木村多江「あな番」早苗さんは財産 挑戦状のような台本で誕生
ドラマ「あなたの番です」で、息子への行き過ぎた愛情で暴走する主婦・榎本早苗を演じた木村多江。放送当時の反響を振り返り、12月10日公開の『あなたの番です 劇場版』への思いも語った。
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2019年に2クール連続で放送された「あなたの番です」は、手塚菜奈(原田知世)と翔太(田中圭)の年の差カップルが、引越し先のマンション「キウンクエ蔵前」で、“交換殺人ゲーム”に巻き込まれるさまを描いた作品。放送当時、SNS上では犯人考察が盛り上がりを見せ、最終回の視聴率は19.4%、総合視聴率25%を記録した(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)。
「キウンクエ蔵前」の住人である早苗役を担った木村は、ドラマの台本を初めて読んだ当時、「ただただ面白くて。これはみんなハマる、絶対当たるだろう」と確信。「考察していくサスペンスものって、犯人を知りたいじゃないですか。もちろん、これまでの作品でも聞かれたことはありますが、『あなたの番です』の時のみんなの聞き方には狂気が宿っていました『教えて! 教えて!』って(笑)。ちょっと危ない状況に陥ってる、というくらいハマっている感じがひしひしと伝わってきて」と放送中はその人気ぶりを実感したそうだ。
実際、犯人などすべての展開を知らされていなかったため「どうなっているの?」「ここはこのあとどうなるの?」と視聴者と同じような気持ちで撮影に挑んでいたそうだ。また、ドラマ版の早苗は、猟奇的な一面をもつ息子の総一を隠し部屋に監禁しており、第10話では、総一を守るためにハンドミキサーで菜奈を殺そうとするなど暴走。視聴者に強烈なインパクトを残した。
「友だちから、『日本列島が震撼したよ』と言われて(笑)。役者にとってはすごくありがたい表現」と笑みを浮かべる。「いまでも“早苗さん”と、いろいろな方が覚えてくださっていて。それくらいインパクトのある役ができたことは、わたしにとってすごく財産になりました」と俳優としての喜びもあった。
マンションの住人役だけでも30人以上が登場する本作。「お芝居で楽しい化学反応が起きたり、いい役者さんを生で見ることが私は好きなので、すごい方々が出演したこのドラマはすごく楽しかったです。ラブレターのような挑戦状のような台本が届くのですが、皆さんが挑戦状に受けて立って結果を出しているのを見ると、自分も予想を裏切ってそれ以上のものを出さなきゃいけない、と。楽しみながら、プレッシャーを感じながらの撮影でした。そうやって“早苗さん”というやったことがないキャラクターが生まれました」と嬉しそうに語る。
真摯(しんし)に役に取り組む木村だが、「お芝居に関して、のめり込んでしまうところがあります。昔よく電車のなかで泣いちゃったりとか、役が抜けてないということがよくありました。役をつくっていって、その後抜けるのに時間がかかって。切り替えがなかったかもしれないです。今はもう切り替えているつもりですが、多少日常のキャラが、ちょっと変わったり。『こんな性格だったかな?』みたいなキャラ変することはあります」と打ち明ける。
「早苗さんを演じているときは、あの主観的要素がちょっと強くなりました。いつも体が若干前に動いてしまう、前のめりでなにかしてしまうみたいなことがちょっとくせに(笑)」と早苗らしさが日常で出たこともあったようだ。
そんな早苗を劇場版で再び演じることに。劇場版では、ドラマ初回で描かれた、菜奈と翔太の引っ越しの日を起点としたもしもの世界が展開するが、「みんなにまた会えること、もう一度、菜奈ちゃんに会えることがすごく嬉しかったですね」と喜んだ。「視聴者の方と同じぐらいロス状態になっていたので、みなさんと一緒のシーンの撮影のときは、いち視聴者が“推し”にたくさん会ってしまったみたいな感じでした(笑)。ファン心理で、現場にいたような気がします」と振り返る。
「撮影が大変だったんですが、この映画を良くしようというスタッフの方の熱量がすごくて。スケジュールがないなかで、追い詰められ、わたし自身も追い詰められて撮影していました。でも、だからこそこのチームワークが効いてきてきました。役者同士は当然チームワークができているし、息も合う。みんなお互いを尊重しあって、お互いの芝居を楽しみにみんな集まっているので」と息ピッタリだったようだが、「わたしたちが同窓会みたいな気分になって楽しすぎて本番っていうギリギリまで喋っていて、スタッフさんたちが声をかけられずに、『あの、ちょっとそろそろ……』っていう場面が何回もあって。それは申し訳なかったなと思うくらい仲良く撮影してました」というエピソードも明かしていた。(編集部・梅山富美子)