“毒親に虐待される子役”を天才子役はどう演じたのか?『ハニーボーイ』監督インタビュー
アルコールに溺れて交通事故や乱闘騒ぎを起こし、あげくにリハビリ施設行きとなるなど一時はお騒がせスターの代名詞となった映画『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフ。彼がリハビリ施設での治療の一環として、子役時代、彼に大きなトラウマを与えた父親との不健全な関係について書き上げた自伝的脚本を映画化したのが『ハニーボーイ』だ。監督のアルマ・ハレルがインタビューに応じ、主演のノア・ジュープはいかにして“毒親に虐待される子役”を演じ切ったのかを明かした。
ノアは2005年2月25日、イギリス・ロンドン生まれ。映画製作者の父、女優の母の間で育ち、『クワイエット・プレイス』『フォードvsフェラーリ』など話題作に次々出演してきた天才子役だ。本作では、いつも突然感情を爆発させる前科者で無職、アルコール依存症のステージパパ・ジェームズ(シャイア)に翻弄されるハリウッドの人気子役オーティス役を務めた。ジェームズは息子を愛していないわけではないものの“男らしくない”からと愛情表現に乏しく、幼いオーティスの収入に頼る自分にも猛烈な劣等感を抱き、彼の日常を暴言だらけのものにして、時に理不尽な暴力も振るってしまう。
ハレル監督は「子役についての映画を作る時に大変なのは、映画で起きることと同じ問題を絶対に生まないように気を付けないといけないということ。だからわたしたちは、彼の周りに確固なサポートシステムを構築したの。彼には素晴らしい家族がいる。彼の母ケイティは毎日セットに居て、わたしともとてもいいパートナーになった。家族の心強いサポートがあった」と撮影では慎重を期したと振り返る。それでもノアの理解力には驚くべきものがあったと言い、「彼は撮影現場で最も成熟した人間だったわね」と笑ったハレル監督。「わたしはノアが本当に好き。彼はとても賢くて、なぜオーティスがその行動を取るのか、その裏にある感情、そしてこの親子関係というものを理解していた」
そして撮影に先んじては、父役のシャイアとの信頼関係も時間をかけて築いていた。「彼とシャイアはたくさんの時間を一緒に過ごしたの。いつも一緒で、彼らが準備しているのを見るのは、わたしにとってもまたとない経験になった。彼らは撮影の2か月前にやって来て、毎日ジャグリングをして(※劇中、元道化師の父が息子とジャグリングをするシーンがある)、たくさん話をしていたの。彼がいかにプロフェッショナルなのか、そしてこの仕事にどれだけ自分をささげているのかを見るのは素晴らしかったわ」
愛情深い家族のサポートを受けるノアと、毒父に振り回されるオーティス。同じ子役といえども別物で、ノアにとってかなりの難役だったのではと思われる。ハレル監督は「そうね。確かに違っているのだけど、類似性もある」と切り出すと、「いい家族に恵まれている子役たちも、ある程度、金銭面で家族を支えることになる。ノアの家族はとても協力的で健康的な関係だからオーティスとは違うんだけど……ノアはオーティスの仕事が、彼にとってどれほど重要かということを本当によく理解できたんだと思う。彼は“子役である”ということの内も外も、完全に理解していた。それが彼の人生だからね。わたしは彼が、それをとても上手くこの映画で使っていたと思う」と分析していた。
ノアがいかにオーティスの心を深く理解していたかがよく表れているのが、オーティスが自分が出掛ける前に父親のためにコーヒーを淹れ、まだベッドで寝ている父親の足にそっと触れるシーンだ。どれだけひどい扱いを受けても彼が父親を愛しており、父からの愛を求めているかが痛いほど伝わってくる。
“シャイアの足に触る”というのはノアのアイデアだったといい、ハレル監督は「わたしはこのシーンを『はい! 今はこれを撮っています!』という風に撮影したくなかった。だからわたしはシャイアをただベッドに横たわらせて眠らせて、ノアにはただ朝の準備をさせたの。決して『アクション』や『カット』とは言わず、まるでドキュメンタリーのようにね。最初から最後まで通して何度か撮影したけど、ノアはそのうちの1回だけ、シャイアの足に触ったの」と感服した様子で語っていた。痛々しくも愛と許しもある美しい映画で、ノアは圧倒的な輝きを放っている。(編集部・市川遥)
映画『ハニーボーイ』は公開中