あの歌を憶えている (2023):映画短評
あの歌を憶えている (2023)
ライター2人の平均評価: 4
鬼才監督のソフトタッチの味わい
強烈な作風で鳴らしてきたミシェル・フランコ監督が今回は“優しさ”に傾いた。舞台はNY。ジェシカ・チャステイン&ピーター・サースガードという演技巧者をW主演に得て、喪失感や暴力の傷跡など主題は『父の秘密』や『或る終焉』等と共通しつつも、柔らかな癒しを希求するヒューマンドラマに仕上げた。
メインモチーフはまさに原題の“MEMORY”。記憶にまつわる異なる問題を抱える二人がある種溶け合うように互いを補完していく。彼らを繋ぐ要となるのがプロコル・ハルムの「青い影」、そして娘アナの存在。これは監督の成熟か、別アプローチか。今年のベルリン映画祭に出品された新作『Dreams』がどうなっているか楽しみだ。
心を閉ざしたふたりの大人の不思議なめぐりあい
“記憶”というものについても考えさせる、ヘビーな大人の人間ドラマ。ついさっき起きたことも覚えていられないソールと、ずっと昔に起きたことのトラウマから抜け出せないシルヴィア。他人とコネクトできず、内面で葛藤している彼らは、決して出会いを求めているわけではない。にもかかわらず、いつしかお互いにとって大事な存在になっていくのだ。ピーター・サースガードとジェシカ・チャステインというこの世代で最高の実力派が、そんなふたりをリアルかつ繊細に描写。演技を見るだけでもこの映画をチェックする価値あり。暗く、シリアスなテーマはミシェル・フランコが得意とするところながら、この作品は小さな希望を感じさせもする。