『インサイド・ヘッド2』ライリーが成長してかわいくなくなった?キャラクターデザイン秘話
ディズニー&ピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』でキャラクターデザインチームのリーダー(キャラクター・アート・ディレクター)を務めた日本人アーティストの村山佳子がインタビューに応じ、成長して思春期を迎えたライリーをどうデザインしたのかを語った。
成長したライリーのデザイン担当になった際、すでにケルシー・マン監督の中で軸となるアイデアは固まっていたと村山は振り返る。「ライリーはお母さんより背が高くなったけど目立ちたくないから常に猫背で、歯を矯正していて、にきびに困っている、といったことが決まっていました。ライリーには前作のデザインがあるのでやりやすい一方、きちんと同一人物だとわかるようにしないといけない点は難しかったです。ファンが手厳しいので」と笑う。
そうして生まれたのは等身大で愛らしいライリーだが、アメリカのInstagramなどでは「ライリーがかわいくなくなった」というコメントをよく見かけるのだとか。「それはある意味、その通りなんですよ。思春期って、顔が子供でもないけど大人でもなくて、ちょっと不思議で気まずさがある時期。それを表現したいと思っていました。“ライリーを美しく描く”というのはゴールではなくて、不完全さも全部含めて等身大のかわいい13歳を表現したかったんです」。思春期のライリーは“誰しも愛されるために完璧である必要はない”という本作のテーマにも合致した、村山の狙い通りのデザインなのだ。
村山はリーダーとしてチームを率いるほか、成長したライリーに加え、新たに現れた大人の感情「イイナー」と「ハズカシ」、ライリーが密かに好きでい続けている昔のゲームキャラクター「ランス・スラッシュブレード」のデザインもメインで担当した。中でも苦労したのは、嫉妬の感情イイナーだという。
「嫉妬ってあまりかわいい感情ではないので、どのバージョンのイイナーも『いやー、かわいくないね!』『好きになれないね!』というのが問題でした(笑)。でもある日、監督とプロダクションデザイナーが『雨に濡れた子犬みたいな顔でイイナーっていうのは?』と言っていて、それだ! と」
そうしてイイナーの方向性が決まると、100デザインくらいしてマン監督に見せたという村山。「イイナーは英語だとEnvy(嫉妬)という名前なのですが、Envyは“近く見すぎる”とか目に関する言葉のInvidiaから派生したものなんです。なので、目はキラッキラに強調しようと思いました。“羨ましい”という表現も目がキラキラしていると、ポジティブな感じがするので」
「そうして100くらいデザインしたうちの何個かが『これいい感じじゃない?』となり、その監督が気に入ったデザインを基にさらに焦点を絞っていくんです。監督が納得できるキャラクターが出来るまで、またいっぱい描いて見せて、描いて見せて、という作業でした。わたしが担当する以前から他の方がやっていたので、完成までに1年弱くらいかかったんじゃないでしょうか。わたしが担当してからでも多分、3、4か月くらいかかったと思います」
そうして生まれたキャラクターたちに色を付けたのは、シェーディング・アート・ディレクターのビル・ザンだ。ヨロコビは黄色、カナシミは青色など感情それぞれを表すカラーがあって色鮮やかな頭の中の世界だが、前作『インサイド・ヘッド』(2015)制作時には続編を作ることなど想定していなかったため、新たな感情の色を見つけるのが一苦労だったのだそう。
「ビル・ザンさんがキャラクターも背景も全部、色の担当をされたのですが、彼が言うには1作目が全ての色を使い切ってしまったと。だから困ったね! となって、本当にものすごい量のさまざまなコンビネーションを考え、今のものに落ち着きました。今見ると『簡単だったかも』『なんで最初からこれにしなかったんだろう?』と思えるのですが(笑)、本当にすごい距離を行った後にここに戻ってきた、みたいな感じです」と明かしていた。(編集部・市川遥)
映画『インサイド・ヘッド2』は公開中