5月11日にウッディ・アレンの新作『カフェ・ソサエティ(原題)』の上映で開幕する第69回カンヌ映画祭。発表になったラインアップから、一足先に今年のカンヌを俯瞰してみよう。
まず、コンペティション部門は、ここ数年ますます顕著になってきた保守化傾向を踏襲し、すでに国際映画祭で受賞経験のある名の通った有名監督やベテラン、巨匠が並んでいる。が、それに対して、ある視点部門には全17本のうち7本が新人の長編デビュー作が並び、今年は2つの公式部門の色分けがさらにはっきりした。残念ながら日本映画はコンペに入らなかったが、深田晃司監督、浅野忠信主演の『淵に立つ』、是枝裕和監督、阿部寛主演の『海よりもまだ深く』の2本が、ある視点部門に選ばれた。
ではコンペの顔ぶれを紹介しよう(以下、紹介する題名は仮訳です)。まずはパルム・ドール受賞組から社会派の2巨匠を。『ロゼッタ』と『ある子供』で2度のパルム・ドールを受賞したベルギーのジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌの『ザ・アンノウン・ガール(英題)[見知らぬ娘]』は、若い女性医師が、時間外の診察を断ったために死んだと思われる娘の身元を調べることになるという話。『麦の穂をゆらす風』でパルム・ドールを受賞したイギリスのケン・ローチ監督の『アイ・ダニエル・ブレイク(原題)[俺、ダニエル・ブレイク]』は、仕事中の怪我で労災を申請しようとする大工と彼が出会ったシングル・マザーを主人公にイギリスの福祉政策の現状を描くもの。そして東欧の鬼才、『4ヵ月、3週と2日』でパルム・ドールを受賞したルーマニアのクリスティアン・ムンジウの『バカロレア(原題)[大学入学資格]』は娘に対する親の力を描くもの、らしい。対するニューヨーク・インディーズの雄ジム・ジャームッシュの『パターソン(原題)』は、ニュージャージー州パターソンを舞台にしたバスの運転手と詩人の話。主演はアダム・ドライバーとゴルシフテ・ファラハニ。ジャームッシュは『コーヒー&シガレッツ』で短編パルム・ドールを受賞している。
続いて意欲満々な有望候補組を。まだパルム・ドールを受賞していないのが不思議なスペインの巨匠ペドロ・アルモドバルの『ジュリエタ(原題)』は、カナダのノーベル賞受賞作家アリス・マンローの短編小説3編の映画化。2年前にコンペティション初登場でパルム・ドールを狙った『Mommy/マミー』が審査員賞に終わり、がっかりしていたカナダの天才少年グザヴィエ・ドランの『イッツ・オンリー・ザ・エンド・オブ・ザ・ワールド(英題)[世界の終わりに過ぎない]』は、死を目前にした小説家が疎遠だった家族に死を告げるに帰るという話で、主演はギャスパー・ウリエル。2月のベルリン映画祭に続いてカンヌ映画祭のコンペティションに登場する国際映画祭の期待の星ジェフ・ニコルズ『ラヴィング(原題)』は、黒人と白人との結婚が違法とされた1958年のヴァージニアで実際にあった物語の映画化。ジョエル・エドガートンとルース・ネッガがラヴィング夫妻を演じる。『シーズ・ソー・ラヴリー』で男優賞を獲ったり、審査員長を務めたり、カンヌと縁の深いショーン・ペンの『ザ・ラスト・フェイス(原題)』は、アフリカで援助活動を指揮するシャーリーズ・セロンと医師ハビエル・バルデムが、政治的社会的混乱に巻き込まれ、苦渋の選択を強いられる。噂のカップル、ペンとセロンが揃ってレッドカーペットに登場することは間違いない。
アジアからはフィリピンのブリランテ・メンドーサ『マ・ローザ(原題)』、イランの巨匠アスガー・ファルハディ『ザ・セールスマン(原題)』、韓国のパク・チャヌク『ザ・ハンドメイデン(英題)[アガシ(娘さん)]』の3本。3人ともカンヌ映画祭ではベテランの部類に入る監督なので、パルム・ドールの可能性は十分ある。
実は、私が密かに楽しみにしているのは、『ドライヴ』で監督賞を受賞したニコラス・ウィンディング・レフンの『ザ・ネオン・デーモン(原題)』。若くて美しいモデルのエル・ファニングがキャリアアップのためにロスに行き、美にとりつかれた女たちの餌食になる話らしい。『オンリー・ゴッド』以上の過激な描写を期待したい。
さて、今年の審査員長は『マッドマックス 怒りのデスロード』のジョージ・ミラー。授賞式は5月22日夜、日本時間25時15分からムービープラスで生中継。