二つの季節しかない村 (2023):映画短評
二つの季節しかない村 (2023)くだらない営為の中に
ある村で教師のグルーミング容疑が立ち上がる、とのくだりは『偽りなき者』を連想させもするが、本作の美術教師サメットが取る偏狭な怒りの態度は曖昧な薄汚さを加速させる。フォトジェニックに撮られた極寒の辺境。壮大な自然と閉鎖的な環境の中で浮かび上がるのは、人間という生き物の卑小さ。しかし彼らの生態はまさに我々の事だと、ブーメラン的に跳ね返ってくる距離感が絶妙で震える。
とりわけサメットと政治活動家でもある英語教師ヌライの“ある一夜”は見所。両者白熱しながらも平行線をたどる議論の先にあるものとは――。『雪の轍』のヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は人間の渇きを見据えながら、何より言葉の空虚さを射抜くのだ。
この短評にはネタバレを含んでいます