「カムカム」オダギリジョーの温かく包み込む芝居 演出も全幅の信頼を置く安心感
第19週に突入した連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(月~土、NHK総合・午前8時~ほか、土曜は1週間の振り返り)。ひなた(川栄李奈)の五十嵐(本郷奏多)への逆プロポーズから始まり、まさかの破局。さらには、るい(深津絵里)が17年もの間、ラジオ英語会話を聞いていた事実、桃太郎(青木柚)の失恋など、内容盛りだくさんの内容が描かれた。そのなかでも錠一郎(オダギリジョー)の存在感が大いに目立った週だった。演出を務めた松岡一史が、改めて感じるオダギリの俳優としての魅力について語った。
連続テレビ小説の第105作「カムカムエヴリバディ」は、昭和から令和にわたる時代をラジオ英語講座と共に歩んだ祖母・母・娘、3世代の親子の100年を描いた物語。第89回では、なかなか大部屋俳優から抜け出せない五十嵐が、酔った勢いで人気時代劇「破天荒将軍」の主演俳優(徳重聡)に喧嘩を売ってしまい、干されてしまう。
いつまでも時代劇スターという未来が見えない五十嵐は「ひなたが一番大切」と言い、時代劇俳優を諦め家業を継ぐために、一緒に東京に行こうと持ち掛けるのだった。ひなたは「夢から逃げる言い訳につかわんといて」と叱咤し「文ちゃんが私の夢や」と激励するが、五十嵐は「もう傷つけたくないし、傷つきたくない」とひなたの元を去る。
第18週の夏祭りのシーンでプロポーズに近い発言をした五十嵐。急転直下の別れだが、松岡は「展開の速さにびっくりされた方もいると思いますが」と前置きすると「人って目標のために頑張っているなかで、自分を奮い立たせるために、タイムリミットを決めてしまいがちなんだと思うんです。錠さんも同じようなことがありましたが、はたから見ているとかなり独りよがりなことでも、譲れないものってあるよな、という風に五十嵐くんのことを見ていただければなという思いで演出しました」と意図を語る。
第90話では、そんな五十嵐の元に錠一郎は訪れ、心が傷ついた五十嵐を優しく包み込む。オダギリと本郷と言えば、エキセントリックな役を演じることが多いが、このシーンは、何とも言えない温かい素敵な空気が流れる。
松岡は「オダギリさんと本郷さんとも話したのですが、あのとき錠さんは何しにきたんだろうね、と(笑)。五十嵐くんも言っていますが、本来なら娘を泣かせやがって……と非難されてもしょうがない展開。それなのに錠さんは五十嵐くんの心に寄り添ったわけです。そこには、自分自身が夢破れたなかでも、明るい道を進むことができたので、生きていればきっと五十嵐にも日向の道は見つかるというエールを送りたかったんだと思うんです」と解説。
さらに、オダギリの演技について「あのシーンは、例えば座ったり、最後に握手するシーンにしても、オダギリさんからのアイデアだったんです。五十嵐くんを受け入れている、心を開いているという姿勢をどんどん演技で出してくださいました。本当に温かく包み込んでくださいました。演出していてとても嬉しかったです」と絶賛。「るい編」でもオダギリのシーンを演出していた松岡。「全部受け止めてくださって、錠一郎じゃないとできない父親像みたいなところまで持っていってくださる。全幅の信頼を置ける俳優さんです」と感謝を述べる。
また、五十嵐役の本郷についても、松岡は「これまでエキセントリックな役が多かった本郷くんですが、いろいろ話をさせていただき、ややもすると嫌な奴になってしまう危険性がある五十嵐という人物を、いいさじ加減で演じてくださいました」とその実力を評価する。「世間的には尖ったイメージがあるかもしれませんが、劇中とてもきれいな涙を流せるなど、素晴らしい俳優なので、これまでと違った一面を見てもらえたら嬉しいですね」
第92回のラスト、大月家の騒動のなか、錠一郎はおもむろにトランペットを持って現れる。五十嵐との会話のなかで、音楽仲間だったトミー(早乙女太一)のCDをずっと買っていたこと判明するなど、今後、挫折してから描かれていなかった錠一郎の音楽にまつわる人生が垣間見えてきそうだ。(取材・文:磯部正和)