略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。
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ダブルライダー揃い踏みの興奮、本郷猛の哀しみ、一文字隼人の孤独、緑川ルリ子の可憐さ、工場をはじめとする無機質な構造物、シンメトリカルな構図、分岐する引き込み線、次々に登場する意外なキャスト(エンドクレジットでもう一度驚く)、現代の状況を鑑みたテーマ設定と昭和のテレビまんがっぽさ、そして何より隅々まで行き渡ったオリジナル『仮面ライダー』への愛とこだわり。これが『シン・仮面ライダー』の主な構成要素だろうか。さまざまなバランスを取ろうとしているが、結果的にバランスを逸しているのが愛らしい。本作を隅から隅まで堪能できる人は、きっと庵野秀明監督と朝まで楽しく語り明かせることだろう。
「これは自分の話だ」と思う人と、主人公を1ミリも理解できない人とで真っ二つに分かれる作品。とにかく独善的で、他人を侮り、まわりを傷つけ、何かと女性に救いを求めてしまう元売れっ子漫画家の主人公の孤独と醜悪さがこれでもかと描かれているので、「これは自分だ」と思った人は生温かい汚泥に心地よく身を委ねることができる一方、耐え難い人も少なくないかも。主人公が関心のない相手、見下している相手の演技がどれも戯画化されていて、主人公の心象風景として描かれているのと同時に、他人をそういう風に見てしまう彼の絶望と卑しさが透けて見えるのが面白い。90年代から活躍しているサブカルスターがあちこちに顔を出している。
アンソニー・ホプキンス主演『ファーザー』でアカデミー主演男優賞と脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール監督による「家族」をテーマにした第2弾。今回は“息子”にスポットをあてて、親子の人間関係の難しさ、やるせなさを静謐な映像で描き出す。ヒュー・ジャックマン演じる主人公は思春期の息子を愛していて、息子は父親を尊敬しているのに、ふたりの気持ちはお互いに届かずぶつかり合う。そこに至るまでの複雑な事情があるとはいえ、どんな親子にもこのような事態は訪れる可能性がある。父親が“理想の息子”を思うとき、いつも幼かった頃の姿なのがつらい。子どもはいつだって今がベスト。そのことを心にとどめておきたい。
トルコで育ち、ドイツで暮らす主人公の中年女性が、家族との生活に疲れ果てて亡き母の故郷・クロアチアの美しい自然の中にある一軒家へ行くと、そこにはシンプルライフを愛する風変わりな中年男がいて……という、実はあちこちにちゃんと笑いがあるラブコメディー。あちこちとぶつかり合いながらも主人公が自分の幸せを取り戻していく過程で、画面には一度も登場しない母親の人生が浮かび上がってくる脚本が上手い。ドイツ生まれの懐かしのヒット曲、ネーナ「ロックバルーンは99」も上手く使われている。結末もしっくり来たけど、クロアチアで出会う彼がちょっと都合が良すぎる存在なのが気になった。原題は「FARAWAY」。
タイトルからしてメルヘンチックな内容かと思ったら、まったく逆。「理想」「天才」「パーフェクト」なんてキラキラした謳い文句は胡散臭いから気をつけろ、と観客の子供たちに教え込むストーリーだった。さすが、作品を通して何度もさまざまな欺瞞を暴いてきた古沢良太脚本。画面は超絶カラフル。「こんな世界に行ってみたい!」と子供たちに思わせてから、ちゃんと化けの皮を剥ぐ。小学校でも教える「多様性」と「SDGs」をプッシュしつつ、伏線回収もお見事。「ネコ型ロボットは人間の友達」と再確認した上でのドラえもんとのび太の親友感、バディ感にも泣けた。ただし、事件の結末のつけ方の古さには少々疑問が残る。