エルヴィス役の候補だった人気スターとは?
公開中の映画『エルヴィス』でメガホンを取ったバズ・ラーマン監督が来日インタビューに応じ、エルヴィス・プレスリー役のキャスティング秘話などを語った。
キャスティングできたことは奇跡
42歳の若さで亡くなったスーパースター、エルヴィスの波乱万丈な生きざまを映画化した本作。主演にはテレビドラマや映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などに出演してきたオースティン・バトラーが大抜てきされた。
ラーマン監督も「エルヴィスを演じられる俳優が見つからなければ、この映画は作らないと決めていた。そのとき、すでにワーナー・ブラザースは数百万ドルを使っていたけど、それが無駄になったとしても仕方ないと話していた」と言うほど、エルヴィス役のキャスティングは重要だった。
オースティンのほか、ワン・ダイレクションのメンバーで現在はソロで活躍中のハリー・スタイルズをはじめ、『トップガン マーヴェリック』のマイルズ・テラー、『ウエスト・サイド・ストーリー』のアンセル・エルゴート、『キック・アス』のアーロン・テイラー=ジョンソンが候補として伝えられていたこともある。
「あまり彼らの話はできないが、ハリーについては話せる。本人が話していたから。ハリーとはオーディションではなく、ワークショップという形でこの役について話し合ったんだ。彼は素晴らしいし、歌も演技もできる。でも、ハリーはすでに確立した音楽界のアイコンだ。エルヴィスも当時のアイコンで、ハリーがエルヴィスを演じたら、観客はハリー・スタイルズとして見てしまう危険があった」
そんな中、オースティンが現れ、キャスティングできたことは「奇跡だった」と表現する。通常のオーディション方法ではなく、「彼とワークショップで作業を続けていたのがそのまま撮影につながっていった」そうで、「初めて会ったときからずっと一緒に共同作業を続けた感じだ」という。
若い頃の歌はオースティンが全部歌っている
さらに、映画後半ではエルヴィス本人の歌声が使われ、そのほか一部はエルヴィスとオースティンの歌声を融合させているが、「エルヴィスが若い頃の歌はオースティンが全部歌っている」とラーマン監督は明かす。
「『ベイビー・レッツ・プレイ・ハウス』『トラブル』『ブルー・スエード・シューズ』なんかはオースティンがすべて歌っている。でも信じない人がいるから、TikTokにオースティンが衣装を着て歌っている姿をアップしたりしているよ」
すべてをエルヴィス本人の歌声にしなかったのは、エルヴィス初期の楽曲がステレオ録音ではなく、モノラル録音だったため、技術的に使えなかったという事情があるらしい。映画で使うにはエルヴィスの歌声をバンド演奏から切り離す作業が必要だったが、モノラルの場合はそれができず、「エルヴィスのモノマネをしている人の声を使う手もあったんだけど、オースティンが歌えるとわかってビックリした」そうだ。
エルヴィスとエミネムの共通点
今もなお、色あせることのないエルヴィスの魅力はどこにあるのだろう。音楽にも造詣が深いラーマン監督は、韓国の人気ガールズグループ・BLACKPINKのロゼと話したときのことを「エルヴィスを知っているか聞いたら、『リロ&スティッチ』の! とジョークのように言ったんだ。それは年を取ったエルヴィスのイメージであった」と振り返る。ディズニーアニメ『リロ&スティッチ』のリロはエルヴィスが大好きで、劇中でもエルヴィスの楽曲が使用されている。
「でも、若い頃のエルヴィスは世界で最初のアイドルでパンクだった。メイクをしたり、女性ものと思われるファッションやピンクの洋服を着たりした。黒人音楽と慣れ親しんで、双子の兄を生まれるときに失って、父親は刑務所に入れられた」とラーマン監督。そして、そのスタイルや生い立ちは本作のサウンドトラックにも参加している人気ラッパーのエミネムと似ているところがあると指摘する。
「エミネムも黒人社会の中で育ったし、トラウマを抱えていた。そして、ブラックミュージックをやって、自分のヒップホップスタイルを確立していった。それはエルヴィスがやったことと同じ。エルヴィスとエミネムは反逆児だったんだ」と現代にも通じるその魅力を語っていた。(取材・文・撮影:中山雄一朗)