略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
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『新しき世界』など数々のノワールの映画に主演したファン・ジョンミンが驚きのコメディー演技を見せるアクション・コメディー。特殊工作員だった過去を隠していた“主夫”の主人公が、凄腕刑事の妻(『SKYキャッスル』主演のヨム・ジョンア)とともに国家的な犯罪に巻き込まれる。そんなバカなと言いたくなる展開もあるが、韓国の宿痾とも言える軍納不正の問題をストーリーに絡めていたり、ガンアクションやカーアクションが迫力たっぷりなのは、さすが韓国映画。それにしてもファン・ジョンミンがここまでやるか。敵地に潜入する方法を見て顎がカクンと落ちたよ。公開中の『ソウルの春』のと見比べてみるのも一興だろう。
リアルタッチの恐竜が大暴れして、しんちゃんをはじめお馴染みのキャラが定番のギャグをやりつつ、かけがえのないひと夏の経験をする。最近出番の少なかったシロの頑張りも堪能できる。コンセプトは十分に達成している作品だと思う。突拍子のない恐竜ギャグも、一緒に見ていた子どもたちには大変受けていた。悪役が自己承認欲求とアテンション・エコノミーの権化のような人物であり(毒親でもある)、首尾一貫した行動をしないのが面白い。賛否両論ある結末については、何らかの前置きが必要だったのでは。北村匠海が演じたビリーというキャラの幼稚な純粋さはとことんタチが悪いのだが、作り手はどこまで意識していたのだろうか。
マスコミ(と一般人)の異常なほどの過熱ぶり、地方都市の閉鎖性、一方的な捜査と化学的な検証によって覆る証拠、証言を拒否する関係者たち……。「毒婦」とまで称されてセンセーショナルに報じられた林真須美被告は冤罪じゃないのか。そう思わせる一方で、林夫婦の保険金詐欺の実態が描かれると思わず絶句してしまう。そして事件にのめりこんでダークサイドに足を一歩踏み込んでしまう二村監督。問題提起を行うドキュメンタリーでありつつ、強いストーリーテリングと映像によって思わず犯罪と家族をテーマにした韓国映画を見ているような気分になる。エンターテイメントとして成り立っているからこそ、本作は力が強い。
今度のテーマはズバリ「思春期」。感情の数が一気に倍になることで思春期の複雑さを表現している。ティーンの揺れる感情と行動の裏側を見事に絵解きしているが、これは同時に私たちの物語でもある。人はあるとき突然、友情や人としての優しさを忘れ、打算的な行動や利己的な行動を取ったり、他人を貶めたりすることがある(よくいるでしょ?)。それはある一つの感情に支配されて行動してしまうからだということが、この作品を見るとよくわかる。物語を盛り込みすぎず、シンプルにしているので非常に見やすく、同時に心の問題についても考えをめぐらすことができる。高難度の役割を見事に果たした日本語吹替版の小清水亜美にも拍手。
才能、嫉妬、努力、焦燥、友情、歓喜、喪失、絶望、執念とかがないまぜになって、美しい四季の風景とともに、突風のように吹き抜けていく58分。原作マンガは静謐さが印象的だったが、アニメになったことで藤野と京本の体温や息遣いが伝わってくる。京本の告白を聞いた藤野が、雨に打たれながらダイナミックに走る場面が素晴らしい。クリエイションに関わる人に限らずとも、こういう瞬間を経験したことがある人は、どんなに苦しくて辛くても、何かに打ち込み続けることができるのだろう。原作者の藤本タツキは「死と和解できるのは創造の中だけだ」という言葉を大切にしているという。何があっても描き続ける藤野の後ろ姿が尊い。