略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
のっけから引き込まれる。見慣れた強盗→逃走でこんなにも興奮させるとは!アニメでしか成し得なかったような画と音のシンクロ。音楽に合わせて編集したのではない。撮影時に曲を流し、俳優や車のみならず、走行や銃撃戦にまで振付けを施すことで可能になった、活劇のコペルニクス的転回。身体が躍動する画と本能を揺さぶる音が絶妙に同期し、快楽の絶頂へと駆け上がる。タランティーノ的でありながらも、オマージュを捧げる名作群を、まるでiPodでシャッフル再生するかのように縦横無尽に取り込み、オタク臭を感じさせない屈託のなさ。ジャンル映画の定石を逸脱し、エンディングへ向かって意外な方向へと向かうハンドル捌きにも痺れた。
猫を消し去り、隕石落下をリセットする、川村元気P「もしも三部作」の趣も匂うが、企画性はキャッチーだ。だが、実写のアニメ変換は滑らかに運ばない。広瀬すずの物憂げな声を得てエロスは増したが、小学生の駆け落ちと花火の形状確認の旅を中学生に換えたことで、無邪気さや危うさは失われた。ギミックの設定でリープはロジカルに、作画によって夢幻は煌びやかになったものの、このジュブナイルにとって蛇足感は否めない。妄想充足度が高まった分、切実な願望は希薄になり、観客が拡げるイマジネーションの余地は狭められた。原作者と影響下の脚本家を招かず、物語性に縛られることのない、シャフトによる換骨奪胎Ver.を観てみたかった。
生きていくための麻薬売買。警察の公然とした腐敗ぶり。マニラのスラム街で常態化した光景に、手持ちキャメラが肉薄していく。ドキュメンタリータッチという言葉では収まりきらぬほど、社会構造の悪循環を再現する強烈な意志が見て取れる。我々はその場に立ち会わされ、当時者性さえ覚えてしまう。過激な手法で麻薬撲滅を進めるドゥテルテが大統領になった国の、愛だの正義だのと綺麗事を言っていられない危うい日常がここにある。権力の横暴に抗うことも出来ず、保釈金を用意するために奔走する家族の姿が痛ましい。サスペンスを味わわせるためではない。ブリランテ・メンドーサ監督は、負の連鎖を断ち切らんとして告発している。
巨大宇宙船、モスクワ墜落――。都市破壊の地獄絵に釣られて観始めた。ハリウッド超大作と見まがうVFX。しかしこのロシア製SFは、大マジメを装いバカげた展開と大仰な演出で和ませる。ヒロインは軍司令官の愛娘。未曽有の事態に、彼女はイケメン異星人科学者と恋に落ち、ヤンキーな元カレの憎しみが爆発する。明らかにマイケル・ベイあたりをお手本に世界標準を狙った節はあるが、本家よりも確信犯的な分、IQは若干高そうだ。とはいえ『第9地区』的な排斥の高まりの末、若者達がナイフやバットを手に『クローズZERO』的な抗争に発展する大ロングに、ただただ唖然。粋なデザインの異星のパワードスーツを、もっと有効活用すべし。
汚れて居住不能になりつつある地球の代替惑星を探す、女性宇宙飛行士の孤独な旅。オマージュ作品を明らかにしてしまうと、たちまちネタバレになりそうだ。このスペイン&コロンビア製作の近未来SFは、低予算ながら、ひねりの効いた脚本と堅実な人間描写で『トワイライトゾーン』的なセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれる。破滅を前にして人間性を求める逃走というテーマからは、アメリカン・ニューシネマ的な匂いも漂う。製作費を浪費した『パッセンジャー』のメインスタッフが、本作から学ぶことは多いはずだ。