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新ヒロインは映画館でスカウト!『レッド・ロケット』監督のキャスティング術

ショーン・ベイカー監督が見いだした新星スザンナ・サン
ショーン・ベイカー監督が見いだした新星スザンナ・サン - Taylor Hill / FilmMagic / Getty Images

 元ポルノ男優と17歳の少女との出会いを軸に、アメリカ社会の片隅で生きる人々のリアルな姿を鮮烈に描いた映画『レッド・ロケット』。ヒロインを演じたスザンナ・サンは、メガホンを取ったショーン・ベイカー監督が、何と映画館のロビーで自らスカウトしたというシンデレラガールだ。「ズームレンズで抜かれたかのように一瞬にして彼女に目を奪われた」というベイカー監督が、映画作りへの真摯な思いとともに、出会いを逃さない独自のスカウト術について語った。

【画像】かわいすぎる!映画館でスカウトされたスザンナ・サン

 本作は、『タンジェリン』『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』など、アメリカ社会に埋もれた“声なき声”をすくい上げ、独自の表現で発信してきたベイカー監督の最新作。落ちぶれた姿で故郷テキサスへ舞い戻ってきた元ポルノ俳優のマイキー(サイモン・レックス)は、別居中の妻レクシーと義母リルの家に何とか転がり込み、マリファナを売りさばきながら日々をやり過ごしていた。そんなある日、ドーナツ店で働く少女ストロベリー(スザンナ)と出会い、彼女の魅力を搾取しながらポルノ界への再起を夢見る。

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新たなミューズ、スザンナ・サンとの電撃的な出会い

レッド・ロケット
映画『レッド・ロケット』よりマイキーとストロベリー - (C) 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 元ポルノ男優マイキーと17歳の少女ストロベリー。本作の軸となる二人をベイカー監督は、独特の方法でキャスティングした。まずは主人公マイキーを演じたサイモン。役とリンクするようなスキャンダラスな経歴を持つ彼を抜てきした決め手は、なんとSNSだったのだとか。「彼の場合、Vine(6秒間のショート動画共有サービス)で発信していた映像が面白くて、毎日笑わせてもらっていたんだ。キャリア的には浮き沈みもあったけれど、『最“狂”絶叫計画』などのヒット作にも出演していて演技も魅力的だし、最近、Instagramを通して彼がまた盛り上がってきているのを見てオファーをかけた」と明かす。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のブリア・ ヴィネイトもInstagramで発掘しているが、ベイカー監督にとってSNSは、ビジュアルやパーソナリティーを知る上で「とても便利なツール」という認識があるようだ。

 そして、本作をより魅力的な作品へと導いたヒロイン・ストロベリー役のスザンナとの電撃的な出会い。これはベイカー監督作品の伝説として語り継がれるかもしれない。「出会いは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも出てきたドーム型の有名な映画館アークライト・シネマズ。ロビーには50~60人いたけれど、まるでズームレンズで抜かれたかのように、スザンナだけに目が行ってしまった」と告白。「それこそ彼女には、肉体から醸し出すエネルギーだったり、オーラだったり、物腰だったり……言葉では表せない何かスター性みたいなものを感じたんだ。僕はキャスティングも自分でやるんだけれど、『この人は大きなスクリーンに映し出されるべきだ!』と思う瞬間がいつ来るかわからないから、常に名刺を持ち歩いているんだ(笑)。スザンナとはまさに『そのときが来た!』という出会いだったね」と述懐する。

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 さらに、幸運なことにスザンナは俳優志望で、スターを夢見てハリウッドに来たばかりだった。「後から知って驚いたよ。しかも、ミュージシャンとして歌も歌えることがわかり、彼女の提案であのうっとりするような弾き語りのシーンが生まれたんだ」と興奮気味に語るベイカー監督。「彼女もかなりのシネフィルで、好きな映画が同じだったりして、お互いの感受性がとても似ていることもだんだんわかってきて。何というか、僕にとっては贈り物のようなことが次から次へと明かされていった感じだったね。撮影に関しても、確かにエロティックなシーンは大変だったとは思うけれど、度胸もあるし、事前に話し合ってもいたから、全然問題がなかった。むしろ、いろんなアイデアを出してくれたので、演者と同時に素晴らしいコラボレーターでもあったんだ」と撮影当時を振り返った。

コロナ禍の影響で想定外の作品に!?

