ちひろさん (2022)：映画短評

アウトローで、優しくて、孤独を愛していて、孤独な人を愛していて、相手を否定したりしないちひろさんは、いわば欠点をなくしたフーテンの寅さんに見えた（血縁に縛られていないところは真逆だけれど）。寄る辺のない人や辛いことがあった人たちをくるんで、つないで、自分はフラッといなくなる。邪悪な人間をほとんど描かないのは、そんなのわざわざ描かなくても世の中にたくさんいるということなのだろう。ただ、どうしてもちひろさんの存在はファンタジーに見えてしまう。彼女みたいな存在が求められているのだとしたら、それだけ世の中は疲れているのだと感じる。欠点のない寅さんははたして面白いのかという問題もある。

アベレージが高い有村架純出演作品なので、本作もまたかなり高めのハードル設定で挑んだのですが、その高いハードルを軽々と越えてきてくれました。
今泉力哉監督作品の中でも上位の一本と言っていいでしょう。何か極端な出来事が起きるわけでもないのですが、最後まで目が離すことができずに映画が進み、気が付けば劇中の登場人物同様、有村架純演じるちひろさんの虜になっています。優しさと厳しさ、ウェットさと飄々とした軽さ、相反する要素を同時に併せ持つ、ちひろさんというキャラクターは有村架純にとっても代表作の一本になるのでは…。