東京フィルメックス、グランプリは中国映画『気球』 ペマツェテン監督作が3度目の受賞
アジア映画の祭典「東京フィルメックス」第20回の授賞式が30日に有楽町朝日ホールで行われ、ペマツェテン監督の中国映画『気球』がコンペティション部門の最優秀作品賞を受賞。東京フィルメックスで同監督の作品が最優秀作品賞を受賞したのは、これが3度目となる。
本映画祭のコンペティション部門は、アジアの新進作家が2018年から2019年にかけて製作した作品の中から10作品を上映。審査委員長のトニー・レインズ(映画批評家)をはじめ、イランの女優べーナズ・ジャファリ、写真家の操上和美、カザフスタンの女優サマル・イェスリャーモワ、深田晃司監督ら5人の審査員が各賞を選定。サマルと深田監督は都合により授賞式を欠席した。
グランプリを獲得した『気球』は、大草原に暮らす家族を主人公に、一人っ子政策が人々に与える影響をチベット文化の視点から描いた作品。ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で上映されている。ペマツェテン監督はこれまで『オールド・ドッグ』(2011)『タルロ(原題)』(2015)で東京フィルメックスの最優秀作品賞を受賞。昨年の『轢き殺された羊』(2018)は審査員特別賞を獲得するなど、本映画祭の常連ともいうべき存在。
審査員長のレインズは「彼は初めて賞を受けたわけではないが、この『気球』という作品は彼のレベルをさらに上げる作品となった。オープニングの視点から終わりのホウ・シャオシェン作品のオマージュまで、チベットならではの状況を洗練された視点で描いた。仏教思想と、個人的な真理のぶつかり合いを通じて、今日のチベット人の生活を描き出している」と称賛した。
ステージには、ペマツェテン監督の前作『轢き殺された羊』の主人公を演じ、本作にも父親役で出演しているジンパが登壇。授賞式に参加出来なかった監督のメッセージを代読した。「こんばんは。東京フィルメックスに出品する度に、受賞するとは思っていなくて。これはご縁だとしか言いようがありません。この上ない感謝の気持ちでいっぱいです。皆さまに喜びと幸せを」というメッセージに、会場から拍手が送られた。
最後の講評を求められたレインズは、「今回の10作品は多様性に富んでいたが、共通点があるとしたら市山尚三ディレクターの選択眼の確かさだろう。自分も多くの映画祭で審査員を務めてきたが、終始一貫したレベルを持っている映画祭はまれです。審査員としてこういった映画祭で審査ができてありがたく思っています」とあいさつ。
さらに日本では「桜を見る会」問題が騒動になっていることを踏まえ、「ここで桜を交えたジョークでも入れようと思ったが、季節が違うのでそれはあきらめました。日本では安倍首相への“忖度”があるが、我々は安倍首相のファンではないのでディスカッションも難航するかと心配していた。だが、この『気球』に関しては100%の同意を得ることができた、という幸せな報告をさせていただきたい」と報告し、会場を沸かせた。「最優秀賞は賞をとったことがない人に渡すべきではないかとも思ったが、とにかくこの作品のクオリティが本当に素晴らしかった。だから審査はとても調和のとれたすばらしい時間だった」と『気球』のクオリティーを強調した。(取材・文:壬生智裕)
■「第20回フィルメックス」受賞結果は以下の通り
最優秀作品賞:『気球』(中国/ペマツェテン監督)
審査員特別賞:『春江水暖』(中国/グー・シャオガン監督)
スペシャル・メンション:『つつんで、ひらいて』(日本/広瀬奈々子監督)
スペシャル・メンション:『昨夜、あなたが微笑んでいた』(カンボジア・フランス/ニアン・カヴィッチ監督)
学生審査員賞:『昨夜、あなたが微笑んでいた』(カンボジア・フランス/ニアン・カヴィッチ監督)
観客賞:『静かな雨』(日本/中川龍太郎監督)
タレンツ・トーキョー・アワード 2019:「About A Boy」(インドネシア/シヌン・ウィナヒョコ監督)
タレンツ・トーキョー・アワード 2019 スペシャル・メンション:「Skin of Youth」(ベトナム・アメリカ/アッシュ・メイフェア監督)
タレンツ・トーキョー・アワード 2019 スペシャル・メンション:「Plan 75」(日本/水野詠子プロデューサー)