイツの合作となり、撮影監督をウォン・カーウァイ作品などで知られるクリストファー・ドイルが担当している。「彼の映像にある色気がとても好きで。彼はラブストーリーの名手でもあるし、特に今回はお酒が好きなミューズの話なので、お酒好きな彼にピッタリだと思う」と彼を評価し、この企画を具体的にしようと思った時に、最初に思いついたカメラマンだと明かした。
ドイルに企画を送ると、「これはまさに自分のための映画だ! 映画化する時は絶対に声をかけてくれ」という熱のこもったコメントが返ってきたという。それからこの企画が実現するまで5年の月日がかかったが、その間も彼は待ち続け、「毎年、年の初めになると、僕の事務所に連絡があって。今年は『ばるぼら』をやるのかと。それによって今年の自分のスケジュールを考えるんだと。だからすいません、今年はまだですと返事をしていました」と手塚監督。そんな「ばるぼら」という作品を愛するスタッフ、キャストが奇跡的に集まり作り上げた本作の仕上がりについて、「さまざまなジャンルのアーティストたちとセッションしたような、自信作になりました」とアピールした。(取材・文:壬生智裕)
映画『ばるぼら』は10月28日から開催予定の「第32回東京国際映画祭」コンペティション部門にて上映予定