略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
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映画の最新技術を更新し、世界中の人々を喜ばせるエンターテイメントを作り上げる巨匠スピルバーグが、自身の家族に捧げた自伝的作品。科学と家族を愛していたが、映画を職業として認められなかった父親。芸術とユーモアを愛したエンターテイナーで、自分の思うままに生きようとした母親。二人から影響を受け、二人の間で揺れる主人公が、手を伸ばしたところにいつもあったのが映画だったというわけ。スピルバーグが子供の頃から感じていた映画の恍惚、トリック、畏怖なども描かれるが、「フェイブルマン家」というタイトルでわかるようにメインは家族のお話。スピルバーグが撮影を終えるのが本当に辛かったという気持ちはよくわかる。
移民家族、セクシャルマイノリティ、中年女性の危機、親子の断絶などのさまざまなテーマを、マルチバース設定と暴力的なまでのイメージの奔流の中で描ききったハイパーな一作。ルックはカオスだけど、コアにあるのは“家族”という今も昔も厄介で愛すべきもの。ラストはなるほどなぁ、という感じ。人生いろいろあるし、あのときああすれば良かった、こうしておけば良かったと思うことは無限にあるけど、虚無感や無力感にも負けずに前へ進んでいこうと思わせてくれるミシェル・ヨーのパワーに感服しきり。映画ネタも盛りだくさん。今あえてのバッドテイスト(というか悪ガキ感覚)な味付けに乗れるかどうかは人によるかも。
アウトローで、優しくて、孤独を愛していて、孤独な人を愛していて、相手を否定したりしないちひろさんは、いわば欠点をなくしたフーテンの寅さんに見えた(血縁に縛られていないところは真逆だけれど)。寄る辺のない人や辛いことがあった人たちをくるんで、つないで、自分はフラッといなくなる。邪悪な人間をほとんど描かないのは、そんなのわざわざ描かなくても世の中にたくさんいるということなのだろう。ただ、どうしてもちひろさんの存在はファンタジーに見えてしまう。彼女みたいな存在が求められているのだとしたら、それだけ世の中は疲れているのだと感じる。欠点のない寅さんははたして面白いのかという問題もある。
物語論研究者で「おひとりさま」の女性が、3000年のほとんどを孤独に過ごしていたジン(魔神)とめぐりあい、ある「願い」を口にする。絢爛豪華なSFXファンタジーを想像すると、ちょっと驚くような優しくて大人っぽい作品。主人公の設定からも明らかなように、これは「物語」についての物語であり、孤独と愛についての物語でもある。世界を貫く物語の主人公は自分であり、それはある種の情熱がないと得られないものだと教えてくれる。コロナ禍の只中で撮られた作品とあって、さまざまな災厄や分断も物語の力で乗り越えられるのではないかという語り手の願いが込められているように感じた。
弱者の視線を忘れない女性ジャーナリストと呪いで相手を四角く折りたたんで殺すのが得意な少女呪術師のコンビが、東南アジアからやってきた呪術師が操るゾンビたちと戦いつつ、悪辣な製薬会社の陰謀を暴く。ゾンビパニックホラーというより、呪術ゾンビアクション。超高速で動くゾンビ軍団とのカーチェイス(このゾンビたちは車を運転する!)は見もの。終盤はつい少女ゾンビに肩入れしてしまった。登場人物がおなじみの顔みたいな感じで次々と出てくるのは、ドラマ『謗法 運命を変える方法』の後日譚だから。事前に少しでもドラマを観ておいたほうが圧倒的に楽しめる(クレジット前のエンディングの意味もわかる)。