『ドクター・ストレンジ』監督が挑んだ“ロマンス”の新境地 恋愛主軸のSFスリラー『深い谷の間に』誕生の裏側

Apple Original Films『深い谷の間に』を手がけたスコット・デリクソン監督がインタビューに応じ、“ロマンス”を軸に描いたSFスリラーの裏側、代表作であるマーベル映画『ドクター・ストレンジ』(2016)との対比について語った。
本作の舞台は、誰も足を踏み入れることができない山間に位置する深い渓谷。その谷の東西にそれぞれ建てられた監視塔では、極秘任務を遂行する敏腕スナイパーのリーヴァイとドラーサが生活している。外との連絡手段は断たれ、監視塔同士の連絡も禁止。やがて二人は、与えられた任務が、谷の中に潜む“危険な秘密”から世界を守るためだと知る。
『トゥモロー・ウォー』(2021)などのザック・ディーンが手掛けた本作の脚本は2020年、ハリウッドの映画業界で活躍するプロデューサーらが選出する「most liked<最も好まれた>」長編映画の脚本を集めた「ブラックリスト」に登録された。リストに選出された脚本の中には、『ソーシャル・ネットワーク』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『パッセンジャー』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』など映像化され話題になったものが多数存在する。

今から数年前、『深い谷の間に』の脚本を読んだデリクソン監督は「脚本のロマンチックな要素が個人的にとても響きましたし、その部分がとても美しく書かれていると感じました」と振り返る。コロナ禍で執筆されたディーンの脚本には、孤独や分断、遠方への憧れが強く表れていたことはもちろん、「ジャンルを巧みに融合させている点も気に入りました。これはロマンチックなSF、アクション、ホラー、政治スリラーです。これほど多くのジャンルが融合している脚本を読んだことがなかったし、それらがとても自然に描かれていたので、純粋に受け入れることができました」とジャンルミックスな内容にも惹かれたと語る。
ジャンルミックスといえば、デリクソン監督がアクションやホラー要素などを詰め込んだ『ドクター・ストレンジ』を連想させる。「『ドクター・ストレンジ』で得た経験は大きいです。私はそれまであの規模の大作を手掛けたことがありませんでした。『ドクター・ストレンジ』で高予算映画の製作プロセスを学びました」と同作で得たノウハウが、『深い谷の間に』でも応用されたという。
またデリクソン監督は、本作と『ドクター・ストレンジ』の違いについて「『ドクター・ストレンジ』は “自己克服” をテーマにした映画ですが、『深い谷の間に』では“恋愛”が主軸になっています個人の成長にフォーカスしていた『ドクター・ストレンジ』に対して、この映画は二人の関係性を軸に展開します」と説明する。「物語に組み込まれた各ジャンルは虹のようなものです。一番大きな虹(アーチ)を形成するのはロマンスで、その下にSF、アクション、ホラー、政治スリラーが続きます。谷の間に入った後も、恋愛要素を維持することが重要でした。戦闘中であっても、二人が互いを気にかけ、守り合い、協力し合う関係を描くことで、すべてのジャンルを結びつける『接着剤』としてのラブストーリーを強調しました」

任務中に惹かれ合う二人のスナイパー・リーヴァイ役とドラーサ役には、『トップガン マーヴェリック』のマイルズ・テラーと、『マッドマックス:フュリオサ』などのアニャ・テイラー=ジョイが起用された。デリクソン監督曰く、最初に思い浮かんだのはドラーサ役で、その後にリーヴァイ役について熟考したという。
「重要だったのは、繊細でニュアンスに富んだ演技ができる俳優を選ぶことでした。この映画では、(監視塔の)バルコニーで双眼鏡を通して見ている場面など、微細な表情の変化や繊細な演技が求められる場面が多く、そこが物語のカギになります。アニャもマイルズも過去の出演作で繊細な演技を見せていたので、彼らならできると信じました。さらに幸運なことに、二人のケミストリーも抜群でした」
さらに、共演には『エイリアン』シリーズの主人公・リプリー役で知られるシガーニー・ウィーヴァーが名を連ねる。キャスティングについて「単にSF界のアイコンだからではなく、彼女が『ヒーロー』 のイメージを持つ女優だからです」とデリクソン監督は語り、「シガーニーは想像以上にプロフェッショナルで知的で、映画全体に深く関心を持ってくれる素晴らしい方でした。キャストやスタッフに対しても、とても親切で温かい人でした」と振り返っていた。(編集部・倉本拓弥)
Apple Original Films『深い谷の間に』Apple TV+にて配信中