レッド・ロケット
映画『レッド・ロケット』よりマイキーとストロベリー - (C) 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 当初、一筋縄ではいかないラブストーリーをバンクーバーで撮影する予定だったというベイカー監督。ところが2020年、コロナ禍が始まり、国境は閉鎖され、企画は頓挫。約1か月間、巣ごもりを余儀なくされたが、痺れを切らした彼は脚本を変更し、テキサスシティを舞台に少数精鋭のクルーで本作を作り上げることを決断した。「想定外の作品にはなったけれど、ポルノ男優のマイキーを主人公にすることだけは変わらなかった。もともと『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』を制作する過程でポルノ業界をリサーチしていたとき、ある男優の話を聞いて興味を持ったのがきっかけで、それがマイキーというキャラクターの原型になっているんだ。ラブストーリーではなくなったけれど、彼だけは残したかったんだ」と経緯を語る。

 他人の夢につけ込んで、彼らの希望や労働を食い物にするマイキーのような男を“スーツケース・ピンプ”と呼ぶそうだが、ベイカー監督はこの有害なキャラクターをこう分析する。「彼は自分のネガティブな状況に向き合えない男。全ては他人のせいなんだ。そこに今の“アメリカ的”なものが見えるはず。自分の成功は追い求めても、その横で踏みにじられている人のことは気にしない。そういうところは間違いなくアメリカの特性だと思うんだ」。舞台をテキサスシティの重工業地帯にしたことにも、「アメリカの全てをここに見た。アメリカの誇りと感覚、そして過去のものになりつつある産業が見えたんだ」とその意図を明かす。

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 ただ、撮影においては利点もあった。これはあくまでも結果論だが、「テキサス州は規制が緩かったから、コロナ禍ではあったけれど、すごく自由に撮ることができたんだ。撮影場所が近かったこともあって、スティーヴン・スピルバーグ監督の『続・激突!/カージャック』のような風景を捉えたいと思って、16ミリフィルムを使ってかなりこだわったからね。これがハリウッドだったらこうはいかなかった」と苦笑いを浮かべた。

見過ごされたリアルな社会問題を描き続けたい

レッド・ロケット
映画『レッド・ロケット』より - (C) 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 それにしても、『タンジェリン』では性的マイノリティーの心情に寄り添い、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ではサブプライムローン危機の被害者にスポットを当てるなど、アメリカの社会問題に独自の表現方法で斬り込むベイカー監督の姿勢には一貫性がある。それに関して監督本人は、「映画はそれぞれの解釈で捉えてくれればいい」と前置きしながらも、描きたい“核”は「自分の中にもある」と静かに語り出す。

 「今、新作をクランクアップしたばかりなんだけど、その作品は、富裕層の中で階級が分断し、衝突する姿を描いているんだ。そういった階級ものは今後作るかどうかはわからないけれど、それも含めて社会に埋もれてしまいそうなリアルな問題は今後も重要なテーマになっていく」と明言。さらに、「振り返ってみると、アメリカのテレビや映画を観ていて、『まだ描き足りていないな』と思うものが、自分の題材になっていると思うんだ。それは例えば、今まで無視されてきたコミュニティーだったり、今回のようにネガティブなイメージがつきまとう職業だったり、あるいは勝つはずがない人々が努力を重ねて何かを乗り越えたりする物語であったり……そういった部分って、自分にとっては外せないテーマだからね」と締めくくった。(取材・文:坂田正樹)

映画『レッド・ロケット』は4月21日よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国順次公開

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