「VIVANT」最終話、的中している考察は一つもない 公安監修者が明かす別班の謎&公安のリアル【独占インタビュー】
堺雅人が主演を務めるTBSの日曜劇場「VIVANT」(毎週日曜よる9時~)が、17日の放送で最終話を迎える。想像を超える展開が待ち受けるスリリングな物語を、よりリアルなものに仕上げるために尽力したのが、公安監修を務める勝丸円覚だ。元公安警察官でもある勝丸が独占インタビューに応じ、ドラマで話題になっている秘密の特殊部隊「別班」の存在や、原作・演出を担当する福澤克雄監督との制作秘話を明かした。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
【画像】空を見上げるノコル…「VIVANT」最終話場面カット
勝丸は、1990年代半ばに警視庁へ入庁。2000年代初めに公安配属後は、外国の日本大使館でも数年間勤務するなど、外事畑を歩んだ。現在は、セキュリティコンサルタントとして国内外で活躍しており、著書「警視庁公安部外事課」(光文社)も出版している。
「別班」という名はすでに消滅?謎多き特殊部隊
Q:「別班」について、TBSの公式インタビューでは「います」とお話されていました。政府は存在自体を否定していますが、実際、別班についてはどの辺りまで知っているのでしょうか?
前提として、自衛隊は外国からの武力攻撃から日本を守る組織。公の情報だけで武力と戦うとしたら、それは間違いです。表に出ない情報や相手の心は、ヒューミント(注:人による情報収集活動)で手に入れています。正規の情報収集だけでは、国を武力から守ることはできないのです。
つい先日、石破茂元防衛相も別のインタビューで発言していたように、別班はあります。しかし、存在を認めてしまうと「何人いるの?」「予算は?」「活動内容は?」と大変な事態になってしまうんです……。
これは本当の話で、「VIVANT」が始まってから(別班員に)会いました。その人が言っていたのは、「別班」という呼び方は一時期していたものの、現在はその言い方をせず、後継組織が存在しているそうです。当然、ドラマのような暗殺活動はしません。ヒューミントが中心です。
また、ドラマのように別班員が商社等に潜入することは、実は費用対効果があまりよくありません。任務のために経歴を抹消して、安全を保証して、家族や年金を維持することは、かなりの労力と費用がかかります。それよりも、対象組織や周辺に協力者を作って運営して、いい情報が取れなくなったら終了にした方が、全然効率がいいです。
Q:公安監修はどのような役割を担っているのでしょうか?
福澤監督が私の本を読んでくださっていたそうで、1年前にドラマチームから「福澤監督が会いたがっているので、来てもらえますか?」と呼ばれたのが最初です。
その時は、福澤監督がまだ(脚本を)執筆途中で、ある程度書き上がっている草稿がありました。監督が書いたということを知らずに読んでビックリしたのは、海外での外事警察の情報収集活動などを描いた作品はほぼないのに、私のような経験者から細かく聞き取りしたのかと思う内容だったこと。その後、福澤監督の独自の着想ということを知って「この人は天才だ」と驚きました。
公安監修として参加して最初に行ったのは、ブレーンストーミングでした。架空の国・バルカの国境を、阿部寛さんふんする公安の野崎守と、外交官ではない人が越える時、どんな方法を思いつきますか? という課題には、「偽造パスポートを作って、ロシア方面に逃げるのはどうですか?」と提案したところ、ドラマで実際に採用されていたりもしました。
ベキの話は本当!公安内部でも情報共有はNG
Q:第9話では、テロ組織「テント」のリーダーで元公安のノゴーン・ベキ/乃木卓(役所広司)が「任務の実態を公安内部でも共有しないことが通例だ」と息子・乃木憂助(堺)に話しました。勝丸さんも、現役時代は同僚の任務を一切知らずに活動していたのでしょうか?
ベキの任務は本当に特殊で、完全なる潜入捜査です。潜入捜査に携わる際は、本人、間を取り持つ人間、上司の縦のラインだけが情報を知るので、デスクの人間や隣の班のメンバーも全くわかりません。「潜入かな?」と勘づくこともありますが、それ以上聞けないし、教えてくれません。あのレベルの深い潜入捜査の場合は、完全に横のつながりに情報共有はありません。
外国の日本大使館に行く前、私はロシアのスパイを追うスパイハンターの任務に就いていました。時期によって数は異なりますが、数人(5~6人)編成の班が6個以上あるんです。情報共有するといい成果が出そうな秘匿捜査(注:身分を隠して行う捜査)では、絶対に別の班と連絡は取りません。というのも、班内に裏切り者が出た場合、もしくは捕まって拷問に遭った時、知らないことは話せないじゃないですか。みんなが班のことを仲良く共有していたら、漏洩した時に全てバレてしまいますよね。だから、班のことは班以外の人間は絶対に知ってはいけない。これが、公安外事警察の掟です。
私が外事警察に入った二十数年前、(別の班と)一堂に会することはなかったのですが、例えば自分のデスクに行った時、たまたま会った隣の班の人間と目を合わせただけで怒られました。話すことなんて、絶対にダメですよね。私より下の世代になったら、挨拶はしましたが、「昨日どこへ行った? 今日どこへ行く?」といった仕事の話は絶対にしません。「VIVANT」でベキが話した内容は正しいです。
新庄のミス連発はアウト?公安は「失敗しないことが前提」
Q:警視庁公安部・外事第4課に所属する新庄浩太郎(竜星涼)は「公安ではなく、別班では?」と考察する視聴者もいます。尾行に二度失敗したり、公安らしからぬミスも目立ちますが、勝丸さんはどのようにお考えですか? 現実では、新庄のようなミスが連続すれば職を失う可能性もあるのでは?
まず前提として、公安はスーツを着て、20メートルぐらいしか離れていない距離で尾行はしません。「VIVANT」ならではの演出になります。福澤監督から求められたのは、「真実の世界はいらない」ということ。真実の世界を書いてしまったら、ドラマが面白くなくなってしまいますからね。
新庄のミスについて、現実では一度失敗すると、(相手に)顔がバレてしまっている可能性があります。失敗した本人も埋め合わせをしようとして、焦ったりもしてしまうので、見失った場合は一回現場を外れて、無線を聞く仕事やデスクワークといった裏方に回ります。また、「VIVANT」のような重要な場面で二度もミスしてしまったら決定的です。現場から外され、永久とまではいきませんが、デスクや分析の仕事に回されます。
外事警察は選び抜かれたスーパーエリートなので、失敗しないことが前提です。全員が「日本一尾行がうまい」と自負している人たちの集団なので、失敗することはまずないでしょう。
Q:「VIVANT」は17日で最終話を迎えます。勝丸さんが最終話に期待することは?
「VIVANT」では愛国心、家族愛、親子愛とさまざま愛が描かれていますが、最後は愛と愛のぶつかり合いになると思います。乃木にとって、究極の選択になるでしょう。
また、私が知る限りでは、ドラマの結末をピタリと言い当てている考察は一つもありません。言い当てられないと思います。私は第9話までの製本された台本が手元にありますが、最終話は仮製本のものなので、どれが採用になるかはオンエアされないとわかりません。どのオプションが採用されたとしても、考察が100%合致しているものはありません。それくらい、とてつもないラストが待ち受けていると思います。